道中、古い神社があった。特に信仰の厚い方ではなかったが、ふと立ち寄り旅の祈願をすることとする。帰りにお守りでも買おうと社に寄ってみると、何だか特別に矢が目につく。この神社に矢があるのはなぜなのだろうか。なんだか気になったので巫女さんに聞いてみる。こちらは霊験あらたかな歴史あるこの神社のご神体の破魔の矢どす。と矢の来歴を話し出した。


顔は猿、胴体は狸、四肢は虎、尾は蛇、鳴き声はトラツグミに似ている。夜中に暗闇の中、甲高い笛の様にヒーヒョーと鳴き、空に黒雲立ち込めるとき、稲光と共に現れ宮中に混乱を巻き起こす。

ああっ、雲の中に何かいるっ。確かに光によって何か獣のような影が、厚く集まった雲に映っていた。


陰陽とは星の運行を調べることによって宮中の吉凶を占う役割を負っている。その異形のモノは表れた当初より陰陽寮により対策は練られてきていた。宮中特に天皇にとってその異形のモノは厄をもたらすことは明白であった。現れた日より天皇の御加減が日に日に優れぬものとなっていく。


夜になると何やら囁くような話し声が聞こえる。そうすると決まってどこからか甲高い笛の音が聞こえてくる。ヒーヒョー。途端に夜空が曇っていき、見る間に黒雲から雷鳴が聞こえるようになる。ピカッドドン。闇夜が光によって一瞬明るくなると一寸の間の後、音が地面に叩き付けられ地響きを轟かせる。そして必ず、何らかの目撃情報が出る。鵺が現れた。鵺、その恐ろしい姿を晒すことによって宮中に混乱を招く。


もしや宮中に、何事か厄を齎さんとしている者が居るのではなかろうか。そうゆう噂が実しやかに流布しだす。噂には尾鰭が付き、もはや執務も手に付かずそぞろになるものが後を絶たなくなっていく。


鵺が出たぞー。宮中の護衛を任されてたものの中に弓矢が大層上手なものがおった。鵺の出現とともに厩から駿馬と名高い愛馬を駆りだすと、大通りへ大門から抜け、鵺の現れた方へと手綱を引き搾った。そして黒雲に移る影を目に留めると弓矢を背中から取り出し、弓に矢をつがえ、弦を引き搾る。鋭い眼光を鵺に向け、矢を解き放つ。シャッ。矢は空気を裂き、緩やかに弧を描き目的のモノへと飛んでいく。ズボッ。矢は猿の目に過たず突き刺さった。ぎゃぁぁぁぁ。猿の口からは尋常ならざる悲鳴が発せられ、目からは紫色の血が流れだす。そして、体が闇の煙のように霧散する。後に残ったのは矢のみであった。それから鵺が表れることは二度となかった。


それ以来、矢は邪なものを払うとされ、神社ではお守り側に信者はんに重宝されとるんどす。と巫女さんは締めくくった。帰りに社殿を見上げてみれば、話にあった鵺とそれを成敗した武者の模様が描かれていた。一度、拝礼しその場を離れ旅をつづけた。

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