豆腐小僧

 旅も終わりに近づき、自然と足早に進むようになった。大分、周りの風景も懐かしいものになってきている。小川沿いに道を歩いていると前に行商のような格好の人が歩いている。少し重そうな荷物は、富山の薬売りだろうか。行商人の足を思うようには進めてはいないようだ。あっという間に追いつくとすぐにでも追い越そうとしたその瞬間、おい、またついてきているのかいい加減にしろ。と言われた。びっくりした顔をしているとその行商人が振り返るとそちらもびっくりしたような顔をした。お互いしばらくどういう事なのか探るように目をきょろきょろしたが、行商人がしゃべりだした。あいゃすいやせん。謝った。私は薬売りをしているもので、いろいろな場所を巡っておるのですが。としゃべりだした。薬売りは置き薬の為、置き薬が無くなった頃に定期的にお客さまを訪ねなければなりません。旅の最中なので、歩きながらしゃべるため歩くよう促す。こちらも旅の途中だから特に異存はない。そうこう肩を並べて歩きながら、薬売りは話の続きをする。そうすると、旅の道も頻繁に同じところを通ることになるのです。それはそうだろう。なのでこの道もよく通っておりますが、たまに付いて来るのですよ。と何やら意味深な物言いをする。なにがです?と少し興味がわいたように話を促した。そうすると薬売りは豆腐小僧ですよ。と言った。


豆腐小僧は付いてくる。気が付くと後ろにいるのだ。特に何もしない。ただただついて来る。何か持っている。お豆腐だ。お皿の上に真っ白な豆腐が置いてありそれを両手で大事そうに持って付いて来るのだ。なんの為かはわからない。人間というのはどんな善人でも機嫌が悪いときがある。ましてや普通の人間ならなおさらだ。うまくいかずにむしゃくしゃするときに付いて来られるといじめられることもある。何時迄付いて来るつもりだとやった。豆腐を撥ね退けてしまった。豆腐は地面へ落ちてグシャっと崩れた。その崩れた豆腐を豆腐小僧はかき集めた。なんだか自分のした事がとんでもない事のような気がしてその場を急いで離れた。次に会ったときは豆腐に楓が付いていた。日によって付いている葉が変わることもある。真っ赤な紅葉。いろいろだ。10歳位の男の子か女の子かわからない。一つ目の時もある。ただそんなことはどうでもよいのだ。ああいるな。それだけである。ただそれだけなのである。気の迷いか、ふとそいつの頭を撫でてみる。最初は戸惑ったが顔全体がパッと明るい笑顔となった。まあ、いいか。また仕事に戻るため先を急いだ。あまり気にも留めなかった。雨の日、豆腐小僧は一人たたずんでいた。あまり粗暴の良くない人力が通りがかり、腹が減っていたので豆腐小僧の豆腐を取って食ってしまった。途端に人力は沸々と体中にカビが生えてきた。そのまま苦しんで死んでしまった。豆腐小僧はぷぃとどこかへ行ってしまった。また、別に日には強欲な庄屋が、元手が無料だとこれ幸いに豆腐小僧に用事を言いつけようとしたが、豆腐小僧はまたぷぃっとどこかへ行ってしまった。豆腐小僧は優しい人が好きなのだ。そして、気が付くと何やら付いて来るのだ。


なので先ほどは豆腐小僧と間違えて失礼をいたしゃした。勘弁しておくんなせぇ。と謝った。別に気にも留めていないので全然大丈夫ですよと答えた。そして道中ちょっとしたその相棒に旅の話をしたり、聞いたりして道が分かれるまで暇をつぶしたのであった。



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