お払い箱
「私はもうお払い箱なんです」
アポロがそう口にしたのは、イネスに肩を借りながらバー・エネルギーを出て、少し歩いたときだった。
「お払い箱? どういうこと、アポロ」
「マスター・エリーゼが今度、結婚するそうなんです」
「ああ、ユキナリと? それはよかった、おめでとう」
ユキナリ……幸成とは、エリーゼの恋人だった。細面の、やや印象の薄い顔をしている。イネスもミヤビもいずれ一緒になるものだと思っていた。
「おめでたいです、とても。だけど、私はどうしたらいいんでしょう!」
「はあ?」
ハイになっているからなのか、アポロは感情的な口調だった。
「マスター・エリーゼがミスター・ユキナリと結婚したら、二人でロボ・エリーゼを経営するでしょう。あの店に人員は三人も要りません……正確には二人と一体ですが」
「別にいいじゃん、三人いたって」
「ロボ・エリーゼはそこまで流行ってません。小さな、小さな店ですから」
「アポロ、自分のマスターの店をつかまえて、そこまで……」
イネスは正直なアポロの性格にあきれながらも、なぜアポロが今日めずらしく「飲み」に出かけたのか、納得していた。
そして、自暴自棄(?)になるアポロに、諭すようにこう言った。
「僕たちはロボットなんだよ、アポロ」
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