つぶれた

「お客さん、そろそろ店じまいなんですが」


 バー・エネルギーの店主が、くるくる回る二体のロボットに、申し訳なさそうに言った。


 バー・エネルギーの店員は皆ロボットだが、店主は人間だ。帰って欲しければロボットに「帰れ」と命令すればよい話なのだが、このバー・エネルギーはロボット達の憩いの場。気がよく、ロボットを愛している80代の店主は、そんな野暮なことをしなかった。


店主マスター。この二体、あきらかにエネルギーの飲みすぎです」


 店員ロボットが迷惑そうに言った。「飲み方を知らないんだから……」


「まあまあそう言うな。一体は常連だが、もう一体は久しぶりの顔だな。たしか、ロボ・エリーゼのアポロ、だったかな」


 一度店に来たロボットの顔を忘れない彼は、白いあごひげを撫でながら面白そうに言った。


「エリーゼちゃんが心配してるぞ、きっと」


 ラボ・エリーゼはここからそう遠くない。店主はエリーゼのことを子供のころから知っていた。

 そこに、閉店時間後だというのに、一体のロボットが、景気よく店に入ってきた。


「じっちゃん、極上エネルギー一丁!」


 イネスだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る