発明

「じゃあ、代金も支払ったし、とっとと帰るぞ、イネス」


 ミヤビはショックで放心しているイネスの腕をとった。


「最近、ラボにこもりっきりね、ミヤビ。何か発明してるの? 体調に気をつけなさいよ」


 エリーゼが聞いた。ミヤビは発明に没頭すると寝食を忘れ、人間らしい生活を放棄するので心配なのだ。それでも奇妙で派手なメイクだけはなぜか欠かさないが、目の下のクマは隠しきれていなかった。


 エリーゼの質問に、ミヤビは青いルージュを引いた唇をにいーっと横に引き伸ばして、答えた。笑ったつもりだ。


「まだ内緒だよ。できたら世紀の大発明になる。まあ、楽しみに待っててよ、エリーゼ」


 ミヤビはエリーゼより二つほど年下だが、彼女に対して臆することはない。正確には誰に対しても臆することはない。


「そんなわけの分からない発明ばっかりしてるから、辺境のドーム送りになるんですね」


 アポロがぼそりと言った。


 ミヤビは月に来てからすぐに地下都市ではなく、月面のドーム(しかも辺境)に追いやられた。発明で爆発を起こしたり、火事を出したら地下では困るからだ。そして、その辺境ドームの地下にあるのがエリーゼの店「ロボ・エリーゼ」だ。

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