ラボ・ミヤビ

「最近ミヤビは、自分のラボにこもりっきりね」


 そう言いながら、エリーゼは「ちょっと待ってて」と言い残し、また店の奥へ入って行った。


「まったくだよ。『ラボ・ミヤビ』とか、自分の部屋に名付けたりして。絶対、ここ『ロボ・エリーゼ』のパクリだよ」


 イネスは恨みがましい声で自分のマスターの文句を言った。



「ロボ・エリーゼ」は月面都市の地下にある、小さなロボット販売店である。


 21世紀半ばごろから人工知能を搭載したロボットの普及は高まり、気がつけば人間の生活に欠かせないものとなっていた。

 ロボットは次第に自分で学習し、思考するようになり、人間が命令しなくても、人間の意図をくみ取るようになった。人間と自然に会話できるようになった。

 そうなると、ロボットはもうただの機械ではなく、人間のパートナーだった。


 そして、それは地球も月も変わらなかった。


 21世紀前半の「アルテミス計画」以降、月は開発され、24世紀現在、ひとつの立派な居住衛星となっていた。


 初期の名残で、主に生活の場は地下空間だが、ここ50年ほどで月面上にいくつものドーム型都市が生まれていた。


「はいはい、おまたせイネス、こっちのロボットのメンテナンス終わったから、中においで。きれいにしてあげる」


 ロボ・エリーゼはエリーゼの父親が35年前、地下で始めた店だ。月でももちろんロボットは、人間のパートナーとして、必要だったから。

 ロボ・エリーゼはロボットの販売のほかに、ロボットの簡単なメンテナンスや洗浄を行っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る