2348年 月

ロボ・エリーゼ

――104年前――。


 「ロボ・エリーゼ」の看板が掲げられた、ある小さな店の自動ドアが開いた。


「エリーゼ、またミヤビにやられたよ、このドロドロ落としてくれ!」


 そう叫びながら、ドロドロした、謎の緑色の液体まみれになったイネスが店内に入って来ようとした。


「ダメですよ、イネス。そのままお店に入らないで下さい。床が汚れます」


「ひどい、アポロ」


 液体を滴らせるイネスをアポロは厳しく追い払った。


「アポロ、イネスが可哀想でしょ。今床に保護シートを敷くから、そこで待って」


 店の奥から顔を出した背の高い、30歳くらいの女性が、きびきびした動きで床に保護シートを敷いた。アポロはそれを見て焦った。


「ああ、マスター・エリーゼ、そんなこと私がやるのに。今別のロボットのメンテナンス中でしょう?」


「そうだぞアポロ。マスターをサポートするのが君の仕事だろう? ちゃんとやれよ。やあエリーゼ、今日も綺麗だね」


 イネスは保護シートの上を堂々と歩いて店の中に入った。アポロは出来るなら舌打ちしたい気分だった。


「イネス、毎回毎回言っていることですが、私の所有者マスターに馴れ馴れしくしないで下さい。マスター・エリーゼ、と呼びなさい」


「僕のマスターじゃないもの」


「で、イネス、あなたのマスターが今回、何をやらかしたの」


 エリーゼがくすくす笑いながら、イネスに問う。


「それがさ、いつものことながら、なにがなんだか分からないよ。突然ミヤビは『失敗だーー!』って叫んで、この緑色の、ドロドロした液体が入った入れ物を、僕に投げつけてきたんだよ。僕が抗議したら『ごめん、ゴミ箱かと思った』って」

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