名前・2

「イネス、イネスというのはマスター・ミヤビが付けてくれた名前ですか」


 アポロはすでに地面に寝転んでいるイネスの方を向いた。


「そうだよ。新しい名前が欲しいって言ったら、結構真剣に考えてくれたんだよ、一週間ぐらい。あのミヤビが」


「それは、意外ですね。あのずぼら……いえ、おおらかなマスター・ミヤビが」


「だろう? もう僕は人間だったら泣いてたよ。あんなに感動したことはない」


 イネスが仰向けのまま、泣きまねをした。


「それで、イネスになったんですね。素晴らしい話です」


「いや。ミヤビが一週間考えぬいた名前は、ある資産家が権利を独占しているからと、登録できなくてね。ミヤビはその場でキレて、もう、イネスでいい! はい決定! ってそのときのめり込んでたゲームの、女の子キャラクターの名前を僕に付けた」


「ミヤビらしいですね」


「まったくだよ」


 そう言いながら、イネスの声がどこか柔らかい調子になっていた。ミヤビと暮らしていたイネスはとても幸せそうだった。アポロは遠い記憶を引き出し、そんなふうに思い返していた。

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