ぎしぎし

「……」


「……」


 ぎしぎし。ぎしぎし。


「……」


「……」



 ぎしぎし。ぎしぎし。



「僕らもさ、だいぶ体が軋むようになっちゃったね」


 アポロの後ろを歩くイネスが、腕をわざと大きく振りながら言う。


「最後にメンテナンスしたのが100年前ですからね」


 アポロは自分の手のひらを見つめながら、


「あとは私たちの体内にいるナノマシン頼みです」


 と、人間らしいため息をついた。


「少し休まない? 疲れちゃった」


 イネスが言った。


「イネス、ロボットが疲れるだなんて……まあもう午後6時35分46秒ですから、いいでしょう。ナノマシンが修復作業に専念する時間も必要です」


 アポロとイネスはその場に座った。


「本当なら、月が見えるはずなんですけどね……」


 アポロが暗い空を見上げて呟いた。


「月が見たいかい?」


 イネスが聞いた。


「ええ。もうエリーゼも、ミヤビもいないでしょうけど。自分の、ふるさとですから」


 アポロの声は、淡々としているようで、どこか、哀愁を帯びていた。

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