昔のこと

 二体は再び地上に戻ってきた。


 イネスはその場に仰向けに転がる。


「僕は昼寝するよ、アポロ。食べたら昼寝、と決まってる」


「まだ朝の時間のはずですが。6時42分3秒」


 アポロは呆れたような声で言った。


「ねえアポロ。その『時間』ってあってるのかな」


「イネスの中の時計は時間が違いますか」


「いや、同じ」


「だったら、あっていますよ」


 アポロは少し明るい声で言った。


 ほどなくして、イネスは昼寝……スリープモードに入った。アポロは思った。イネスがよく「昼寝」しているのは、イネスの「マスター」がそうしていたからだ。

 イネスのマスターも、自分のマスターも、もう生きてはいない。人間の寿命は短い。


「この地球ほしがこんなふうになって、100年も経ってしまったんですものね……。は、私ってば、独り言を言ってしまった。人間みたいに」


 アポロはイネスをその場に置いて、少し歩いた。そして、この星に起こった悲劇を思う。

 地球に隕石が衝突して、地球は朽ちた。衝突の衝撃で舞い上がった塵が、地球を覆った。そして、地球から光が消えた。


「アポロ、アポロ」


 イネスが遠くからアポロを呼んだ。


「どうしました、イネス」


「怖い夢を見たよ」


「脳内に保存されている記録が、漏れ出したのですね。どんな夢ですか」


「エネルギータンクからエネルギーが溢れ出して、洪水になって、アポロと僕が必死になって飲んで、二人してデブになる夢」


「イネス、私は散歩してきますから、おやすみ」

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