第13話 『白線の外側』



『まもなく~、1番線を~電車が通過します。白線の内側まで~お下がりください』


 駅員さんの、通過列車を知らせる放送が聞こえると気付くんです。

 白線の外側に立つ、リクルートスーツ姿の女性。俯いていて、とても疲れてそうに見える後ろ姿で。

 駅員さんを呼ぼうかとキョロキョロして、目を戻すと女性の姿は消えています。

 初めは、もう線路に降りてしまったのかと驚きました。

 ホーム下の確認も間に合わず。

 でも、通過列車は何事も無く走り去りました。

 間違えて白線の外側に出たものの、通過列車と気付いてホームの中ほどに戻ったのでしょう。

 初めは、それだけの事と思っていました。


 でも、翌日も同じ状況を見たんです。

 同じ時刻の同じ通過列車。

 同じリクルートスーツ姿の女性が、白線の外側に立っています。


 もう何度も、何度も。

 毎日毎日、同じ女性が見えては消える。

 目の前を人が通ったり、誰かと肩がぶつかって目を逸らすと、女性は居なくなってしまうんです。

 瞬きの瞬間に消えた事もありました。


 あれは誰だろう。

 他の、誰にも見えていないんです。

 通過列車を知らせる放送が聞こえると、白線の外側に現れる女性。

 まさか……と、思わない人は少ないのではないでしょうか。

 でも、周りの誰も、驚く様子はないのです。


 すぐ隣の駅はホームの一番端に階段があるので、この駅でもホームの端に並ぶ人が多いんです。

 女性が現れるのは、その列の少し手前です。

 人目に触れない位置では、ないんですよね。



 毎日見ている内に、他人とは思えなくなってきます。

 いつも私は、女性が現れる位置とは離れた列に並んでいましたが、隣の列で待ってみました。

 翌日は、もう一列隣へ。

 少しずつ、女性に近付きました。

 女性の真横にでも並んだら、その顔を見る事が出来るでしょうか。


 今日は、女性に一番近い列に並びました。

 束ねていたらしいクセの残るセミロングの黒髪が、顔を隠しています。

 彼女の姿を隠す人の列はありません。

 それでも、私の前に並んでいた人が列から離れて電話を始め、彼女の後ろを横切ったタイミングで姿を消してしまいました。



 白線の外側。

 ホームのすれすれに立っていて、誰も気付かないはずがありません。

 この女性は、私にしか見えていないのです。

 そういう存在なのでしょう。

 明日こそ、あの女性の顔を見てみるつもりです。

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