第9話 『猫墓』【人怖】


「最近、ペットの動画を投稿する人、多いですよね」


「うちでも昔、猫を飼ってましたけど。その頃はスマホなんて持って無くて。もっと写真とか動画とか、思い出になるものを残しておきたかったですよ」


「だからペットの動画を撮るでしょ。SNSなんてやってたら、載せたくなるでしょ」


「で、それを批判する奴も多い。動物で視聴件数を稼ぐなとか、やらせだの虐待だの」


「悪戯した犬猫を引っぱたいてる動画も存在はしてますけどね。そんなのばっかりじゃないでしょ。気持ち良さそうな寝姿とか、飼い主に甘えてる鳴き声が可愛いとか。一緒に遊んでる姿が楽しそうだとか。それが大半ですよ」


「動物を飼った事がなくても、動物が嫌がってるならあんなに懐いてないだろってわかると思いますけどね。そんなところ、見ようとはしてないんです。普段の飼い主との関係性とか探す事なく、簡単に虐待って言葉を使って非難して良いと思ってる」


「動物が映ってたら批判して良いとか思う人間が、一定数いるんでしょう」


「重要なのは動物動画を見て楽しんで癒されてる大勢が居る。それを無視して、批判者ひとりがまるごとぶち壊してるってこと。そこだけ見た奴も、動画を楽しんでる奴らごと批判する事になってるなんて考えずに批判に乗る」


「なにを、わかった気になるんでしょうね。批判されてるものを応援する奴は同罪って事にする。それが許されてる事が問題」


「ネットだから許されるのかな。現実だって同じようなものですけど」


「建売分譲って言うんですか。同じような見た目の家が並んでいて。うちの両隣の家が野良猫に餌をやってるんです。うちの庭を通り道にしながら、フンをしていって。迷惑でしょ。猫は悪くないけど」


「人間に餌をもらってるから、俺にも普通に近寄って来たんです。別に何をしようとも思ってませんでしたよ。でも、俺を見上げて人間みたいな声でね。あぁ――って、叫んだんです」


「昔、妹を殺した時も同じ声で叫んでたんです。猫に生まれ変わって、仕返しに来たと思うでしょ。だから殺したんです」



 連続動物虐待容疑で逮捕された男の自供だ。

 猫を殺した理由を聞いても何も答えず。

 話したい事があれば、自由に話してと伝えたら、男はこんな話をしたのだ。

 男は二十歳。8年前に妹が行方不明になり、世話を頼まれていた兄が両親に責められ、それ以来非行に走ってしまったと資料に書かれている。

 机の向かい側で彼の話を聞いていた担当刑事が、こちらに視線を送って来た。

 ミラールームというものだ。

 一緒に居た刑事のひとりが、ミラールームを出て行った。

 僕は刑事ではない。

 近隣住人から彼の異常行動の報告を受けて、警察に通報した動物愛護団体の役員だ。

 実際に異常行動が見られていた男で間違いないか、確認に来ていた。

 彼は確かに、猫の声を異常に嫌がり、寄って来る猫に暴力をふるっていた男だった。

 担当刑事には彼で間違いない事と、野良猫は周りの人間に餌をもらっているとしても、見慣れない人間にまで無警戒で寄っていく事は少ないと伝えた。



 その後の話は、担当刑事に聞いた。

 当時幼かった妹が行方不明になる前、飼っていた猫が死んでいた。

 庭に作られていた古い猫の墓の下で、妹の亡骸が発見されたそうだ。

 8年前に妹の捜索願が出された際、不審がられなかったのなら、穴を掘って埋めた場所はそれほど盛り上がってもいなかったのだろうか。

 それとも、妹を埋める穴を用意するために、猫の墓には初めから細工がされていたのか。

 詳細は現在も捜査中だが、彼は自室のパソコンで、猫の鳴き声の入ったペット動画を見続けていたそうだ。




 ※これはフィクションホラーであり、特定の思考などを批判するものではありません。

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