第8話 『ツクツクボウシ』【虫の描写注意】


 セミの中では、ヒグラシとツクツクボウシが好きですね。

 特にツクツクボウシ。

 夏の後半になると鳴き始めるので、

「あー、やっと酷暑も、そろそろ終わりに向かい始めるかな~」

 なんて思えるから。

 いつまでも災害級の暑さが続く訳ではなくて、しっかり季節は進んでるって思えると安心するんです。



 先日のこと。

 夕方に帰宅すると、西日で熱された屋内は蒸し風呂状態でした。

 エアコンをつけて扇風機を回しながら、窓を開けて室内の熱気を軽く外へ流します。

 裏庭向きの窓の外では、ツクツクボウシの声が賑やかです。

 ところが、急にセミたちの声が止み、ビチビチと騒ぎながら我が家の壁にぶつかる音が聞こえました。

 音の元を見上げると、カラスが旋回して飛び去って行きます。

 カラスがセミに、ちょっかいを出したのかも知れませんね。

 離れた場所から、セミたちの声が再び聞こえだしました。

 そろそろ窓を閉めようかと思っていると、ガサゴソと何か這いずるような音が近付いて来ました。

 一瞬、野良猫かと思いましたが違います。

 猫よりも大きなセミが、体を引きずるように裏庭通路を歩いて来るのです。

 さきほど、カラスにちょっかいを出されていたのは、コレだったのでしょうか。

 私は、ガラガラッと音を立ててガラス窓を閉めました。


 セミの声は毎年聞いていますが、セミの種類ごとの見分けはつきません。

 その巨大なセミは、脈の入った茶色い翅が、ところどころ破けていました。

 よく動くトゲトゲした6本の足は、Gをイメージしてしまいます……。

 黒いピンポン玉のような目に、ガラス越しの私の姿は見えていたでしょうか。

 巨大なセミは辺りを気にする様子もなく、裏庭通路を通過して行きました。



 あの巨大なセミは何だったのか……。

 きっと、暑さで幻覚でも見たのですよね。

 セミが樹液を吸う尖ったくちは口吻こうふんというそうですが、あれに刺されたら死ねる……なんて思いました。


 来年もツクツクボウシの声を聞いたら、夏の終わりの予感と同時に、巨大なセミを思い出しそうです。

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