第6話 『偶然連鎖』


 偶然ではない、全ては必然だ。

 ……とか、そういう話じゃなくてね。


 たまたまとか、偶然とか。

 仕事していると関係の無いクレームが重なったり、忙しい時に限って取引先のシステムエラーで作業が進まなくなったり。

 なんでこのタイミングなんだーって事が重なる。

 そういうの、時々ありませんか。

 交通事故は常に危険意識が必要な事だから、偶然なんて言えない話だけど。

 でも、それに似ていたのかなぁ……。



 僕が歩道を真っすぐ歩いていると、たまたま膝に痛みが走りました。

 そして、よろけた先に電信柱があったんです。

 それさえ無ければ、何ともなかったんですけどね。

 もう狙って行ったとしか思えないような角度で、電信柱に頭をぶつけてしまったんです。

 じゃ済まなくて。頭って多量に出血するものでね。

 通行人が驚いて、すぐに救急車を呼んでくれちゃって。

 冷静に自分の状況を考える隙も無く、

『大丈夫ですか! 大丈夫ですか!』

 の、嵐でした。

 もう無視して、朦朧とした感覚に身を任せちゃえば、まだ現状に目を向けられたのかな。

 大丈夫ですかマンに、

『大丈夫ですから』

『意識はしっかりしてますから』

 とか、くだらない台詞を答え続けている内に、重要書類が赤く染まっていたんです。

 まあ自分自身には、大量出血して真っ赤になってる男の姿は見えてませんから。

 そんなの目の前にしたら、パニックになるのもわかりますけどね。

 でも大声で言わせて下さいよ。


 『大丈夫ですか』は、一回聞けばいいでしょう‼

 優先すべきなのは自分のパニックより、怪我人の安静じゃないですか⁇


 でも、運ばれた先の病院で聞いたんです。

『また膝ですか』

 って。

『また◎さん? あれ、救急を呼んだ人になってる。◎さんて加害者だったよね』

 こちらは本当に視界もぼやけていましたし、緊急時の報告連絡相談ですもんね。

 看護師さんたちが声に出していたのは不思議ではありません。

 それでも、僕はしっかり記憶していたんです。

 救急車を呼んでくれた、大丈夫ですかマンの◎って名前と『加害者』という言葉。



 後から調べてみると、◎さんは同じ場所で自損事故を起こしていたようです。

 例の歩道で転んだらしい老人の、しゃがみ込んでいる姿が気になり、目を向けていたらハンドル操作を誤ったと。

 老人は石に躓いて転んだだけで、歩行能力に問題はないと言い張っていた様子。認知機能にも問題がありそうなものの、まだ認知症の診断はされていないグレーゾーンの人だったらしい。

 衝突はしなかったものの、◎さんが事故を起こしたせいで老人が転んでケガをした可能性もない訳ではなかったのだそう。

 ◎さんの車にドライブレコーダーはあったものの、

『慌てて確認しようとしたら録画を消してしまった』

 という、少々疑わしい状況。

 でもまぁ、目撃者も居ないし被害者かも知れない老人もその家族も、自動車事故より先に石に躓いて転んだと言っているため、◎さんは罰金と免停のみ。

 そして一連の手続き関連が全て済む前に、老人は日頃の不摂生から脳梗塞で死亡している。

 SNSを使いこなすハイテク老人と、そこから繋がるハイテク老人の家族のSNSからわかった内容です。

 妙な繋がりと言うか、偶然も多々ありますけどね。


 僕が一番不思議に思うのは、電信柱にぶつかる前に『膝に痛みが走った』のは、偶然だったのかどうかと言う事なんです。

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