第5話 『舐め痕』【意味怖】


 同じ布団で、2匹の猫と一緒に寝ています。



 冬は、羽毛布団の中でね。

 冷えやすい足元にでも居てくれると嬉しいのですが、2匹の定位置は決まっています。

 1匹は私の左腋。もう1匹は右腰の辺りです。

 寝返りを打つのも難しく、私の体がS字状態になっている事も。

 目覚めればS字腰痛です。


 それは、さておき。

 布団の中で右腕を伸ばすと、右腰の横で丸まる猫を撫でながら眠る事が出来ます。

 撫でていると、私の手を舐めてくれるんです。

 羨ましいでしょ?

 でも、これ。けっこう痛いんです。

 猫の舌はザラザラしているので、同じ場所を舐め続けられるとヒリヒリしてきます。

 手の平では気に入らないらしく、いつも手の甲の同じ場所を舐めてくれようとするんです。


 あれは、とても寒い夜のこと。

 あまり舐めてくれると痛いので、腕を布団の上に出していました。

 肩が冷えるかとは思いましたけどね。

 羽毛布団の上からでも、中の猫の丸みを感じられます。

 目を閉じて数秒の内に、また手の甲を舐められる感触がありました。

 布団から出て来てまで舐めてくれるのかと目を向けると、布団の上には何もいません。

 常夜灯の灯った寝室。

 まだ寝ぼけるほど眠くなってはいませんでしたよ。

 妙に思い、寝室の蛍光灯をつけると、やはり猫たちは布団の中で丸まっていました。

 でも、手の甲には唾液の痕が、てらてらと光っていたんです。

 猫に舐めてもらっても、こんなに唾液まみれにはなりません……。


 すぐに洗面所へ行き、石けんで手を洗いました。

 ぬるっとした感触が、なかなか取れなかったのが忘れられません。



 そんな事は一度きりですが、気のせいだったと信じたいです。

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