第15話 軍隊出動

 時計台で待っていたサルベラ長官らは,20分経っても,なかなか襲撃隊の完了報告が来ず,少々いらだっていた。本来,数分でケリがつくはずなのに,,,


 すると,殺人だ!殺人だ!という大きな声がして,旅館の周囲がパニックになって,人々が旅館から離れる方向に逃げ出した。


 サルベラ長官は,異常事態が発生したものと思い,ここに控えている衛兵10名全員と一緒に旅館に向かった。


 旅館に近づくと,血の臭いがしてきた。


 カロック隊長「長官,中庭の方から血の臭いが強いです。長官,中庭に行ってください」


 サルベラ長官「それは,あなたの仕事よ。私は長官よ。本来,机の上で命令だけしてればいいのよ!」


 カロック隊長「長官って,いい身分ですね。汚れ仕事はいつも部下にさせれるから。たまには,自分で現場を視察してもいいと思いますよ。へへへ」


 サルベラ長官「カロック,減らず口叩かないで,さっさと現場を視察しなさい!!」

 

 カロック隊長は,10名の部下を連れていた。そこで,5名を中庭に行かせた。自分は,旅館の入口で待機した。


 不幸にも,指名された5名は,いずれも下っ端の隊員だ。死体など,これまで見たこともない。その彼らが見たものは,,,,


 5名の内,4名がその場で気分が悪くなり,再起不能に近い状態になった。かろうじて,1名が,なんとか旅館の入口に戻って来て報告した。


 隊員「カロック隊長,サルベラ長官,た,たいへんです。首が,首が,首が,,,,」

 

 カロック隊長とサルベラ長官は,その文をなしていない言葉でも,充分に意味を理解した。それよりも,一番大事なことは,5名が視察に出て,特に危険な目に逢っていないということだ。


 つまり,もうここには犯人はいないと言ってもいい。


 サルベラ長官「カロック,もうここには犯人はいないと思うわ。きちんと視察しましょう。そうしないと,国王にも報告できないし,軍隊の派遣も要請できないわ。カロックは,スリの借りていた部屋に行ってちょうだい」


 カロック隊長「いやです。死ぬかもしれません」


 サルベラ長官「こんなに手際よく殺す犯人がいつまでも現場にいるわけないでしょう!じゃあ,わたしたち全員でいくわよ!私の後ろからでいいからついて来て。死ぬときは全員一緒よ!!」


 サルベラ長官は,不甲斐ない部下を呪ったが,それはやむを得ない。旅館の中に入っても,血の臭いがより一層強く漂っていた。


 カロック隊長「長官,血の匂いすごいですよ。これは,半端ないですよ。殺されますよ!!」

 サルベラ長官「現場をわれわれが見ないで,誰が見るのよ!!全員このまま4階に行くわよ!!」


 サルベラ長官が先頭に立って,勇気を振り絞って,一段一段とゆっくりと階段を上っていった。すでに鼻は,血の臭いで麻痺していた。


 4階に着いて,そこで見たのは,廊下に剣士10名,魔法士10名の首が離れた胴体だった。


 サルベラ長官は理解した。今回の討伐で剣士15名魔法士15名の派遣を要請したものの,たったの2名のスリグループによって全滅させられた。いったいスリグループはどんな手練れなのだ??


 サルベラ長官「全員,至急撤退!王宮に転移しなさい!!」


 上級魔法士の隊員が急ぎ転移魔法陣を起動して,サルベラ長官ら5名とともに王宮に転移した。


 ー 王宮 国王の執務室 ー

 サルベラ長官は,王宮に戻って,国王の秘書経由,国王と面会し,状況を説明した。

 国王は,至急対応するといって,国王秘書に一個軍隊,総勢1000人の軍隊の派遣を命じた。


 国王の命を受けて,1000人の軍隊は,間もなくこの旅館を包囲した。敷地に横たわっていた10名の死体は,すぐに検死官たちによって,詳細に死因が調査された。


 軍隊の隊長,カベールは,魔界でも10本の指に入る,言い換えれば10名しかいないSS級魔法士の1人だ。彼はS級の剣士でもあった。そのため,軍隊の隊長に任命されていた。いわば,エリート中のエリートだ。


 カベール隊長は,温度探知魔法で4階の部屋に何人いるか調べさせた。調査した魔法士Aはすぐに報告した。


 魔法士A「どうも体温が異常に低いけど,死体とも呼べない,死にかけの人が一名いるようです」

 カベール隊長「その人物は,敵か?」


 魔法士A「敵ではない可能性が高いかと思います。サルベラ長官の話では,犯人は男女2人組みです。それに,部屋には1名の被害者女性がいるはずとのことでした。犯人2名はすでに逃亡したと思われます」


 S級剣士達に魔法攻撃無効化結界をかけて,100名を旅館の内部に突入させた。


 千雪が部屋のドアに魔法攻撃無効化結界を起動させてから1時間以上が経過していたため,すでにその結界は消失していた。


 軍隊の突撃隊が突入して30分経過した。


 隊員Bが旅館の入口付近で待機しているカベール隊長に報告しに来た。


 隊員B「隊長,報告します!


 4階の廊下に,魔導士10名,剣士10名が,首をはねられて死亡していました。部屋の中は,一名の女性が意識不明の重体でしたが,生きていました。あと10分遅かったら死亡していたと思われます。現在,魔法士数名で,全力で回復魔法をかけております。その女性は,両手両足をしばられ全裸にされて,拷問を受けていました」


 隊員Bは,『ううっ』と言葉を濁した。その女性のむごい姿を思い出して吐き気を催してしまった。


 カベール隊長「どうした?気分でも悪くなったのか?」


 隊員B「いえ,なんとか大丈夫です。報告を続けます。


 その女性の乳房は,無数の串状の針で貫かれていました。変態愛好者の仕業かと思います。部屋の中は,きれいでしたので,全滅した部隊は部屋に入ることなく廊下で殺されたと思われます」


 カベール隊長「そうか,ご苦労。私も現場にいく」

 カベール隊長も現場を訪れた。4階の廊下で倒れていた20名の隊員の胴体と頭は,きれいに整列されて,両手を合わせるようにして組まれていた。魔界における死者への儀礼様式だ。


 部屋に入ると,今でも魔法士が交代で,重症の女性を治療にあったていた。乳房を貫いた針を一本一本抜いては,回復魔法をかける地味な作業が続いていた。


 また,別の魔法士達は,消えたドアの魔法攻撃無効化結界や,壁面の転移防止結界などの痕跡を調べていた。


 カベール隊長「誰か状況を説明できるものはおるか?」

 

 魔導士Cがその問いに答えた。

 魔法士C「私から状況を説明します。結論から言えば,われわれの調査能力では,今回の事件の解明は困難だという結論になります。申し訳ありません」


 一呼吸を置いて言葉を続けた。


 魔法士C「すでに,ドアに設置されていた魔法攻撃無効化結界の痕跡がありました。でも,その痕跡もまもなく完全に消滅してしまうでしょう。

 王立魔法学院のナタリー最高顧問か,最近戻られた尊師がこの現場にいれば,もしかしたら解明できたかもしれません。

 当時の犯人の行動ですが,まず犯人は,この被害女性をこの部屋につれてきた。ベッドの上にも魔法攻撃無効化結界があったので,被害女性は魔法を使えない状況でした。そしてあのようにリンチをくわえられた。

 次に,全滅した襲撃部隊は,転移防止結界を6面の壁に設置してから,ドアを破ろうとした。しかし,魔法攻撃無効化結界があり破れなかった。

 犯人は,転移防止結界をわずか10分たらずで解除したと思われます。そして,廊下と敷地に転移して,襲撃部隊を全滅させた,ということになります。そして,転移でどこかへ逃げた,,,」


 カベール隊長「それだけわかっていて,なんで,ナタリー最高顧問や尊師が必要なのだ?」


 魔法士C「転移無効化結界を6面全部を10分たらずで解除した形跡があるからです。こんなことできる魔法士は,魔界におりません。大学院のナタリー最高顧問や尊師でも無理と思われます。でも彼らの知識,経験なら,たぶん犯人につながる何かが得られるのではないかと思っています。それに,いろいろと疑問が出てきます。1面だけ解除すればいいのに,何で6面全部を解除したのでしょう??まったくわかりません」


 カベール隊長「疑問の解決は後回しでいい。国王には,今回の調査結果の報告会には,ナタリー最高顧問と尊師の両名にも同席してもらうよう私からお願いしよう。調査報告書はいつできる?」


 魔法士C「死亡した30名の死体はすべて同じ手順なので,その調査は短時間ですみます。通常なら一ヵ月は必要なところですが,今回は2週間程度でまとまると思います」


 カベール隊長「そうか,では,国王に2週間後に調査報告会を開催してもらうようお願いする」


ーーー

ーーー



 リスベルと千雪は,前回泊った人通りほとんどない辺鄙な旅館の前に転送した。


 千雪「リスベルさん,とりあえずは逃げきれたようです」


 リスベルは,首が飛んだ死体を見たあとで,まだ気持ちを落ち着かせることができなった。


 リスベル「千雪よ,女性を痛めつけて血をみるのは平気だが,首が飛ぶのを見るのは,さすがにショックだった」


 リスベルは,呼吸を整えながら千雪の後をついていった。


 15分ほどして,人気のない緑豊かな公園の中に入り,そのベンチに腰かけた。周りに人はいなかった。


 リスベル「少し,気持ちが落ち着いた。ここで反省会をする。われわれが襲撃された理由を説明できるか?」


 千雪「はい。予想できます。今日,稼いだ金貨や財布に,追跡できる何らかの魔法陣が組み込まれていたのでしょう」


 リスベル「そうか,俺たちが繁華街に移ったのが2日前。昨日,衛兵隊らは,今日のために,おとりの金貨や財布を準備したのか。そして今日,俺たちはそのおとりに引っかかったということか?」


 千雪「そうなります」


 リスベル「おとりの金貨や財布は,全部,亜空間の中か?」


 千雪「はい,全部,亜空間に収納しています。われわれの位置がばれることはないでしょう」


 リスベル「とりあえずは安心だな。だけど,さすが王都だ。衛兵隊も優秀だな。2,3日でこんな手を使うとは。千雪よ,今日,屋敷を半年間賃貸契約した。そこに移っても,われわれは安全か?」


 千雪「わかりません。ですが,私が月本国にいた経験から予想しますと,衛兵隊の行動は,まず,われわれの似顔絵を王都のすべての旅館,ホテル,宿泊場所にくばるでしょう。一般住宅にも配るかもしれません。なにせ,衛兵隊30名を殺した大殺人犯ですから。彼らも私たちを探すのに必死でしょう。

 つまり,現時点で私たちが身を寄せる場所は,その屋敷しかないのです」


 リスベル「千雪,王都も同じだ。所詮,同じ人間なんだから,考えることはやはり同じだ。では,次に質問する。われわれが屋敷に住んで,安全を確保できるのか?」


 千雪「近い将来,襲撃は間違いなく受けるでしょう。われわれが屋敷に住んでいることも,遠からずバレます。

 ですが,リスベルさんが,千雪のそばにいる限り,安全でしょう。転移で安全に逃げれますから。でも,そのためには,わたしはできるだけ霊力を温存しないといけません。無駄な霊力の消費は,リスベルさんの死に直結します。

 ですから,リスベルさんの相手をする女性には,記憶の消去などはもうできなくなります」


 リスベル「まあいい,その話は後だ。まずは,屋敷に移動しよう,その間,大量の食料,変装用の服,備品など購入する。まだ,今日なら,我々の人相画も出回っておるまい」


 千雪「リスベルさん,私の所有している古代魔法書の解読をお願いできますか? いろいろと有益な魔法陣があると思います。今後の屋敷への総攻撃に対しても,有効な対処方法が載っているかもしれません」


 リスベル「わかった。その時間は作るとしよう。では,屋敷に移動する」


 リスベルと千雪は,必要なものを購入して,2時間後には,王都郊外にある,屋敷に移動した。



 ー リスベルの借りた屋敷 ー

 2階建ての庭付きで,隣の屋敷とは,50mくらい離れていた。千雪は,屋敷の掃除などを済ませ,とりあえずは,生活できるようにした。


 千雪は,リスベルの部屋と同じにした。リスベルの護衛のためだ。ただし,隣の部屋を自分用の控え室にした。


 千雪「リスベルさん。これ,わたしの古代魔法書です。ベッドに置いておきますので,暇々に読んでください」

 リスベル「千雪,すまないが,俺の隣で寝てほしい」

 千雪「そうですね,いいですよ。襲撃に遭った場合でも,お互い,一緒にいるほうがいいですから」

 リスベル「千雪,ありがとう。お前がいて,ほんとうによかたた。俺たちは,もう大量殺人事件の共犯者同士になってしまった。生死を共にする同士という立場だ。これからは,お互い協力して,この状況を切り抜けていくしかあるまい」

 千雪「はい,わたしもその考えに同感です。こうなった以上,国王軍と徹底的に戦うしかありません。でも,このままでは,われわれの負けは必死です。リスベルさんを守りつつ,戦うのは,ちょっと無理がありますから。

 とにかく,リスベルさんは,大至急,国王軍と対抗できそうな,超すごい魔法を見つけてください。それがあれば,なんとか戦えると思います」

 

 リスベル「そうだな,,,」


 リスベルは,千雪の持ってきた古代魔法書を手に取って,ペラペラと見ていった。


 リスベル「でもなぁ,,,おれ,,,この世界を造った目的は,こんなんではないんだけどなあ,,,千雪とラブラブするために造ったのに,,,」


 千雪「リスベルさん,わたしの巨乳の裸を見るだけで満足してください。だって,巨乳になれば,見せるだけで男の人は満足するんでしょう?」

 リスベル「・・・,まあ,確かにそういう男もいるかもしれん」

 千雪「今日は,もう寝ましょう。明日,また,巨乳美女を連れてきますから」

 リスベル「それはいいが,千雪がいなくなると,俺ひとりになてしまう」

 千雪「リスベルさんの護衛方法は,明日,考えましょう」

 リスベル「そうだな。今日は,ゆっくり寝よう。こんな静かな時間,もうないかもしれん」


 その日は,こうして暮れていった。



 翌日,,,


 千雪が巨乳美女狩りに行っている間,リスベルの周囲にセンサー感知式魔法攻撃無効化結界を展開することで,お茶を濁すことにした。S級レベルの攻撃魔法なら防御可能だ。でも,SS級までは無理だ。


 でも,昨日の今日なので,さほど危険ではないと判断した。


ーーー


 千雪は,リスベルの体に,センサー感知式魔法攻撃無効化結界を起動してから出発した。


 まず,最初にしたのはスリだ。金持ち風の女性3人ほど狙って,金貨50枚を確保した。


 その後,意気消沈して下を向いて歩いていいる,人生をあきらめたような,胸の大きい女性を見つけた。


 その女性には,「千雪の部屋にいる自分の赤ちゃんの世話を2時間ほどしてほしい,金貨2枚の報酬を出します」と言って連れてきた。まだ30歳になったばかりだ。実は,彼女は,ぜんぜん人生をあきらめてはいなかった。


 その女性を屋敷の寝室に連れてきて,後頭部を軽く打って気絶させた。その後,彼女の喉と手足を麻痺させた。彼女との会話で彼女は初級魔法士だと分かったので,初級レベル用のセンサー感知式魔法無効化結界をベッドに構築した。


 後のことは,リスベルにまかせた。


 リスベルは彼女を裸にした。彼女の胸はEカップの形のいいおっぱいをしていた。


 リスベルは,千雪に彼女の意識を戻らせた。リスベルは,仮面をつけた。


 リスベルは,意識が戻った女性に向かって説明した。


 リスベル「まず,最初に謝ります。こんなことしてごめんなさい。5,6時間後には,安全に,無傷で返します。私たちは回復魔法が得意ですから。そして,私たちが今からあなたに行う行為,この屋敷の存在をいっさい,他言無用でお願いします。


 私たちは,魔法陣の専門化で,特別な魔法陣を扱えます。もし,あなたが,私たちのこと,この屋敷のこと,ここで行われた行為を外部にもらすと,それを察知して,魔法陣が発動します。つまりあなたが死ぬということです。


 一生,秘密を守りなさいとは言いません。今から半年間だけです。半年後,どうぞ,王府に言って,私たちのことを訴えてください。それはかまいません。


 次に,私はあなたと性的な関係を持ちます。そこはご理解ください。また,少々,虐待するかもしれません。


 ともかく,5,6時間後には,安全に,無傷で帰してあげます。それは信じてください。さらに,あなたへの報酬として,少ないですが,金貨20枚差し上げます。半年間の黙秘料とでも思ってください」


 説明が一通り終わったので,リスベルは早速実行に移った。



 5時間後,,,



 リスベルは,満足感を覚えて,彼女への性的行為を終了した。その後,千雪によって,回復魔法をかけられた。


 彼女は体にいっさいの傷もないことを確認した。乳房縮小手術も行われなかった。


 リスベル「もう服を着てください。あなたには,すでに私たちに関する情報をもらすと,あなたの首が飛ぶという特殊な魔法を設置しました。

 どうかお忘れなく。その魔法は半年後に消滅します。ご安心ください。金貨20枚をあなたの鞄の中に入れておきましたので,そのままお持ち帰りください」


 彼女は,最低の気分で帰っていった。彼女は処女ではなかったし,強姦されたショックはさほど大きくなかったが,虐待されたことに対してくやしかった。


 自分の弱さが恨めしかった。自分に施されたという魔法陣の真偽については,彼女は疑っていた。多少,魔法に知識のあるものなら,明らかに嘘であるとわかる。しかし,半年間の黙秘でいいならと守ることにした。


 ーーー

 リスベルは,日中,古代魔法書をざっと読んで,ある作戦を思いついた。その作戦を千雪に説明することにした。


 リスベル「千雪,まず聞くが,未発見の魔鉱石の所在を発見する方法はあるか?」

 千雪「ちょっと,すぐには,,,」


 だが,この時,左手の薬指にしている精霊の指輪が振動した。


 千雪「え? もしかして?? リスベルさん,もしかしたら,この精霊の指輪を使えば発見できるかもしれません」

 リスベル「なるほど,,,よし,それが見つかるという前提で,これからの計画を話す」

 千雪「はい,リスベルさん,しっかり聞きます」

 

 リスベル「千雪は,死霊魔法陣は知っているか?」

 千雪「はい,知っています。動物の死骸でいろいろ試したことがあります」

 リスベル「OK,ならば話が早い。遺体でも骸骨でもいいが,それを100体ほど集めて亡霊軍団を作りたい。ただ,問題なのは,霊体を集めることだ。霊体が無理なら,霊体の抜け殻でもいい。無縁墓地では,遺体や骸骨ならいくらでも集まるだろうが,霊体やその抜け殻はもう消滅して存在しないと思う。それらは,いくら長くても死後半年程度しかこの世に存在しないと言われている」


 その話を聞いて,千雪は霊体,もしくはその抜け殻が多く集まるところを思い出した。


 千雪「以前,55名のS級冒険者を全滅させました。かれらの霊体や,その抜け殻を集めればいいと思います。少なくとも55体の亡霊軍隊は構築できると思います」

 

 リスベル「なるほど,,,なんとか成りそうだな。となると,話は元に戻るが,魔鉱脈を発見することがかなめになりそうだ。千雪,今からでも発見できそうか?」

 千雪「この精霊の指輪が教えてくれるかもしれません。ちょっと試してみます」 



 千雪は,リスベルにセンサー感知式魔法攻撃無効化結界を設置して,屋敷から出て行った。


 千雪の考えた方法は,他力本願だ。つまり,指輪の魔力探知能力を期待するものだ。


 千雪は,霊力の風船を構築して,そこに火炎魔法で熱を加えていった。つまり,霊力のバルーンだ。上空50mまで上がったところで指輪に向かってお願いした。


 千雪「霊珠の指輪さん。お願いします。魔鉱脈が眠っている場所を教えてください。人がいない場所でお願いします。それと,できれば,南東領域で見つけてもらうと嬉しいです。

 今から,360度ゆっくり回転します。もし,魔鉱脈の反応が強かったら,千雪に教えてください」


 このようなお願いの方法で,うまくいくかどうかわからない。でも,千雪は,左手をまっすぐ前に向けて,その場で時計回りにゆっくりと回転した。


 すると,指輪をした指が,東南方向を示した時に,ブルっと反応した。千雪は,その反応を信じて,その方向へ20㎞ほど移動して,その場所で,また,同じことを繰り返した。そのことを7回ほど繰り返すと,人気のいない小高い山に出くわした。


 千雪は,その小山の麓にゆっくりと着地した。そして,そこに,ほんとうに魔鉱脈があるのかを確認するため,小型の魔力抽出魔法陣を構築してみたところ,その魔法陣は,地下の魔鉱脈から魔力を吸って,指輪にその魔力を転送した。


 このことをもって,この小山の地下に魔鉱脈があるものと断定した。


 千雪は,この場所を転移座標点とした。そして,ここからリスベルのいる部屋に転移した。



 千雪「リスベルさん。精霊の指輪さんが,魔鉱脈のある小山を見つけてくれました。直径およそ4kmほどの範囲で,地下およそ20メートルほどにありそうです」

 リスベル「おおーー!!それはすごい快挙だ。でかした,千雪!愛しているよ」

 千雪「リスベルさん,そんなお世辞は入りません」

 リスベル「そうだったな。うん。では,明日からの予定を具体的に説明する」


 リスベルは,自分の考えをメモした研究ノートを開いて,千雪に説明した。


 リスベル「直径4kmか,,,となると,その円周上に50メートルおきに,支点魔法陣を構築していくことになる。およそ240体ほどの支点魔法陣が必要となる。1体の魔法陣を構築するのに1時間として,半日の作業で4体。1人の作業だと2ヵ月もかかってしまう作業量になるな。後日,人手を雇うことも考えよう。


 ともかく,その作業が終了すると,それらの魔法陣を連結させることで,巨大な大規模魔力抽出魔法陣が完成となる。


 そこから抽出された大量の魔力を魔力転送魔法陣で,中央死霊魔法陣まで転送させる。そこから,各個体別の末端死霊魔法陣に分けていくという感じだな」


 千雪「リスベルさんって,天才だったんですね?」

 リスベル「フフフ,自分が天才だっていうのは,子供の頃はよく言われたものだよ」


 千雪は,少しクスクスと笑った。千雪が笑うのも久しぶりのことだ。


 この日から2週間は,千雪とリスベルの行動は規則的だった。午前中は,千雪とリスベルが魔鉱脈のある山の麓に転移して,リスベルをセンサー感知式魔法攻撃無効化結界で覆って,その場で千雪を待ってもらう。リスベルは,その間,古代魔法書を解読した。


 千雪は,支点魔法陣を4個所設置したら,リスベルを連れて屋敷に戻り,そこで,リスベルから解読できた魔法陣の内容の解説を受けるという日課を送った。

 

 リスベルは,この期間,女性遊びをしなかった。というのも,ことのほか,古代魔法書を読むのが面白くなったというのが正解だ。それに,寝る時は,ラブラブの行為まではできないが,千雪が裸体で添い寝してくれるようになったことも大きい。リスベルは,Iカップになった巨乳を触れるし,乳首から出る母乳も飲むことができる。もっとも,それは,おっぱいが張ってしかたないので,リスベルに飲ませているだけなのだが。


 リスベルにとっては,意外にも,それで充分に満足する日々を過ごせた。


 古代魔法書の解読で,リスベルは『標的魔法陣』という,おもしろい魔法陣の解読に成功した。どのような方向に魔法攻撃を打とうが,それらは,標的魔法陣に当たるというものだ。かつ,一度植え付けると,1ヶ月程度は有効となる。


 この2週間は,リスベルにとっても,また千雪にとっても,レベルアップをはかる貴重な時間となった。また,この期間は,単調な時間ではあったが,彼らが2人きりで過ごせる幸せな時間となった。


ーーー

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