第14話 おとり捜査とその波及

 繁華街の旅館に来て2日目,リスベルと千雪は,昼頃起きた。


 この日の活動予定は,昨日とまったく同じだ。リスベルに一晩中レイプされ続けた意識のない女性を人気のない場所に置き去りにして,3人目の新しい巨乳美女を探して,部屋に連れ込むというものだ。


 ただし,千雪は,犠牲者をひとりだけにした。いちいち巨乳美人を探し出すのも面倒いからだ。いくら王都といえど,巨乳で,千雪に迫るほどの美女は,そうそういるものではない。


 ただ,千雪は効率よくお金を盗むことができたため,この日,金貨400枚を超えた。そのため,わずか2日目で目標金額を超えた。



 ー 王宮の治安護衛長官室 ー

 昨日から,繁華街でスリの被害が頻繁に王府に届けられてきたため,この日から,衛兵隊の数を2倍に増やした。しかし,スリがどのような人物なのかまだわかっていない。この夕方,また繁華街で昨日よりもさらに多くの被害が王府に報告された。衛兵隊の数を2倍に増やしたにも関わらずにだ。


 王都の治安維持を担当する女性のサルベラ長官は,27歳で長官になるほど優秀な人物だ。報告を聞いたサルベラは怒った。


 サルベラ長官「衛兵隊の数を2倍に増やしたのに,被害も2倍になった??じゃあ,何,衛兵隊を4倍にすれば,被害の4倍になるの?衛兵隊はスリの味方なのですか!!もっと頭を使いなさい!」


 衛兵隊長のカロックは,もじもじとして言った。


 カロック隊長「あの,どうすればいいのでしょう??へへへ」


 サルベラ長官「ほんとうに無能なバカばかりね。お金盗まれるんだったら,正々堂々と盗まれなさい!」


 カロック隊長「????」


 サルベラ長官「財部課に行って,金貨200枚準備しなさい。ちょっと前に尊師が大学院に戻ってきているから,尊師にその金貨200枚を持ってきなさい。尊師には私から事前に通信魔法石で,位置発信の透明化魔法陣を構築するように頼んでおくから。


 それと,尊師には謝礼として金貨20枚渡しなさい。だから,財部課にお願いするには,金貨220枚ね。


 そして,お前たち部隊全員の妻か母親にそれを1枚づつくばりなさい。隊員の妻か母親に,その金貨と自腹で出す金貨5枚とを一緒に財布に入れて,明日の10時から午後3時まで,繁華街をぶらつきなさい。


 1時間ごとに,全員時計台に集合すること。その時に,羅針盤で,魔法陣を構築した金貨がどこにあるかを確認するわ。時計台以外の場所で反応したら,それはスリが持っていることになるでしょう」


 カロック隊長「さすが長官。頭のできが違いますね。でも盗まれた場合,自腹の金貨5枚は返ってくるんでか?」


 サルベラ長官「そんなつまんことに気が回って,しょうがないわね。もっと業務に集中しなさいよ。もしスリがつかまらなかったら,その家族の隊員から請求させなさい。補填してあげるから」


 カロック隊長「へへへ,すいませんね。つまらないことに気が回って,,,」


 サルベラ長官「それと,魔法士・剣士部隊管理課に立ち寄って,S級魔法士5名,上級魔法士10名,S級剣士5名,上級剣士10名を明日の11時には時計台に集合させるようにいいなさい。国王軍から適当に選抜されるはずよ。明日,決着つけるわ」


 明日,つまり,リスベルと千雪が繁華街の旅館に移って3日目の朝10時から,この作戦が始まった。



 繁華街の旅館に移ってから第3日,リスベルは,午前10時ごろベッドから起きだした。


 お金が準備できたので,彼は,午前中に例の一軒家の屋敷を半年借りる契約をしにいく予定だ。


 リスベル「千雪,今日は,お金稼ぐのを,いまからお昼までにしなさい。それで,巨乳美人は,お昼頃に部屋に連れてこえばいい。

 私もお昼には戻るようにする。午後6時頃に彼女を解放したあと,新しい屋敷に移る予定にしよう」


 リスベルは,千雪に軽くキスして出て行った。千雪は,そのリスベルの行為を許容した。


 リスベルが教える魔法陣は,非常に価値のあるものだとわかった。たとえ,抱かれようが虐待されようが手に入れるべきものだ。今の千雪は『リスベルの価値』を充分に理解できる。


 千雪もさっそく,一晩中リスベルに弄ばれた意識のない女性を抱きかかえて,人気のない場所で彼女を放置したあと,スリに出かけた。


 なぜか,今日は無防備な女性が多かったので,スムーズに効率よく回収できた。金貨を数えると,金貨1200枚にもなっていた。


 まだ10分しか経過していない。もうこれ以上奪う必要はない。あとはのんびり,巨乳美女を物色するだけだ。旅館近くの食堂で,食事しながらそのような女性を探した。


 被害者になる女性には申し訳ないが,弱肉強食の世界ではやむを得ないことだ。被害にあった女性は,自分の非力を恨んでもらう。



ー 繁華街の時計台 ー

 11時になった。200名のおとり女性が一斉に時計台に集合した。


 サルベラ長官「皆さん,おとり作戦に協力してもらって,ありがとうございます。もしスリにあって,犯人がつかまらなくても,こちらで補填しますから安心してください」


 家族は全員安心した。


 サルベラ長官「現時点で,スリにあった人は,手をあげてください」


 すると,信じられない光景は現れた。全員が手をあげたのだ。カロック隊長はもちろん,サルベラ長官もびっくり仰天した。せいぜい1,2名と思っていたのだ。


 カロック隊長はいやみったらしく言った。


 カロック隊長「さすが長官,作戦が見事にうまくいきましたね。こんなに見事にいくなんて思ってもみませんでしたよ。全員がスリにあうなんて。

 財務部から『金貨1000枚など,補填できる訳がないだろ!』って言ってくるのが目に見えてますね。へへへへ」


 サルベラ長官は,少し興奮ぎみになったが,すぐに,気持ちを落ち着けた。財務部への対応は後回しだ。まずは,目先の犯人を捕まえることに集中することにした。


 サルベラ長官は,200名のおとり女性に向かって捜査の協力に感謝の言葉を述べた。


 サルベラ長官「皆さん,本日は,われわれの捜査に協力していただき,誠にありがとうございました。これで,犯人を特定することができます。あとは,こちらの仕事です。皆さん,本日は,ありがとうございました。これで終了です。解散してください」


 200名のおとり女性は,蜘蛛の子が一斉に散るが如く,去っていった。


 サルベラ長官は,羅針盤を起動した。その羅針盤には,1点だけ赤く点滅していた。ここからは,そう遠くない場所を示していた。


 サルベラ長官は,魔法士と剣士のリーダーに向かって言った。


 サルベラ長官「スリの場所がわかりました。ここからそう遠くありません。今日,決着をつけますので,よろしくお願いします。犯人の場所を確認しますので,しばらくここで待機してくだい」


 サルベラ長官は,カロック隊長とその部下10名をつれて,羅針盤の示しているほうに向かった。5分ほど歩くと,広い通りに面した高級レストランの窓側に座っている一人の女性がいた。そこに羅針盤は反応した。彼女は肌色の仮面をしていた。


 カロック隊長「長官,スリの犯人は女性ですね。かよわそうな人ですよ。われわれでもつかまえれるかのしれませんよ」


 サルベラ長官「200人のおとり女性が持っていた金貨200枚が,わずか1時間ですべて盗まれたのよ。にもかかわらず,1個しか反応がないのもおかしいわ。他はどこ行ったの??彼女は,収納用の魔法石の指輪でも持っているというの?もしかして亜空間領域魔法を扱えるかもしれないわ。だとすると,S級並みの魔法士かもしれないのよ!」


 カロック隊長「へへへ,長官,どちらも,その可能性はないですよ。ここから見る限り,魔法石の指輪はしていませんし,彼女どうみても18歳以上にはみえませんよ。18歳以下で,S級はこの魔界にはいませんって」


 サルベラ長官「そうだったわね。じゃあ,すでに仲間に渡した可能性があるわね。その仲間が亜空間収納指輪を持っているか,亜空間領域を扱えるS級魔法士ね。どのみち,慎重に行動しないといけないわ。犯人が仲間と合流して,彼らのアジトに戻ってから,魔法士と剣士に突入してもらうという手順がいいわね。カロック隊長,仲間とともに,犯人を見張ってちょうだい。私はいったん時計台にもどるわ」


 時計台に戻ったサルベラ長官は,魔法士と剣士のリーダーであるブレール隊長に状況を説明した。どうも亜空間領域魔法が使える仲間がいること,現在,アジトをつきとめるので,様子見していることを伝えた。


 この話を聞いた魔法士と剣士達は,少し動揺が走った。S級魔法士がいるということは,かなり慎重を要する。


 そこで,剣士全員に魔法攻撃無効化結界を施す手はずとした。サルベラ長官の仕事は,アジトをつきとめるまでだ。攻撃部隊は魔法士と剣士達だ。


 ブレール隊長は,自信満々に言った。


 ブレール隊長「状況はわかりました。突入は任してください。仮にS級が2人いたとしても,いや,S級が2人もいれば,わざわざスリなんてしないでしょうけど,それでもわれわれの陣容であれば,まったく問題ありません」


 12時になった。


 レストランにいた仮面の女性が動き出した。同じレストランいた女性に話かけた。そして,仮面の女性が金貨1枚をその女性に渡した。


 仮面の女性とその女性は,レストランから出てきて,斜め向かいの旅館に入っていった。


 カロック隊長たちは,後をつけてその旅館に入った。旅館の受付に,仮面の女性の部屋番号を確認した。4階の一番奥の部屋で広い廊下に面した大きめの部屋だ。


 借りている人は男女2名で,男性は15,16歳くらいの男性とのことだった。


 カロック隊長は,急いで時計台に戻って,サルベラ長官と剣士のブレール隊長に報告した。


 犯行グループはどうも2名で,若い女性が部屋に入っていった。昨日も,若い女性がその部屋に入っていったことが判明した。


 カロック隊長「スリグループは,何をしているんでしょうかね?若い女性を部屋に連れてくるって,することはひとつじゃないですか?へへへ」

 サルベラ長官「このスケベ。何考えているの!!」


 部下「報告します」


 そう言いながら,カロック隊長の部下がやってきた。


 部下「スリグループの仲間の男性が,いま,部屋に入っていきました」


 ブレール隊長「サルベラ長官,あとの現場の指揮はわれわれにまかせてください。ここで吉報をまっていてくだい」


 ブレール隊長は,部下を引き連れて,現場に向かった。


 ーーー

 ブレール隊長は,現場の旅館に着いて,周囲の状況を視察した。そして,作戦を伝えた。その内容は,特に奇抜なものではなく堅実なものだ。


 ブレール隊長「スリグループは,4階の一番奥の部屋にいる。まず,スリに気づかれずに,その部屋6面に転移防止結界をかける。

 魔法士の分隊長,6名の魔法士を選定しなさい。6面とも上級レベルでかまわん。万一,上位の転移魔法で逃げられたなら,それは,今のわれわれの戦力では対応できなかたことになる。仕切り直しをすればよい。敵の位置はいずれわかることになるからな。


 その6名の魔法士は,結界構築後,ただちにその場所から離脱して,旅館の中庭で待機。


 次に,S級剣士2名と上級剣士2名で1チームとし,Aチーム,Bチームの2チームを作る。S級魔法士はS級剣士に,上級魔法士は上級剣士に,突撃直前に魔法攻撃無効化結界を剣士の服に設置すること。その持続時間は1分でいいだろう。それくらいが限界だと思うが,でも,それだけあれば確実にスリを殺せる。


 よって,突撃チームは,剣士8名と魔法士8名の16名とする。4階の奥の部屋のドアの前で待機し,私の合図を待て。

 私が合図したら,Aチームの魔法士は魔法攻撃無効化結界を剣士の服に設置する。そして,直ちに,爆裂魔法でドアを破壊して,Aチームの剣士4名が突入する。1分後に,Bチームの剣士4名も突入する。


 尚,突撃チーム以外の剣士と魔法士は,中庭の魔法士と合流して臨戦態勢で待機。スリチームが,4階の窓から飛び降りて,中庭に来るとも考えられる。その場で,確実に殺すこと。ただし,深追いはするな。A,Bチームの攻撃を躱して,逃げる程のレベルだ。無理だと判断したら,撤退をためらうな。死んでは元も子もないからな。


 部屋の中には,眼鏡男性と仮面女性を殺害すること。ほかに女性1名いるが,被害女性と思われる。その女性には危害をあたえないこと。生け捕りは不要だ。相手はS級魔法士だ。ためらうとこちらの命がない。

 以上だ。各自,行動に移せ」


 『魔法攻撃無効化結界を装備する服を着た剣士』,この言葉は,敵対する者に対して,死刑宣告に等しい響きを持つ。魔界の住人は,得手不得手はあれど,魔法を使う。その魔法攻撃が阻止されてしまう。そうなると,剣で戦うしかない。つまり,純粋に剣技によって勝敗が決まる。どんな手練れであっても,専門に訓練してきた4名の剣士相手に勝つことは不可能に近い。


 その考えは正しい。いや,これまでは正しかった。尊師が千雪を育てるまでは,,,


 15分後,魔法士の隊員Aがブレール隊長に報告に来た。


 隊員A「ブレール隊長,転移防御結界完成しました。1時間は有効です。スリグループには,ばれていないと思います」


 また,別の隊員Bがブレール隊長に報告に来た。


 隊員B「ブレール隊長,この旅館の全住人の避難が完了しました」


 ブレール隊長「よし,作戦通り実行する。Aチーム魔法隊,剣士達に魔法攻撃無効化結界を構築しろ!Bチームの魔法隊,爆裂魔法でドアを破壊せよ!」


 Bチームの魔法士4名がドアに向けて,爆裂魔法を発射した。S級2発と上級2発だ。いくら力をセーブしているとはいえ,木端微塵にドアが吹っ飛ぶはずだった。


 シューーーンー--!シューーーンー--!シューーーンー--!シューーーンー--!


 4発の爆裂魔法がドアを襲った。しかし,爆裂魔法は爆発することはなく,結界によって打ち消された。ドアはびくともしなった。ドアには,魔法攻撃無効化結界が張ってあった。


 それは,誰に目にも明らかだった。爆裂攻撃が当たった個所に,魔法攻撃無効化結界が浮き出てきたのだ。


 通常,このようなことはあり得ないことだ。このような膨大な魔力を消費することはしない。通常なら,魔法攻撃を受ける直前に,数秒間だけ構築ればよいからだ。このドア全体に魔法攻撃無効化結界を,何時間も構築するには,膨大な魔鉱石が必要となる。


 実は,千雪が女性を部屋に連れてきて,その後,リスベルが部屋に戻ったら,すぐに,ドアにセンサー式魔法攻撃無効化結界を構築した。センサー式なので,魔力の消費は最小限に抑えられる。起動して1時間,もしくは,S級攻撃を5発までは防御できる程度のさほど高性能とはいえない結界にした。あまりにも高性能にしてしまうと,相手も警戒してしまい,それ相応の対策をしてくるのがいやだった。


 ブレール隊長は,この時点で尋常ならざる敵であることを認識すべきだった。だが,そうは考えなった。ブレール隊長は剣士出身だ。魔法は中級レベルであり,魔法陣にも造詣が深いわけではなかった。


 通常,このようなチームでは,剣士が『主』で魔法士が『従』の役割を負う。そのため,指揮する隊長は剣士から選ばれる。そのため,今回のような異様な現象に対しての危険度を誤認識していまう恐れがある。


 今回がそのいい例だ。


 ブレール隊長は,この異常な魔法攻撃無効化結界に対して,さほど異常とは感じなかった。

 

 ブレール隊長「魔法士分隊長,早くこの結界をなんとかしろ!これでは突撃ができないではないか!」

 魔法士分隊長「ですが,S級の攻撃でもびくともしません。時間を待つしかありません。それか,剣を使って,ドアをこじ開けるくらいしか,,,,」

 ブレール隊長「お前は,バカか!剣でドアを壊したら,剣刃がボロボロになるではないか!それでは敵と戦えん!」


 剣士にとって,剣は命だ。剣刃をボロボロにすることなど,できるわけがない。


 魔法士分隊長「このドア全体に構築されている結界を維持するのは,膨大な魔力が必要です。そんなに大量の魔力があるはずがありません。ですから,せいぜい,数分でなくなるはずです。少し待ちましょう」


 ブレール隊長「結界の消滅は,どう確認するのだ?」

 魔法士分隊長「1分ごとに,初級レベルの爆裂魔法を放ちましょう。それで確認できます」

 ブレール隊長「結界の解除はできないのか?」

 魔法士分隊長「魔法攻撃無効化結界は,本来,1,2秒しか起動しないものです。もともと解除する必要のないものです。ただ,一般的に言えば,結界には術者がいつでも解除できるように暗号を埋め込んでいます。その暗号がわかれば解除できます」


 魔法士分隊長は,素人並みの質問に,内心,ブレール隊長を小ばかにした。


 千雪は当然ドアの結界が反応したことを知った。この部屋は攻撃されている!


 リスベルは,千雪が連れてきて,手足が麻痺された女性とエッチな行為をしている最中だ。その最中にも,リスベルは女性の胸を虐待するという夢の中での,いつもの行為を行っていた。


 千雪は,リスベルにもう少し楽しむ時間を与えることにした。


 千雪「リスベルさん,この部屋は,今,王都の護衛兵らしき部隊に襲われています。ドアに,魔法攻撃の結界がありますので,ドアの結界が破られるまで,20分くらいの時間があると思います。もし,敵が優秀なら10分で結界が破られるかもしれません」


 リスベルは,行為を続けながら言った。


 リスベル「もうバレたのか? 敵は優秀だな。その反省会はあとでしよう。10分くらいか。私の楽しみをじゃましやがって。万死に値する。千雪,その護衛兵らしき部隊,皆殺しにできるか?」


 千雪「まったく問題ございません。攻撃されたら皆殺しにするのがわたしのポリシーです」


 リスベルは,10分しかないので,後に残しておいた一番の楽しみ方でその女性でいたぶることにした。彼は長さ15cmもの長い串を何本も準備した。それを全部使い切ることにした。

 

 ドアの外では,1分ごとに初級レベルの爆裂魔法を発射していた。だが,10分経っても,その結界は有効だった。


 すでに,当初の作戦が破綻したブレール隊長は焦っていた。


 ブレール隊長「魔法士分隊長,何やってるんだ!まだか!」

 魔法士分隊長「だめです。まだ結界が持続しています。こんなこと,あり得ません」

 ブレール隊長「お前の言い訳はいらん!とにかく,ドアを壊せ!」

 魔法士分隊長「隊長,スリグループは,われわれの知らない高度な魔法陣を扱います。ここは,撤退しましょう。危険です」


 魔法士分隊長は,危険を察知し,撤退を進言した。しかし,ブレール隊長は否定した。

 ブレール隊長「刃を交えずに撤退はできん。あと5分だけ待つ。それで結界の解除ができなかったら撤退だ」


 この5分の延期が命取りだった。


 部屋の中で,千雪はゆっくりと起き上がっていた。

 6面に張った転移防止結界に,魔力転送魔法陣を貼り付けた。そして,6面の結界の魔力をすべて指輪に吸収させた。師匠の敷地で行った方法だ。


 両手を手刀と化した千雪は,転移魔法陣で,3m先のドアの外に出た。

 

 剣士ブーレル達は,千雪を見て,何?と一瞬思ったのかもしれない。その一瞬の間に,そのフロアにいる魔法士10名と剣士10名の首が床に落ちた。


 千雪は,また転移で部屋の中に戻り,リスベルに言った。


 千雪「リスベルさん,時間です。服を着てださい」

 リスベル「そうか,じゃあ,ここまでにするか」


 リスベルの用意した串がちょうど使い終わったところだった。


 このまま放置されれば,女性が死ぬのも時間の問題だ。


 リスベル「もうこの女性は,このままでいい。襲撃がなければ無傷で生きて帰れたのに。恨むなら襲撃者を恨め」


 今の状況では,この女性が死のうが生きようが,記憶があろうがなかろうが,どうでもいい。


 リスベル「千雪,全員皆殺しにしたのか?」

 千雪「まだ旅館の外に10名ほどおります」

 リスベル「早く処理しなさい」


 千雪「はい,今から,リスベルさんと一緒に,下の中庭に転移します。1秒待ってください」

 リスベル「よし,では転移しなさい」


 中庭では,あまり緊張感をもたない隊員10名が,4階の部屋を監視していた。そのため,彼らの視界は少し上方にあったため,近場の状況には目に入らなかった。そのため,千雪とリスベルが彼らの背後に転移してきたことを視認することはできなかった。


 千雪は,無抵抗な隊員10名の首を1秒もかからずに,その胴体から切り離した。


 リスベルは,気楽に千雪に皆殺しなさいと言ったものの,鮮血を目の当たりにして,さすがにショックで血の気が引いた。


 千雪「リスベル様,長い無用です。ここは人が多いです。前回泊った旅館の前に急ぎ転移します」


 千雪は,リスベルを連れてその場から姿を消した。


ーーー

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