第11話 ひとつの世界の終わり

 エルザとフレールは,千雪に駆け寄った。リスベルも隠れた場所から出てきた。千雪は服のある場所に戻ってそれを身に着けた。


 フレール「千雪,あなた,この魔界で自分に勝てる魔法士や剣士はいないって言っていたわね。その時は信じなかったけど,今なら信じるわ。あなたはほんとうに『化け物』だわ。


 私,小さいころから天才少女って言われていたのよ。でも,あなたを見ていると,私って,凡才以下だわ」


 リスベルが遠くから駆け寄って来た。


 リスベル「遠くからでよくわからなかったが,千雪さんが全裸にされて,盗賊団に襲われているようだったが??それは,盗賊との合意だったのか??」


 千雪「はい,そうです。合意の上です」


 リスベル「千雪さん,あなたは,大事なことを忘れているようだ。千雪さんは,今でも,私の性奴隷なのですよ。母親が騒いだから,ずーっと,千雪さんを抱きたい,抱きたいと思っているのを我慢している。


 それがこともあろうに,私の許可なく,他の男性と,しかも何十人もの男性とハレンチな行為をするとは!!


 確か千雪さんとの契約には,わたしに危害を加えてはいけないという契約がある。千雪の行為は明らかに精神的危害を与えるものだ。それに該当してもおかしくない」


 宣誓魔法陣の契約では,相手の行為が明らかに契約違反だと,心から認めた時に有効となる。片方だけでは有効とはならない。


 

 千雪「リスベル様。では,もう我慢しなくてもいいのではないでしょうか?ここなら,お母様もいませんし。一言,千雪に命令してください。千雪は,あなたの奴隷なのですから。でも,エルザさんやフレールさんがいるから,難しいでしょうけど。ふふふ」


 リスベル「話をずらすな!契約の話をしているのだ!」

 千雪「確か,契約では,リスベルに有益に働くものでれあば,例外になるとありましたよね」


 リスベル「盗賊がお前を抱いて,どうして,私が有益になるというのだ!ばかも休み休みに言え!!」


 千雪「千雪の体に触った盗賊たちは,後で命を落とします。そのように精神支配をしました。


 私が屋敷にいる間でも,屋敷がこれ以上,襲われることはありません。それはリスベル様にとって有益になることでしょう?


 さらに言えば,エルザさんやフレールさんの盗賊への攻撃は,千雪にとって,余計なことでした。リーダーが千雪に触らなくなったので,リーダーを殺せなくなりました」


 彼女らの攻撃があってもなくても,リーダーのサルジは,千雪の体に触らなかったのだが,彼女らに精神的負担を追わせたかった。



 リスベル「千雪,お前は,SS級の魔法士だ。いや,それ以上の魔法士なのだろう?ならば,なんで裸体を盗賊に見せ,かつ,ハレンチな行為をさせるような変態的な魔法を選ぶのだ? ほかにいくらでも簡単に盗賊を返り討ちにできる魔法があっただろうに」


 千雪は,痛いところを突かれた。言われてみればその通りだ。自分でもなぜこのような変態的な行動を好むようになったのかはよくわからない。もともと変態の素養があったのかもしれない。だって,人間って,もともとは変態好きなのかもしれない。今は,そんなことを考えても意味がない。リスベルからの口による攻撃を躱す方法を探さねばならない。


 ここは,話題の論点を変えるにした。


 リスベル様「千雪も女性です。時には,男性に抱かれたいと思うときもあります。それに,リスベル様との契約では,お互いのへの貞操を義務付ける契約はありませんし,ほかの男性と性行為をするな,という契約もありません」


 リスベルは,この返答に腹がたった。


 リスベル「千雪,歯をくいしばれ。いまから,お前を殴る!」


 パチーーン!!


 リスベルは,千雪の顔を平手打ちした。千雪は,顔面に霊力の防御をしたので,まったく痛さを感じなかった。だけど,打たれた頬の部分を,赤く変色させて,あたかも,きつく殴られたかのようにした。


 リスベルは,千雪の顔が赤く変色したのを見て,怒りの気持ちを少し和らげた。


 リスベル「過ぎたことだからもういい。これからは,ほかの男性とハレンチ行為を禁止する」

 

 千雪「その命令には従えません。確か,無謀な命令は,聞かなくてよかったですよね?」


 リスベルは,悔しかった。ほかの多くの男たちが千雪を何度も抱いたのに,自分は母親の命令で我慢し続けていることに。


 リスベル「エルザ,フレール。もし,ここで,私が千雪を抱いたら,お前たちはどうする?お前たちは,お母様に言いつけるのか?それとも護衛の仕事を辞めるのか?」


 エルゼとフレールは迷った。彼女らは,リスベルが長いこと我慢しているのは知っている。かつ,この状況では,リスベルがかわいそうに思えた。今回だけは,内緒にしてあげてもいいと思った。


 エルゼ「じゃあ,今回だけ,例外的に,眼をつむります」

 フレール「私も,それでいいです」


 リスベル「エルザ,フレール。感謝する。給金は,1.2倍くらいならアップできる。すまないが,しばらく,離れていてくれないか」


 エルゼとフレールは,安全を確認した後,少し離れた場所で待機した。給金が1.2倍になったことで満足だった。



 リスベル「千雪,盗賊どもが何をしたか言ってみろ! 俺も同じことをする!」

 

 千雪は,地面に横になってからリスベルに言った。


 千雪「わたしの胸を3分ほど触っただけです。リスベルさん,どうぞ,胸を触ってください」


 今の千雪の胸は,いつの間にかDカップになっていた。リスベルは巨乳好きだ。冷静なリスベルだったら警戒して触らなかっただろう。でも,今のリスベルは,その冷静さを欠いていた。


 リスベルは,千雪に跨がってその胸に触った。リスベルは,その胸に触った瞬間,一瞬,めまいがした。その後,視界がぼやけた。そして,,,,リスベルは,そのまま意識を失って倒れた。


 リスベルは,意識を失っても,自分が千雪に対して望む行為を,夢の中で何度も何度も繰りかえした。


 ーーー

 ー サルジの泊まっている旅館の部屋 ー


 撤退したサルジの部下たちは,千雪の裸体と胸によって,性欲が全開にされたままだった。


 隊員A「リーダー,われわれ,ちょっと,あそこ行ってきます。また,明日の朝,集合でいいねすね?」

 サルジ「ああ,明日でいいさ。しっかり楽しんでこい」


 隊員Aが「あそこ」と言っているのは娼館のことだ。サルジを除く24名全員が,一同に娼館街に消えた。


 5名の女性隊員は,口々に「男って,どうしようもない生き物ね!」と軽蔑のまなこで,娼館街に消えていく男性隊員に一瞥した。


 サルジ「まあ,今回は,やむをえまい。大目に見てやれ。われわれだけで,今回の反省会をする。あの千雪の奇怪な行動をどう見る??」


 女性隊員A「千雪って子,すでにSS級の剣士レベルだわね。あの,火炎攻撃のスピード以上のスピードで移動していたわ。5倍速以上で動けるってことね。もしかしたら,10倍速で動けるかもよ」


 女性隊員B「そうそう。同感だわ。それに,なんら魔法攻撃無効化結界を張らないで,裸体のまま,あの火炎攻撃の衝突の衝撃派をまともに浴びて無傷なのよ!あれは,もう,SS級というレベルじゃないわ。化け物ね。もしかして,私たち,決して相手にしてはいけない人を相手にしてしまったかもしれないわね」


 女性隊員C「そんな能力があるのに,なんで胸を触らせることをさせたのかしら?普通に戦っても,充分に私たちに勝てるし,逃げるなら,いつでも転移魔法で逃げれたのにね??」


 女性隊員D「そう考えると,あの胸を触らせる,という行為に,なにか罠があるのは確かね。精神支配をするとか,なにか,あとで致命傷を与える何かを植え付けるとかね?」


 女性隊員E「その考えは,的を得ていると思うわ。彼女が上半身だけ裸になればいいのに,何で全裸になったと思う?これから死にいく男たちの冥途の土産よ,絶対に。彼女は,死神よ。私たちは,彼女の体に触っていないから,たぶん大丈夫だと思うけど,でも,私たちは,いつ彼女に殺されてもおかしくないわ。悪いけど,私は,今から逃げるわ。命が惜しいから。リーダー,申し訳ないけど,了解してね」


 サルジ「そうか。わかった。賢明な判断だと思う。すぐに去りなさい」


 女性隊員Eは,皆に最後の挨拶して,さっさと部屋から出て行った。


 サルジ「お前たちは,どうする?」


 女性隊員A「逃げるにしても,慌てなくてもいいでしょう。万一,千雪さんが襲ってきたとしても,その時に,転移で逃げれば間に合うと思いますしね」


 サルジ「まあ,そうだな。でも,千雪の胸を触ったものが皆殺されるとすれば,どうやって殺される?千雪は,胸を触れることに快感を感じていたような気がするが?」


 女性隊員A「さあ?ちょっと分からないわ。精神支配の魔法って,聞いたことあるけど,失われた魔法らしいし,,,」


 女性隊員B「そのうち,男性隊員が全員死んだって,連絡が来るんじゃない?ふふふ」


 なんと,その言葉は,現実になった。

ー 娼館街 ー

 

 娼館街は,一軒の娼館では,4,5名程度の娼婦がいて,その店が何十軒と並んでいた。24名の隊員は,三々五々別々の娼館に消えていった。


 だが,悲劇は,その娼館の部屋で起きた。隊員が女性と肌を合わせているときに,その快感が途切れないのだ。心臓がその快感に反応して,心拍数をどんどんと引き上げていった。そして,とうとう脈拍数が1分間に300回を超えてしまい,心機能麻痺を起こして死亡していった。


 20代の若い男性が立て続けに23名も,ほぼ同時に女性と肌を合わせている最中に死亡してしまった。


 死亡を免れたのは,隊員Aだけだった。隊員Aは,することをした後,仲間と合流する予定だった。しかし,いくら待っても仲間が来なかった。


 そこで,仲間の訪れた娼館に行くと,至る所で回復魔法士が呼ばれて,パニック状態になっていた。 


 隊員Aは,多くの若者が女性と肌を合わせているときに死亡したことを聞いて,犠牲者が誰かを確認した。そして,その犠牲者は,すべて自分の仲間だった。ついさっきまで,一緒だった仲間だ。


 隊員Aは,悪寒を感じた。もしかして,俺も,すぐ死ぬのか?千雪の胸を触ったからか?彼は恐怖にかられた。急ぎ,リーダーのサルジの部屋に転移した。



ー サルジの泊まっている旅館の部屋 ー


 隊員Aは,サルジの部屋に転移した。


 サルジは,隊員Aが真っ青な顔して転移してきたのを見て,何が起きたかがわかった。


 隊員A「リーダー,大変です。仲間が,仲間が全員死にました。あの最中に死亡しました。いわゆる腹上死でした。回復魔法士が懸命に蘇生しようとしましたが,すでに死亡した後でした」


 サルジ「そうか,,,そうだったのか,,,まさか,腹上死という方法で来るとはな。それは予想外だ」

 隊員A「え?予想外って,腹上死で死亡するのは予想外だけど,われわれが死亡するのは予想していたのですか?リーダー!それでもリーダーなのですか?!」


 隊員Aは,サルジに怒りを覚えた。サルジの軽率な判断で,23名の命が消えてしまったのだ。

 

 女性隊員A「落ち着いて!今,私たちで,反省会をしていたのよ。そして,得られた結論は,千雪は,胸を触らせることで,なんらかの方法で時間差を置いて,殺すのではないか,と推論したのよ。残念だったけど,その予想は,当たってしまったわ」


 隊員A「そうでしたか。リーダー,すいません」


 サルジ「謝らなくていい。俺の判断ミスが原因だ。問題は,お前だ。お前は,一番最初に,千雪の胸に触った。つまり,確実に,なんらかの魔法陣を植え付けられているはずだ。それを一刻も早く解除する必要がある。だが,どうやって,解除していいのかわからん」


 女性隊員B「王都に行って,尊師かナタリー最高顧問にでも聞くしかないわね。あなたには,時間がないのよ。王都に行って,彼らを捕まえるのがいいわ。金貨50枚もあれば,なんとかしおてくれるかもしれないわ」


 隊員A「そうか。なるほど,その手があったか。王都への転移座標点は覚えている。じゃあ,早速,行ってくる。じゃあ,リーダー,失礼します」


 隊員Aは,その場で,遠距離転移に必要な魔法石を4個ほど取りだして,地面に設置させて転移魔法陣を起動した。そして,遠距離転移を行った。


 バチャーーー!!


 彼の転移は失敗した。隊員Aは,その場で,体がバラバラになって死亡した。


 サルジや女性隊員たちは,言葉を失った。しばし,無言の時間があった。


 女性隊員B「千雪さんは,転移魔法陣を誤動作させるような精神支配を使ったみたい。これで,千雪さんの胸に触った人は,みな死んだことになるわ」

 

 女性隊員C「これから,どうするの?もう,千雪さんと戦うのは絶対にダメよ。もう千雪さんの奴隷でもいいから,生き延びたいわ」


 

 サルジ「もう,充分に千雪さんの強さ,恐ろしさがわかった。明日,千雪さんに会ってくる」


 女性隊員D「それって,降参するの?仲間の復讐しにいくの?」


 サルジ「まだわからん。ただ,明日,千雪さんと会わねばならないという,そんな気がしてきた。それで,殺されてもいいと思っている。なんか,悟りを開いた気分だ」


 女性隊員A「やっとリーダーらしくなったわね。これまで,リーダーの夜のお伴の誘いを断って来たけど,今なら,誘いに乗ってもいい気分だわ」


 女性隊員B「ふふふ,私も同感よ」


 女性隊員C「私も仲間に入れてー」

 女性隊員D「私も私もー--。もしかして,この世の最後かもしれないし,,,」



 サルジは,嬉しさ半分,悲しさ半分の気持ちで,最後の夜になるかもしれない,という恐怖を抱いたまま,女性隊員4名を相手にして,一晩過ごした。

 



ー 散歩コースの森 ー 


 翌日,千雪は,昨日と同じように散歩を繰り返した。


 すると,サルジが,昨日と同じ場所で千雪が来るのを待っていた。


 サルジは,千雪が1人で散歩して来るのがわかっていた。千雪も,サルジがここで待っているのではないかと思っていた。


 千雪「サルジさん。予想通り,ここで待っていましたね。お仲間さんはお元気できすか?」


 サルジ「千雪さん。昨日はありがとう。私含めて6人も生かしてくれて。感謝する」


 千雪「サルジさん。いえいえ,どういたしまして。もし,サルジさんが私の胸に触っていたら,間違いなく全滅できたのですけどね。ふふふ」


 サルジ「なるほどな。山賊の兄貴は,同じ手でひっかかっただな?千雪さんの精神支配は強力だな。兄貴の精神さえも完全に支配できるレベルとは恐れ入った。われわれは,とんでもない化け物を相手にしたものだな」


 千雪「ところで,今日は,どんなご用向きですか?生き残った仲間の方はいらっしゃらないようですけど?」


 サルジ「私の帰りを待っている。生きて帰れるかどうか分からないが,,,」


 千雪「そうでしたか。ところで今回は,私に殺されにでも来たのですか?」


 サルジ「そうとも言えるし,そうでないともいえる。千雪さん。俺と組まねえか。いや。あんたの子分でいい。あんたが俺の親分でいい。あんたの弟子でもいい。あんたの奴隷でもいい。


 千雪「いやです。私にメリットがありません。私のメリットはどこにあるのですか?」


 サルジ「今すぐでなくていい。おれは,また山賊に戻って,仲間を増やす。あんたは,その山賊の親分になるんだ。ちょっとした戦力だぜ」


 千雪「私は,山賊の親分になる気はありません。もっと明確なビジョンを持って提案してください。その時また考えましょう。


 ところで,あなたにとってのメリットは何なのですか?」


 サルジ「あんたの魔力は,どうも普通と違うようだ。あの火炎魔法同士の衝突の中で,結界を使わないにもかかわらず無傷だ。あり得ない。


 つまり,千雪さんは,未知の魔法を使えるSS級魔導士,もしくはそれ以上ということだ。その力を見込んだ。あんたとなら,世界をとれると。


 千雪「サルジさん。わかりました。今,返事することではないでしょう。また会った時に考えますね。それでいいですか?」


 サルジ「千雪さん。じゃあ,前向きに考えてくれ。それと,お願いがあるんだが。


 千雪さんの胸を触りたいのだが,許してくれるか?」


 千雪「え??あなたを精神支配するかもしれませんよ。私に触る人は,全員殺すと決めているのですよ。死にたいのですか?」


 サルジ「昨日の千雪さんの胸には,なぜか危険を感じた。自分だけ危険を察っして,生き残って,仲間を助けれなかった。俺でも,自己嫌悪に陥ったさ。


 正直に言う。


 今日来たのは,小雪さんの胸を触って,死ぬために来た。あの世で仲間に謝りたい。でも,もし,私を生かしてくれるなら,あんたに協力する。あんたの奴隷でいい。もっと面白い世界をあんたと見てみたい」


 千雪「そうですか。いい覚悟です。あなたがわたしの胸を触って死ぬか,もしくは,行きのこるのか,それは自分で確認しなさい。では,あなたを精神支配します。どうぞ触ってください」


 千雪は,ジャージを脱ぎ,サラシを解き,さらにFカップの豊満な胸を露わにした。胸が張っているためか,数日前からFカップほどの胸に変化していた。


 サルジは,死を覚悟して,千雪がはだけた胸を触った。


 あの世で,死んでいった仲間に「申し訳なかった」と謝りたかった。


 千雪は,精神支配した。ただ,それは,リーダーにもっと自信を持たせるものだった。『自信を持ちなさい。あなたは,成長する。全力で努力しなさい,もっともっと成長する。そして仲間を増やしなさい』


 サルジの頭の中に,夏江のその精神支配する言霊が響いた。千雪の胸を通して,千雪からの強烈なメッセージの流れがサルジの頭の中に激流のように侵入してきた。


 サルジの頬に涙が流れた。


 それは,自分を肯定し,自分を卑下せず,自分に自信を持ちなさい,という強いメッセージだった。


 励ましてくれてたのだ。こんな俺を,2度もあんたの命を奪おうとした俺を励ましてくれたのだ。


 3分が経過した。


 サルジ「千雪さん。俺は,あんたの奴隷になった。この命,あんたにあげよう。どんな命令でも聞く。まず,仲間をまた新しく作る。この国を転覆できるくらいの規模の仲間を作る。待っていてくれ」


 千雪「あなたは,もう私の奴隷よ。だから,私の体を触っても,活かしてあげるわ。感謝しなさい」


 サルジ「千雪さん。感謝する。死んでいった仲間には悪いことをしてしまった。でも,弱肉強食の世界だ。それもやむを得ない。では,千雪さん,俺が仲間を増やしたら,千雪さんを再び尋ねよう。その時を楽しみに待っていてくれ」


 千雪「その頃,私がどこにいるかわからないでしょう?でも,私を探しきれないようでは,私の奴隷としては失格ね」


 サルジ「大丈夫だ。あんたのような化け物,すぐに見つけるさ。いくら能力を隠しても,隠しきれるものじゃない。千雪さん,いや,今後は,『姉御』と呼ぶことにする。今後,逢うときは,大勢の仲間を引き連れて,姉御の前に現れる。じゃあな」


 千雪「楽しみにしてるわ。元気でね」



 サルジは,自分の泊っている旅館の部屋に戻った。そこでは,女性隊員A,B,CとDが待っていた。


 女性隊員A「リーダー,生きて戻ってきたのね。よかったわ。それで,どうなったの??」


 サルジ「ああ,俺は,千雪さん,いや,これから姉御と呼ぶことにするが,姉御は,いずれ天下を獲る逸材だ。俺は姉御と一緒に歩むことにした。お前たちはどうする?一緒についてくるか?」


 彼女ら4名は全員,サルジについていくことに同意した。


 それから間もなく,彼らは,転移でこの部屋から消えた。


ーーー

 そんなことがあってから,リスベルは,ことあるごとに,千雪の散歩コースの一箇所で千雪が来るのを待った。千雪が来ると,すぐに草むらに連れていって,彼女の胸を触った。リスベル本人としては,その後のもっと激しい行為をしているつもりだ。だが,その実,リスベルは,千雪の胸を触るのと同時に気絶させられ,夢の中で,千雪と幸せな逢瀬を繰りかえしていた。


 エルゼとフレールは,気絶したリスベルの隣で,収納指輪からテーブルと椅子を取りだして,コーヒータイムの時間だ。千雪もちゃかりそのお相伴にあずかった。蚊などが襲ってくるが,すべて無防備のリスベルを襲った。リスベルの顔には,すでに100箇所以上という赤い虫刺されの痕が痛々しく残っていった。


 でも,夢の中の出来事とはいえ,リスベルにとっては,現実と思っているので,虫刺されなど気にせずに,毎日,千雪との『逢瀬』を楽しんだ。



 千雪がリスベルの屋敷に転送されてから4ヶ月が経過した。



 ー 夕食時の食堂 ー


 ルベット夫人「千雪さん。リスベルさんとは,最近,どうですか? ときどきは,一緒に散歩しているようだけど,リスベルのこと,少しは好きになってくれましたか?」


 千雪「はい。だんだん,好きになっている感じがします。リスベル様は,優しく接してくれますので,少しずつ意識するようになってきました」


 ルベット夫人「そう,よかったわ。結婚のこと,少しは考えてくれてるの?」


 千雪「いえ,それはまだです。前にも言いましけど,ほかにすべきことがあるような気がしてならないのです」


 ルベット夫人「まだ時間があるから,よく考えてね。何かこの屋敷での生活で困ったことあるの?何かほしい物ありますか?」


 千雪「リスベル様はとても紳士的に振舞ってくれますし,リスベル様の,その魔法陣の知識など,とても勉強になります。研究ノートなど,リスベル様の部屋にありますので,リスベル様の部屋の出入りを許してもらえると,ありがたいのですが,,,」


 ルベット夫人「そうね。千雪さんがそれでいいなら,結構よ」


 ルベット夫人やベルダン領主は,2階に来ることはない。つまり,これで千雪はリスベルの部屋で生活できることになる。このことは,リスベルにとっては,千雪を24時間,奴隷として扱えることを意味する。


 では,なぜ千雪は,自らそのような窮地に自分の身を置いたのか? 千雪にとっては,リスベルの存在など,今では,簡単に精神支配できる弱者でしかない。なんの脅威にもならない。ならば,リスベルがこれまで貯めてきた魔法陣に関する研究ノートを盗み見するいい機会だと思った。


 ただ,ちょっと気になるのは,リスベルが徐々に千雪の精神支配に対して免疫が出来てきたことだ。これまでは,数秒で意識を飛ばせることができたのに,今では,30秒もかかっていまう。勢い,上級レベルからS級にあげて,再び数秒で意識を飛ばしている。でも,このままいけば,いずれ,SS級レベルまでも霊力が必要になるのではないかと思ってしまう。でも,その時,また考えればいいだけのことだ。



ー リスベルの部屋 ー


 この日の夜から,千雪は,リスベルの部屋で過ごすことになった。つまり,リスベル,千雪,エルザ,フレールの4人での共同生活だ。


 その日の夜,千雪は,いつものようにリスベルに胸を触らせて精神支配を行い,夢の世界に引きずり込んであげた。


 そして,リスベルの隠している魔法陣の研究ノートを盗み見していった。


 ガーーン!


 そのノートは,古代文字で解説が書かれていた。これでは,1ページ読むのに,事典を引くだけで,1ヶ月以上もかかってしまう。


 千雪は,これでは何のために,リスベルの部屋に入れるようになったのか,意味がないと思った。


 已むなく,これまで行ってきた霊力の修行を地道にすることにした。


ーーー

 それからの2か月間は平穏な日々だ。


 リスベルの仕事は,週に2日くらいは出張があり,住民間のトラブル解決などした。


 それ以外は,午前中の仕事で,その日の業務が終了した。午後からは,千雪をベッドに引き入れて奴隷として扱う日課だ。それは,リスベルの頭で理解している内容だ。千雪をベッドに引き入れる行為,それは,リスベルが千雪によって精神支配されて夢の中で逢瀬を楽しむということに他ならない。


 ただ,奇妙なのは,お腹の膨らみは,妊娠6ヶ月のはずなのに,相変わらず妊娠3ヶ月程度で,ちょっと食事を食べすぎたお腹のような膨らみに過ぎなかったことだ。


 千雪が屋敷に来て半年が経過した。


 リスベルとの奴隷契約が終了する日が来た。


 この日以降は,千雪は自由の身になるのだ。なんら,リスベルに縛られる必要がない。


 当初,ルベット夫人は,リスベルとの奴隷契約が切れた後,千雪は,リスベルに対して復讐心を持つ可能性を指摘していたが,今はそんな心配はしていない。リスベルと千雪が,仲良くしている様子であり,千雪がリスベルとの結婚を承諾するのも時間の問題だと思った。



ー リスベルの部屋 ー

 

 リスベルは,奴隷契約が切れたので,今度の千雪の予定を聞いた。

 

 リスベル「千雪。これからどうするのだ?このままこの屋敷にいるのか?屋敷に残ることは,母も同意している。私たちは結婚はしていないが,すでに千雪は家族の一員だ。このまま,ここを自分の家と思って,安心してお腹の子を産んでほしい」


 千雪「リスベル様。今日で半年間の奴隷契約が切れたのですね。早かったです。いろいろありましたけど,ありがとうございました。


 これからのことですが,,,,」


 千雪が,今後のことについての返事を渋っている時だった。



 ゴゴゴゴ,ゴゴゴゴーーー!!!!


 大きな揺れる音がして,この屋敷の天井が崩れだした。とっさに,千雪は,霊力で全身を覆って,リスベルを自分の体で保護した。


 千雪は,霊気で覆ったのにもかかわらず,リスベルを抱いたまま,天井が崩れ落ちた瓦礫に直撃して気絶した。


 SS級並みの防御力を誇る千雪にとって,こんな瓦礫ごときで気絶するはずがなかった。千雪の気絶には,別の要因が絡んでいた。


 エルザとフレールは,自分の身を守るのが精いっぱいだ。瓦礫から這い上がり,リスベルと千雪を引きずり出した。リスベルは少しのかすり傷で済んだ。千雪も外傷はまったくなかった。しかし,千雪は意識がなかった。


 リスベル「千雪!千雪!千雪!!」


 リスベルは,何度も千雪を抱きながら叫んだ。しかし,千雪の意識は戻らなかった。


 そう叫んでいたリスベルは,叫びながら,意識が遠のいた。そして,エルザもフレールも同じく意識が遠のいた。


 この屋敷にいる全員が皆,意識が遠のいていった,,,


 ーーー

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