第10話 夜襲と盗賊

 千雪が屋敷に転送されて3カ月が経過した。


千雪は,毎日,食堂か閲覧室か自分に与えられた部屋にいた。亜空間へは,荷物を取りに行く程度だった。


 ルベット夫人はやさしかった。毎月,一回はお医者さんを呼んで千雪を診断させた。2か月は特に問題なく,今日が3ヵ月の診断だ。


 診断する部屋は,2階右奥にある千雪の部屋だ。そこで待っていると,ドアがノックされ,『定期診断です』といつも女医の声がした。千雪は,どうぞお入りください。と返事した。


 ドアが開けられ,女医が入ってきた。ドアの外では,2名の女性が待機していた。


 千雪「ドアの外で待機しているのは,誰ですか?」


 女医「今度,新しく採用した助手です。回復魔法が得意なので,しばらく様子をみようと思っているところです」


 千雪「そうなんですね。そんなドアの外に立たせていないで,部屋に入ってください」

 女医「そうですね。2人とも女性ですから,問題ないでしょうね。お2人さん,お入りなさい」


 外で待機していた2名の女性が部屋に入ってきた。


 助手の1人「私たちは,回復魔法が少々使えますので,しばらく先生のもとで,助手をすることになりました。よろしくお願いします」


 助手の2名は,千雪に向かって頭を下げた。


 千雪「こちらこそよろしく」



 女医は,千雪の腹部の胎児の状況を診断して,正常に推移していることを千雪に説明した。さらに,生活上の注意事項などをいくつか説明して,診断を終了した。


 女医らが帰った後,千雪は違和感を感じた。なんで助手が二人も来たのか?助手らの行動にとりたたてておかしな部分は見られなかったが,千雪は胸騒ぎを感じた。


 考えられる可能性としては,この家の誰かを襲撃するために下見をしに来たのではないか?それなら,かなり手がこんでいる。ターゲットは誰?リスベル?ベルダン領主?千雪?


 ちょっと考えてもわからなかった。とりあえず,千雪は,自分の違和感を,リスベル,ベルダン領主とルベット夫人に伝えた。


 千雪の部屋は2階にあるので,2階から風魔法を使って飛び降りても,安全に着地できる準備を整えた。ただ,飛び降りた地点で,相手が何らかの魔法陣をそこに設置している可能性がある。もしくは,敷地の外側の空間にも何かしかけているかもしれない。


 それならば,この部屋で相手を迎え撃つほうが得策と考えた。そこで,ベッドで寝ているかのように,毛布をまるめてから布団かぶせて,そこで千雪が寝ているかのような状況をつくった。 

 

 そして,全裸になり,部屋の角にあぐらを組んで,周囲の壁と保護色になるように霊力を体表に流した。


 部屋の魔法灯も消したので,真っ暗になっただが,夜目が効く魔法士や剣士にとっては,あまり暗闇は意味がない。


 屋敷の敷地近くには,すでに襲撃部隊が集結していた。集めたのは,S級魔法士2名,S級剣士2名,上級剣士2名,上級魔法士2名の合計8名だ。暗殺を行うので,多人数は不要だ。


 このチームのリーダーは,千雪によって精神支配を受けて死んだ山賊のボスの弟で,サルジという人物だ。


 サルジは,兄があのように死ぬはずがないと信じていた。そして,兄が死ぬ前の状況を徹底的に調べ上げた。そして,千雪という女性が領主から派遣されたことを突き止めた。


 どのようにして兄を殺したのか知らないが,千雪は,行動を支配する特別な魔法士だと推定した。


 魔法レベルはS級と推定した。S級でも,千雪の若さからすれば,理解しにくいのだが,安全をみてS級とし,行動を支配する特別な魔法士という認識で攻撃作戦を練ってきた。


 千雪の部屋には,カーテンがしてなかった。外から見える。上級魔法士で風魔法を扱えるのなら,自分自身を浮遊させることができる。


 このメンバーにもいた。千雪の診察に際に来た助手の一人だ。彼女は,偵察要員としての風使いだ。


 リーダーのサルジは彼女に,窓から部屋の中の様子をさぐらせた。幸い,近くに樹木が並んでいるので,身を隠すには好都合だ。


 風使い「部屋の隅までは見えませんが,ベッドで寝ているようです」


 風使いは,日中に千雪の部屋の様子を見ていた。さらに,部屋の配置を詳しく説明した。


 そこで,リーダーは,S級魔法士に,2名の上級剣士の着ている服に,魔法攻撃無効化結界を設置させた。


 その稼働時間は90秒だ。でも,90秒もあれば充分だ。


 

 上級とS級剣士の区別は,加速が使えるかどうか,という以外に,剣の刃がどれだけ届くかにある。


 S級の振るう剣は,するどい鋭利な風の刃を形成し,その長さは10mにも達し,それだけで,岩をも切ってしまうのだ。上級では,風の刃を1m程度くり出すことができる。剣の届く範囲が,さらに1m長くなると思えばよい。


 だから,剣士でも上級ともなれば,かなりの手練れと認識される。


 その剣士の服に,魔法士が魔法攻撃無効化結界を設置するのだ。必勝のパターンと言っていい,



 作戦開始だ。上級剣士2名が転送された。


 

 真っ暗な千雪の部屋に,魔法陣が浮かび,上級剣士2名が出現した。


 彼らは,出現するや否や,速攻でベッドに向かい,千雪が被っている布団の上から剣を突き刺した。目にも止まらぬ動きだった。


 しかし,その早業は,千雪も同じだった。いや,それ以上だった。転送されたと分かった千雪は,3倍速で動き,かれらの首をその場ではねた。


 千雪の体にかかった血しぶきは,体表の霊気によって,千雪の体に付着することなく,滴り落ちた。


そして,千雪はもとの角に戻り,あぐらを組んで,角に同化した。


 サルジは,いつまで経っても窓から飛び降りて,戻ってこない仲間に業をにやし,風使いに空中浮遊させて,様子を見させた。



 風使いが,窓ごしで見たものは,首が離れている胴体だった。


 風使いは,サルジにすぐ報告した。


 風使い「首がはねられて死亡していました。部屋には,死角になっている場所があるので,千雪がまだ隠れていると思います」



 サルジ「くそっ!じゃあ,あの部屋を攻撃する。爆裂魔法で壊せ!」


 風使い「リーダー。それはだめです。領主がでてきます。SS級ですよ。われわれでは太刀打ちできません。ここは,いったん引きましょう。別の方法を考えましょう。焦りは禁物です」


 サルジはくやしかった。しかし,風使いの言い分も,もっともだ。


 サルジ「止むを得ん。残念だが,ここは,いったん引く。撤退だ」


 2名の剣士を失ったサルジらは,転移魔法で去った。



 この日,千雪は,一晩中,あぐらを組んで,霊力の修練を行った。


 千雪の場合,修練中は,眼をつむることが多い。明け方,ゆっくりと目を開けた。ベッドの片隅に置いといた服を着た。部屋に転がっていた頭蓋骨と胴体は,転送魔法陣で,敷地に転送させた。



 また,死体の血のりは,時間をかけて掃除していくしかない。今回の千雪の作戦は悪くはないが,部屋を汚すという点では,最悪な方法だ。


 朝の散歩で,敷地で死体を見つけたリスベルは,父にすぐ報告した。血のりがないことから,どこからか転送されたものだ。リスベルは千雪の安否が不安になった。


 リスベルは千雪の部屋のドアを叩いた。


 ドンドン!



 リスベル「千雪さん。千雪さん。生きていますか?」


 リスベルはかなり気が動転していた。千雪からの返事がないので,エルザにドアを壊すように命じた。


 エルザはS級剣士だ。このレベルになると,剣を持たなくても,手さばきだけで風の刃を出すことができる。


 エルザは華麗な手さばきを見せた。


 ガタガタガガタ!!


 幾重の風の刃がそのドアを粉々に粉砕した。


 

 リスベルは声を失った。ベッドには2本の剣が刺さっていた。床には一面の血のりだ。


 エルザはとっさに剣を抜いた。フレールもすぐに3名が転移できるように,魔力を高めた。


 一瞬,緊張が走った。



 千雪「攻撃を止めてください!千雪は無事です!」


 千雪は霊力の修練を中断した。全身を保護色にしているので,彼らは千雪を発見できない状態だ。


 リスベル「千雪か?どこにいる??」


 千雪「この部屋には私しかいません。安心してください」


 千雪はゆっくりと保護色を解いた。


 部屋の片隅で,千雪があぐらの姿勢で,全裸の姿を現わした。


 

 リスベルは千雪が全裸の姿で現れたことにびっくりした。裸体の美しさもさることながら,千雪は透明化できるのだ。なんと,すごい能力だ!!

 

 それは,エルザやフレールも同感だった。透明化できる魔法など,聞いたこともない。


ーーー


ー 食堂 ー


 千雪は服を着て,リスベルらとともに食堂に移動した。そこで,全員集まってもらい,昨日の顛末を話した。 


 

 ベルダン領主「今回の襲撃では,明らかに千雪さんを狙ったものだ。千雪さん,襲撃されたことに心当たりはありますか?」


 千雪「たぶん,2か月前の山賊討伐で,逆恨みされたものではないでしょうか。それくらいしか心当たりはありません」


 ベルダン領主「そうか。千雪さんが,狙われている以上,屋敷内の安全面の強化をしていく必要があるな」


 リスベル「では,エルザとフレールを一時的に,千雪さんの護衛にまわすのはどうでしょうか?」


 千雪「わざわざ私のために,何かをしてもらう必要はありません。屋敷の中で襲われるよりも,屋敷外で襲われるほうがいいと思います。


 ですから,今後,私は朝夕1人で散歩して,敵をおびき寄せます」


 ベルダン領主「作戦としては悪くないが,危険すぎる。承知できない」


 ルベット夫人「千雪さん,いったい,何を考えているのですか!!あなたは妊娠しているのですよ!少しは,お腹の子の心配をしなさい!!」



 千雪「ルベット様。体を気遣っていただき,ありがとうございます。ですが,ご承知の通り,昨晩,私は部屋で襲われたのですが,なんら,怪我することもなく,敵を撃退しました。それに,私には,指輪の精霊がついています。万一の時は,私を助けてくれるはずです。


 それに,屋敷の中で敵を迎え入れる方が,リスクが大きいです。家族の方に被害が及ぶ可能性があります。その場合,家族全員の安全を考えないといけません。領主様の負担があまりに大きいです。


 私は,決して無理はしません。朝夕の散歩で,敵をおびき寄せる作成に同意してください。私の魔法士としての能力は,この指輪がある以上,SS級レベルに達しています。決して,山賊ごときに遅れをとることはありません」


 リスベル「千雪さんの言っていることは,決して,大げさではないと思います。先ほど,私は,びっくりしたのですが,千雪さんは,体を透明化することもできるのです。いったい,この魔界で,だれが透明化することができるのですか??


 千雪さんの能力は,S級ではなく,すでにSS級,もしくは,それを超えるほどの能力を持っているとみていいでしょう。そうなると,屋敷のメンバーに危険が及ぶ籠城作戦よりは,千雪さんが屋敷の外に出て,敵を迎え撃つという作戦の方が,理にかなっています。それに,千雪さんのレベルであれば,体になんら負担をかけないで敵を打つことも可能でしょう。透明化してしまえば,もう敵は,千雪さんを視覚することさえできないのですから」


 ベルダン領主「千雪さん,透明化できるって,ほんとか?」

 千雪「はい,できます」

 ベルダン領主「なんと,,,そんな能力もあるとは驚きだ。もう,敵なしだな。もしかして,千雪さんの能力は,魔力ではないのかもしれんな」


 フレール「魔力ではないって,,,では,何ですが?」


 ベルダン領主「私もよく知らないのだが,魔法陣を起動するのに,魔力以外にもう一種類あると聞いたことがある。確か,れー-なんとか??」


 千雪は,そろそろ自分の能力を明らかにする時期だと感じた。


 千雪「やはり,自分の能力をいつまでも隠し通せるものではないですね。はい,その通りです。私は,魔力を使いません。その代わり,霊力を使います。


 霊力使いです。霊力は,体から放出することはできません。でも,そのかわり,体表に長く留まる性質があります。そのため,私がこの体を防御しようとすれば,強固な防御層を構築できます。SS級の魔法攻撃をいくら直撃しても,この体に傷1つつけることはできません」


 魔法士として,魔法に詳しいベルダン領主とフレールは,びっくりした。霊力のことは聞いたことがある。体得するのに非常に難しい『魔法』だ。それ故,この魔界では,廃れて失われた技術だ。魔界で使える人は,ほとんどいないのが実情だ。


 その霊力を使える人が,目の前にいるのだ。しかも,そのレベルは,SS級並み! 驚くなという方が無理な話だ。


 

 ベルダン領主は,驚きの気持ちを抑えて質問した。


 ベルダン領主「なるほど。そうなのか。では,火炎攻撃をするときは,どうやって,魔力に変換するのかな?」


 千雪「私の体に,変換させる魔法陣が刻まれています。放出系魔法を使う場合,意識せずに使うことができます」


 ベルダン領主「なんと,それはたまげた。そんなことができるのか!! そんな魔法陣を構築できるとすれば,,,この魔界では,尊師しかおるまい。まさか,千雪さんは,尊師の,闇の死刑執行人の弟子なのか?」

 千雪「はい,そうです。尊師の弟子です。尊師の元で霊力を修行しました」

 ベルダン領主「そうでしかか,,,つまり,千雪さん,あなたは,暗殺者として育てられたのか??」


 千雪「暗殺者として育てられたわけではないと思います。尊師もこの指輪の指示で動いたと言っていました。私は,霊力を実践する者として,『霊力は魔力よりも優れるものだ』と,知らしめるために育てれたと理解しています」


 千雪は,さらに言葉をつなげた。


 千雪「私に攻撃してきた者で,これまで生き残れた人はいません。例外はありません。つまり,この魔界で,私に勝てる者はいないと思っています。尊師ですら,もう私の敵ではありません。ですから,安心してください」


 この千雪の言葉は,まさに『暗殺者』としての言葉だった。つまり,千雪が狙った相手は,必ず死ぬ運命にある! 別の意味で,安心できないものだ。


 もう,千雪の提案に,反対する人はいなかった。



 相手をおびき寄せるため,千雪は毎日散歩した。早夕の散歩だ。一回45分程度。人気のいない森を散歩する。


 朝の散歩はいいものだ。でも,常に,体表に霊力を流して,防御体勢は維持していた。


 千雪が毎日散歩する行動パターンは,すぐに先日襲撃したリーダーのサルジに伝わった。



 ー サルジの泊まっている旅館の部屋 ー


 サルジ「千雪は,人気のいない場所で,正々堂々と勝負したい,という意思表示だな。それに,乗ってやろうじゃないか。


 相手は一人だ。しかし,魔法攻撃無効化結界の服を着た剣士2名を倒すことのできる強者だ。何か,いいアイデアを出せ」



 隊員たちからいろいろとアイデアが出されたが,どれもありふれて,ぱっとしなかった。


 隊員A「話し合いは,どうでしょう?勝負するよりも,話し合いで解決すればいいのではないでしょうか?」


 サルジ「たとえば??」


 隊員A「われわれは,いま,30名にもなっています。人数では圧倒的です。一人倒すのに,5分くらいかかるとして,10名も倒せば,体力もなくなります。彼女は妊娠しています。そんなに無茶はできないはずです。自分が負けるとすぐ理解するはずです。


 千雪という女性も,そんなにバカではないでしょうし,死にたくもないはずです。


 

 例えば,リーダーと一晩過ごせば,もう手をださない,と契約でもすれば,処女でもないし,乗ってくるのではないでしょうか。その場合,リーダーの次に,私がお願いしたいのですが」


サルジ「色気を出すのは禁物だが,まずは,交渉する手はあるようだな。決闘の日にちを決めてもいい。なんせ,一人で,このような人気のないルートを毎日歩くということは,腕によっぽど自信があるか,なにか秘策があるに決まっている。


 まずは,交渉だな。その場での決闘もありうると思って,準備しておけ」



ー 散歩コースの森 ー


 その日の夕方,千雪は,ひとりで森を散歩していた。


 サルジが,千雪の20m手前に姿を現した。


 サルジ「千雪さん,あなたと話がしたい」


 サルジは,ゆっくりと距離を詰めた。


 千雪「どうぞ,なんでしょうか?」



 サルジ「すでに知っていると思うが,私は,あなたが殺した山賊のボスの弟だ。サルジという。あなたは,兄の仇になる。


 われわれの仲間は,あなたの周囲を覆ている。総勢30名だ。あなたがどのような秘策があるがあるかわからないが,あなたが勝つ可能性は低い」


千雪「サルジさん。まあそうでしょうね。よく,こんな大勢の人員を集めましたね」


 サルジは,気をよくした。


 サルジ「ふふふ。もの分かりがよくて結構だ。どうだ,取引しないか?あなたもここで死にたくないでしょう。それにお腹も少し膨らんでいる。お腹の子も心配でしょう。


 私たちと相手にしてくれるなら,あなたに今後,一切手出しはしないと約束しよう。どうだろうか?」


 千雪「取引とは,魔法陣の契約をしするという意味ですか?契約の細かな条項を言ってもらえますか?」


 サルジ「われわれの要望は,私たち全員とあなたとの性交渉だ。それが叶うなら,今後,われわれはあなたの前に姿を現さない。単純な取引だ」


 千雪「そうですか。欲望が明確ですね。残念ですが,それにはお答えできません。

 でも,私の胸を3分くらい触らせるくらいなら,Okしてもいいです。


 みなさんは,私の裸を見れるし,胸も触ることができる。性交渉を含むと,お腹の子が心配です。


 その代わり,あなた方は,今日だけ,私を見逃てもらう,ということでどうでしょう。明日以降,何度も,私を襲うことができますよ」



 サルジ「ほう。そうきたか。千雪さん。あなたは,まだ自分の立場がわかっていないようだ」


 千雪「リーダーさん。いえ,それは,あなたの方だと思います。私は,あなた方全員を倒すことは無理ですし,ここで死ぬかもしれません。でも,ただでは殺されません。戦うとすれば,私は,確実に10名くらいは殺せる自信があります。


 リーダーさんの選択は,仲間の犠牲を出してでも私と戦うのか,もしくは,犠牲者ゼロで,私の裸を鑑賞し,胸を触ることで,私を見逃すか,そのどちらかです。


 わたしは,すでに死ぬ覚悟はできています。死ぬ覚悟のできた人間は,いさぎよいです。でも,あなた方は死ぬ覚悟で,私と戦えますか?


 私はこれでもS級魔導士です。再度いいます。15歳でS級魔導士です。たぶん,この魔界で15歳でS級は,わたしくらいでしょう。あなたがたは,そんな天才魔導士と戦うのです。けっして無傷で済むとは思わないでください。


 かつ,昨日は,剣士2名の首をはねました。あなた方を殺すのになんらためらうことはありません。


 私の裸は美しいと見た人は言っていました。自分でもプロポーションには自信があります。胸はもともとBカップですが,妊娠しているため,今ではDカップにまでなっています。もし,強く乳房を握ったら,母乳がでるかもしれませんよ。


 3分間,自由に乳首を吸ってもらってかまいません。強く握ってもらってもかまいません。


 自分が死ぬかもしれない戦いをするか,もしくは,3分間,私の美しい胸で幸せな時間を過ごすかの選択になります。


 時間は,十分にあげます。どうぞゆっくりと判断してください」



 サルジはびびった。なんて,肝の座ったやつだと思った。


 数人の隊員がサルジに言い寄って来た。


 隊員B「彼女の言い分も,もっともですよ。われわれが無傷で,彼女を確実に殺せる方策がない以上,われわれの方は犠牲者がでてきますよ。今日のところは,おっぱいを触ることで,がまんしましょう」


 この考えが優勢になった。


 サルジは,千雪が胸を3分間触ってよいという具体的な時間を言ったことに多少違和感を覚えた。そこで,3分の理由を聞いた。


 サルジ「千雪さん。じゃあ,千雪さんのおっぱい3分で手を打とう。でも,なんで3分なんだ?2分とか,5分ではだめなのか?」


 千雪「5分でもいいです。でも,30人もいれば,150分,つまり,2時間半もかかってしまいます。3分だと,1時間半で終わります。もし2分なら,あなた方の満足度が下がるでしょう?3分くらいがいい感じかと思っただけです」


 サルジは,言われてみれば,理にかなっていると感じた。3分もあれば,結構,満足感を得ると思った。


 サルジは隊員全員に聞いた。

 サルジ「胸に触る方がいいもの,手をあげろ」


 全員が手をあげた。女性の隊員も手をあげた。結局のところ,彼らも死にたくはないのだ。


 サルジ「あなたの提案に乗ろう。では,契約条項を決める。

 

 われわれ隊員は,千雪さんの胸を3分間触る,吸う,握ることができる。それ意外の性行為は含まない。その対価として,今日に限り,千雪さんに危害を加える行動はしない。千雪さんは,今日に限り,われわれに危害を与えてはならない。



 この契約条項には穴があった。この条項では,行為者に霊力を注入して,時限精神支配魔法陣を植え付けることをしてもよいことになるのだ。


 サルジは契約をするという経験がなかったため,文言が単純だった。千雪につけ入る隙を与えてしまった。


 千雪は,時間差で相手を殺せる魔法陣をいくつか完成させていた。タイマー機能を有する時限魔法陣は,リスベルと一緒に古代魔法書を解読して見つけたものだ。あらゆる魔法陣に付加機能として連結させることができる。そのため,時間差で殺害する方法にバリエーションができた。



 サルジと千雪は,宣誓魔法陣による契約を交わした。


 サルジ「これで契約は成立だ。では,千雪さん。胸をはだけてもらおうかな?」


 サルジは,終始,千雪を『千雪さん』と丁寧に呼んだ。15歳でS級魔法士,という超天才魔法士への尊敬の現れだ。


 千雪「時間が1時間半にもなるので,横たわせてもらいます」


 千雪は,上下のジャージを脱ぎ,淡いピンク色のサラシをゆっくりと解いた。その動作に,30名の部下は,釘付けになった。女性隊員が5名いるが,その彼女たちでさえも,その若々しさ,美しい裸体に性的興奮を覚えた。


 30名の誰もが,『俺は,幸せだ。この討伐チームに入ってよかった』と感じた。


ーーー

 千雪は全裸になり,脱いだ服を地面に敷いた。その上に仰向けに横たわった。


 お腹の膨らみは,裸体の美しさを決して損なわせなかった。Dカップの大きさになった胸は,男性隊員の下半身を膨張させ,どうしようもない状況にさせた。


 胸を触らせるだけでいいのであれば,全裸になる必要はない。だが,死にゆく者への冥途の土産代わりだ。その意味では,千雪は,非道な性格ではなく,やさしい女神のような性格だ。


 千雪「どうぞ,胸を触ってください。乳首を吸ってもいいです。母乳が出るなら,それを飲んでもいいです。でも,お腹を圧迫しないでください。お願いします」



 サルジは,なぜだかわからないが,相変わらず,違和感を感じていた。それが何なのか分からなかった。不審死した兄の死に対する警戒感が,サルジをそうさせたのかもしれない。


 サルジは,自分からではなく,近くにいた隊員Aから千雪の胸を吸わせた。隊員Aは,お腹を圧迫しないように,四つん這いになって,乳房を掴んで,乳首を吸った。


 「ウヒョー!!母乳だ出たーー!」

 

 隊員Aは,乳首から出てきた母乳を見て叫び,すぐに,乳首を思いっきり吸った。思わず,必要以上に乳房を握りしめた。


 3分という短い時間はすぐにきた。名残惜しそうに,次の隊員と代わった。


 「チェ!!3分って,すぐだな。もう下半身が爆発寸前だ。この後,すぐ娼館に行かなきゃな!」


 隊員Aには,ある精神支配を行った。その内容は,転移魔法を発動させる時,その魔法の失敗を引き起こさせるものだ。この精神支配を行って気づいたことは,意外と霊力量を消費することに気がついた。もっと,単純な精神支配にしないと,霊力が持たないと思った。


 そんなことを考えているとき,『すぐ娼館に行かなきゃな!』という声が聞こえた。その声を聞いて,千雪は,精神支配の内容を,『無限に快楽を追求しなさい』というものに切り替えることにした。この単純な内容の精神支配なら,さほど霊力は必要としないので25人に施すことも可能だ。


 その精神支配の内容は,なんら人に危害を与えるものではない。でも,千雪は,これで充分だと思った。なんでもやり過ぎはよくないものだ。どこかで破綻がするはずだ。そこに期待する精神支配だ。


 この単純な精神支配なら3分間の胸への接触など必要はない。20秒程度でよかった。残りの2分40秒は,見知らぬ男たちに胸を触られるなどの行為が,繰り返された。でも,千雪は,この2分40秒を楽しむようになった。自分の手を口にもっていき,指をなめる行動をしだした。


 10人目の隊員J は,千雪がかなり性欲に支配されてきたのがわかった。そこで,リーダーのサルジに質問した。


 隊員J「リーダー,もう我慢できません。彼女の唇にキスしていいですか?彼女のあそこは,もう濡れていますよ!!」


 だが,サルジの答えは怒りを伴ったものだった。


 サルジ「てめえ!!俺を抹殺させる気か!!お前がそんな行動したら,俺は,この世から,霊体さえも消滅してしまうんだぞ!!」


 隊員J は,恐縮し,すいません,すいませんと謝った。他の隊員も同じような性的欲情を持ったが,サルジの一喝に恐縮した。


 24名の男性隊員が千雪の胸を触り終えた。残りは,女性隊員5名とサルジだけだ。


 女性の隊員は,唾液にまみれた千雪の体に触る気がしなかった。彼女らはパスした。


 最後にサルジの番だ。だが,彼は動かなかった。


 サルジ「もう,お前らは満足したか?」


 隊員C「こんな超美人の裸を前にして,抱けないのは不満ですけど,おっぱいを触れてことでよしとしますわ。リーダーも,早く胸をいじくりまわしてくださいよ!」


 サルジ「いや,いい。お前らがそこそこ満足したならそれでいい。千雪さん,これで終わりだ。よく付き合ってくれた。ありがとう」


 彼女は,ゆっくりと起き上がりながら返事した。



 千雪「いえ,お礼には及びません。お互いが納得して契約したものです」


 千雪は,起き上がった後,体全体に霊力を流して,体に付着した唾液や,半分白濁した液体などを,雨の雫が垂れるかのように地面へと吸収させた。


 その光景を見ていた隊員たちは,びっくりした。いったいどんな魔法を使えば,そんな芸当ができるのかと,,,


 その時だった。


 20mほど遠方から,火炎魔法がリーダーのサルジを襲った。


 ヒュー――!


 バババババー-!


 サルジは,慌てて,魔法攻撃無効化結界を作って,ぎりぎり防止した。


 サルジもS級火炎魔法士だ。



 魔界の人の魔法属性は,約9割が火炎系であり,その他の系統は,少数派に属する。2系統,や3系統を扱う魔法士は少数だ。千雪は,師匠に魔力転換魔法陣を体内に植え付けされているので,全属性の魔力放出が可能だ。


 ヒュー――!ヒュー――!ヒュー――!



 続けざまに,火炎が連射されて,隊員30名の方向に向かった。すぐに,隊員の中からS級剣士2名とS級魔法士が彼らの前面に出て,その火炎を防御した。



 S級剣士は,剣を素早く振って,強烈な風刃を形成し,火炎を真っ二に切り裂いた。その勢いで,火炎は刃の後ろに形成される真空状態の部分に吸収されて消失した。この炎を消失させる技は,S級剣士以上ができるものだ。


 奇襲攻撃に対しての動きは,隊員らは熟知している。上級魔法士らは,後方から敵に向かって遠距離からの火炎反撃を行った。上級剣士は,敵を包囲するように鶴翼の陣を敷いた。


 

 敵は2名だ。魔法士と剣士だ。エルゼとフレールだ。彼女らは,全裸で起き上がる千雪を見て,慌てて千雪を援護しようと,フレールが火炎攻撃をした。


 エルザとフレールに,反撃の火炎攻撃が迫った。


 エルゼが一歩先に出て,迎え来る火炎を剣で切り裂いて消失させた。その疾風の刃は10m以上も先まで届いた。明らかにS級レベルの技量だ。


 彼女らは,鶴翼の陣を敷いた30人を前にして,何ら臆することはなかった。



 彼女らの奇襲は千雪の計画を邪魔した。


 千雪の帰りがいつもより1時間以上も遅いので,探しに来たのだ。そして,全裸の千雪が起き上がるを見て,とっさに,周囲の盗賊らに攻撃したのだった。


 この状況は,エルザとフレールにとっては,かなり不利な状況だ。だが,フレールは,いつでも転移魔法で,エルゼを連れて逃げる準備をしているので,危険な状況とまではいえない。


 リスベルは,この戦いでは,邪魔になるので,遠方に身を隠した。


 その後,鶴翼の陣から,次々と火炎攻撃が連射された。フレールも,また,SS級とまではいかないが,火炎攻撃の並列連射攻撃を行うというSS級にせまる火炎攻撃の連射を行った。


 その両者の火炎攻撃が火花を挙げて衝突した。


 この時,千雪は突拍子もない行動にでた。


 全裸のまま,両者の火炎が飛び交うその衝突点に向かった。


 バアーーーン!


 火炎と火炎が衝突する音が響いた。その衝突点に,なんと,全裸の千雪が躍り出たのだ。 


 

 サルジ「攻撃止めー--!!!」


 エルザ「フレール!攻撃やめてーー!!」


 

 千雪の異常な行動により,サルジ側もエルザ側も,慌てて魔法攻撃を中止した。特にサルジにとっては,今日の間は,千雪を傷つけてはならないという契約がある。これ以上,千雪を傷つけると,ほんとうに契約違反になってしまう。


 千雪は,全身で双方からの強烈な火炎をそのまま浴び,かつ風刃もまともに受けることになった。S級・上級の火炎攻撃とS級の風刃攻撃の連続攻撃だ。


 

 千雪の異常な行動を見て,エルザとフレールは驚愕した。千雪は自殺を図ったと思った。『屈辱されて恥ずかしさのあまり,灰と化すつもりなのではないのか?』



 サルジも同じく驚愕した。


 『なんで,千雪さんは自殺なんかするのだ??無駄死にじゃないか!』とサルジは思った。


 それに,双方の攻撃の衝突点に飛び込むというその意味は,双方の魔力が真正面からぶつかり合い,その威力は何倍にもなる。


 たとえSS級の結界を構築しようと,その超エネルギーに耐えることはできまい。つまり,確実な死を意味する。


 双方の攻撃はピッタリと止んだ。


 灰に化すはずだった美しい裸体は,火炎攻撃でも,風刃による攻撃でも,まったく傷ひとつ,焼けどひとつ受けることなく,無傷でそこにあった。


 サルジらは,唖然とした。ありえないことだ。エルザとフレールも呆然とした。リスベルは,遠くの樹木の裏に隠れており,状況がよくわかってない。


 千雪がやっと,双方の攻撃が中断したので,声をかけた。


 千雪「エルザ,フレール!攻撃を中止しなさい。私は大丈夫です。


 サルジさん,この場はお引きとりください。双方が戦う理由がありません!」


 サルジ「千雪さん,あの攻撃の衝突を,全部防いだのか!!信じられん。SS級でも無理かもしれんのに。


 千雪さん,あなたの能力をあまく見てきた訳ではないが,ここまでの能力があるとは驚きだ。 我々は,引き下がる。彼女らに追撃しないように言ってくれ」


 千雪「わかりました。エルザさん,フレールさん。彼らへの追撃は止めてください。今回のことは,盗賊さんと合意の上での行為です。盗賊さんへの攻撃はもうしないでください」


 エルザ「わかったわ。追撃はしないわ。でも千雪,あんた,ほんとうになんともないの?あんな激しい攻撃をまともに受けて??」


 千雪「見ての通りですよ。なんともありません」


 盗賊団は,足早に撤退していった。


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