第8話 ルベット夫人
朝食は,この屋敷,といっても,2階建ての一軒家なのだが,全員が一緒に食事する。現在の家族構成としては,父のベルダン領主,母のルベット夫人,母の付き人レボン,そして,次男リスベル,彼の護衛であるエルザとフレールの護衛2名,そして今日からリスベルの性奴隷である千雪が加わる。
一階には台所,トイレ,風呂,食堂,そして3部屋がある。この3部屋は,父のベルダン領主,ルベット夫人,母の付き人レボンが使っている。2階は,以前,兄のリスダンと区分けして使っていたが,今は,リスベルが2階の5部屋をすべて占拠している。2階にもトイレ,風呂がある。
食事の準備は,ルベット夫人とその付き人レボンが担当する。ベルダン領主は,何もしない。毎日,いろんなことを空想しながら,生活している。ただ,最近は,王都の動きがいろいろと騒がしく,長男のリスダンから定期的に通信用魔法石で情報が送られてくるので,それらの情報分析と,長男にあれこれと追加の情報入手を指示していた。
領内の内政は,一時期,長男が担当していたが,魔王候補になって領地を去ったため,次男のリスベルに内政を任している。
リスベル「お父様,お母様,レボン,おはようございます」
リスベル一行が食堂に姿を現した。名前をよばれた人たちも,いつも通りの返答を返した。
ベルダン領主は,長いテーブルの中央に座り,その右サイドに,母ルベットと付き人のレボンが座っており,いつもと同じだった。左サイドには,長男リスダン,剣士エルゼ,次男リスベル,魔法士フレールの順に座る場所が決まっており,長男リスダンの場所は空席になっている。
そこで,リスベルは,座席に着く前に,千雪の紹介をした。
リスベル「紹介したい人がいます。半年前,私が地球界に行ったことは,すでにご存じと思います。その時に,指輪とブレスレットを渡した女性が,昨晩,私のもとに転移されてきました。名前を千雪といいます。年齢は15歳。S級の火炎魔法が扱えるとのことです。半年間の期限付きですが,私の下僕として働いてもらいます」
リスベルは,淡々とそう言って,千雪に,家族全員を紹介した。
千雪「はじめまして。千雪と申します。半年間,よろしくお願いいたします」
ベルダン領主「15歳で,S級??ちょっと信じられんな。食事が終わったら,魔法対決をお願いしたいな」
ベルダン領主は,まがりなりにもSS級魔法士だ。15歳でS級魔法士と聞いて,興味が湧かない訳がない。
リスベル「お父様。すいませんが,千雪は私の下僕です。千雪への依頼については,私に依頼していただけないでしょうか。お父様からの依頼なら,断る理由もないのですけど」
ベルダン領主「おお,そうだった。すまん。すまん。15歳で,S級魔法士と聞いて,ちょっとびっくりしてしまった。リスベルよ。半年前に来た,あの指輪の手紙を信じて大正解だったな。たった半年で,こんな絶世の美女が来るんだったら,私が地球界に行きたかったわ」
リベット夫人「あなた,そんなはしたないこと言わないください。立ち話もなんですから,席につきてください。千雪さんでしたわね。今は,私の向かいの席が空いているわ。そこに座ってちょうだい」
千雪は,ベルダン領主の言った言葉に疑問を持った。指輪の手紙??なんのことだろう?後で機会があれば,聞いてみたいと思った。
全員が席に着いた後,ベルダン領主が,いつものように,朝の祈りの言葉を捧げた。
ベルダン領主「全員,席につかたな?では,指輪の精霊エルバ様に,今日一日,平和で楽しく過ごせますよう,皆で祈りをささげる。唱和しなさい」
ルベット夫人「千雪さんは,初めてなので,唱和しなくていいわ。聞いているだけでいいわ」
千雪「はい,わかりました」
千雪以外の全員が,両手を合わせて,以下の言葉を唱和した。なんか,クリスチャンの食事前に神にささげるお祈りみたいだった。
『エルバ様,エルバ様。いつも見守っていただいてありがとうございます。今日も一日,平和で楽しく過ごせるよう,見守ってください。祝福をわれわれに。祝福を南東領地に。そして祝福をエルバ様に』
千雪は,この唱和された言葉を聞いた時,千雪の頭の中に,『他の精霊を崇めてはだめです!』という叱咤の言葉が響いた。こんなことは始めてだった。そして,急に気分が悪くなってきた。
千雪の急変を見たルベット夫人は,すぐに千雪に声をかけた。
ルベット夫人「え?千雪さん?どうしたの?顔色が急に悪くなったようだけど?」
千雪のしている指輪が千雪に厳しい警告を発していることを理解した。千雪は,自分の左手にしているボロボロの指輪を皆に見せて言った。
千雪「私は,半年前に,リスベル様からこの指輪を受け取りました。その時,私はこの身をこの指輪に捧げて,修業をしてきました。ですから,他の指輪の精霊に祝福の言葉を言うのは,禁止されているようです。どうかご理解ください」
ルベット夫人「あら,そうだったわね。気が付かずにごめんなさい。あなたは,自分の精霊の名前でいいから,次回から,一緒に祝福するといいわ。」
千雪「はい,ありがとうございます」
千雪は,そう言ったものの,自分のしている指輪の精霊の名前は,知らされていなかった。
ルベット夫人「この国の食事は,千雪さんには,口に合わないかもしれないけど,たくさん食べてね。うちはあまり裕福じゃないけど,食事くらいは,一人くらい増えても大丈夫だからね」
千雪「はい。ありがとうございます」
千雪は,少し涙がこぼれた。
ルベット夫人「え?なんで涙なんか,流しているの?私,なんか,おかしなこと言ったかしら?」
千雪「いえ,そうじゃありません。ちょっと自分の親のこと思い出してしまいました」
ルベット夫人「そうなの?なら,いいけど。涙を拭いて,どうぞ召し上がれ」
雑談をしながら,朝食が終わりかけた頃,ベルダン領主がリスベルに許可を求めた。
ベルダン領主「リスベルよ。朝食が終わったら,千雪さんと魔法試合をしたいのだが,許可してくれるか?」
リスベル「ええ,全然問題ないです。私も千雪の魔法の能力を把握しておく必要があります。お父様との魔法試合を観戦したく思います」
ベルダン領主「確かにそうだな。千雪さん。リスベルの許可はとった。私と,魔法試合をしてくれますか?」
千雪「私は,魔法の修業をしてきましたが,魔法試合をしたことがありませんし,実践経験もありません。魔法で自分を守ることができないかもしれません。ただ,火炎魔法と,少しの回復魔法ができるだけです。自分が多少怪我するのは,いいのですが,それではリスベル様に奉仕することができなくなります。その点を考えていただいて,魔法試合の内容を考えていただければ,問題ございません」
ベルダン領主「千雪さんの言うのももっともだ。そうだな。では,こうゆうのはどうだ?私も火炎魔法を使う。SS級レベルだ。この魔界でも10本の指には入るかもしれん。それは置いといて,,,」
ベルダン領主は,ちょっと自慢して,話しを続けた。
ベルダン領主「私のほうも万が一があったらいかんので,防御機能の優れた鎧を着る。そして,私の5mほど先に,火防御壁を構築する。最初は,中級レベルからだ。千雪さんは,火炎魔法で,その火防御壁を突き破ればよい。突き破れたら,次に上級レベルの火防御壁を構築する。というふうに,順次レベルを上げていく。これなら,千雪さんも私も怪我の心配はないし,千雪さんの魔法レベルも判断できると思う」
千雪「はい,わかりました。その内容で結構です。どうぞお手柔らかにお願いします」
ルベット夫人「あなた,わたくやレボンもその魔法試合に観戦させていただきたのですが,よろしいですか?15歳のS級火炎魔法って,前代未聞ですもの。ぜひ拝見したですわ」
ベルダン領主「ぜひ観戦してくれ。めったにない機会だ」
ルベット夫人「ありがとうございます。それと,リスベルさん,魔法試合の前に,千雪さんと二人だけで話したいのですけど。許可していただけるかしら?」
リスベルは,いやな予感がした。しかし,ここで,いやとも言えず,許可した。
リスベル「お母様,いいですよ。千雪,お母様やお父様には,何も秘密はないですから,聞かれたことは正直に話しなさい」
リスベルは,こう返事したものの,千雪にはきつい目をしてにらんだ。
千雪「はい,リズベル様。わかりました」
千雪は,リスベルの言葉通りの意味で理解した。
このリスベルの対応は,あまりに軽率だった。このことが引き金になり,リスベルは,不確実要素の大きい,禁断の禁呪を使うことを決意する。
ーーー
ールベット夫人の部屋ー
ルベット夫人「千雪さん,ほんとうに半年で,リスベルの元に転送されたのですね。あの指輪の手紙は,ほんとうだんたのですね」
千雪「指輪の手紙って,なんのことですか?」
ルベット夫人「あら?リスベルから聞いていないの?リスベルは,あの手紙を信じて,地球界に言って,あなたにその指輪を渡したのよ」
千雪「え?インターネットの魔法陣とは関係ないのですか?」
ルベット夫人「そのインターネットの魔法陣って,よくわかんないわ。レボンさん,お父様のところに行って,例の指輪の手紙をもらってきてちょうだい」
そう言われたレボンは,部屋を出て,まもなくして,その手紙をもってルベット夫人に手渡した。
ルベット夫人はその手紙をそのまま千雪に渡した。
ルベット夫人「どうぞ,自分で読んでみていいわよ」
その手紙にはこう書かれていた。
『南東領域の領主ベルダン様
ここに精霊が宿す指輪を同封します。この指輪の精霊が指導する修練方法は,10年以上も厳しい修練を要求することから,魔界でははるか過去に放棄されたものです。しかし,この指輪の精霊がある地球界の月本人に,この精霊の指導する魔法を授けたい,との要望がありました。
この国では,精霊が宿す指輪は王族から与えるという決まりがあります。そこで魔界の王族で,かつ月本語が堪能な領主様の次男リスベル様に地球界の月本国に行ってもらい,同封の指輪を授けていただきたくお願い申し上げます。
その見返りとして,その月本人が上級魔法を取得したら,いつになるかはわかりませんが,リスベル様のもとに転送させて,半年間,仕えさせることを約束します。その転送用ブレスレットも同封します。リスベル様は,そのブレスレットと血の契約することで有効となります。リスベル様がどこにいようと,そこに転送されます。
十分な魔力を充填した魔法石も同封します。この魔法石には,地球界へ往復できる時空移転用魔法陣をすでに設定しています。この魔法石を起動する日時は以下の通りです。
2023年10月5日の24時。つまり,10月6日の0時ちょうどとします。
その時になったら,魔法石の上部を時計周りに180度回転させてください。
転移先はすでに魔法石に刻んでおります。月本国の転移先には,一人の月本人女性がいます。その女性に,指輪とブレスレットを渡してください。その条件として,魔法を会得したら,あなたに半年間,仕えさせることを約束させてください。指輪の使い方は,説明する必要はありません。何の説明をしなくても彼女はすぐに理解します。
月本国から魔界に戻る方法は,その魔法石の上部を反時計周りに180度回転させてください。
尚,私の名前は,明かさないことをご容赦ください。
指輪の使者より』
千雪はびっくりした。あのホームページとは,まったく関係のないことに。しかも,私のいる場所を事前に知っていて時空転移魔法陣を組み込んだ,ということになる。
この指輪の使者は,間違いなく師匠のことだ。しかし,当時の状況が詳しくわかったところで,今の千雪には,何のメリットもなかった。
師匠にはほんとうに感謝している。しかし,その見返りとして,半年間の性奴隷生活を余儀なくされる,,,千雪の気持ちは複雑だった。でも,『もう過ぎたことだ。前向きに生きていくしかない』と自分を慰めた。
ルベット夫人「その手紙が届いたのが,出発する3日前だわ。その時,家族会議を開いたの。この手紙を信じるかどうか。時空転送魔法陣はリスクが大きいわ。ちょっとでも間違ったら,どんでもないところに飛ばされて,帰ってこれないからね。それに,時空転移魔法陣って,だれでも簡単に描くことはできないのよ。おまけに,異空の地球界で,月本国のある家のその部屋,という地点をどうやって特定できるの?その魔法陣を描いた人は,月本国にいなければ絶対に刻めないはずよ。刻んだ後,この封書,添付の指輪などを,今度は,月本国から時空移転魔法陣で,この家に届けたの?そんなことができる術者は,2人しか知らないわ」
千雪は思った。このルベット夫人って,なんか推理好きな性格の人だと。そして,なぜかナタリーのことを思い出した。
千雪「ルベット様。あの,とても推理がお好きなのですね。私,推理が好きな方をもう一人知っています。ナタリーさんです。彼女も推理好きな性格していたと思います」
ルベット夫人「あら?あなたナタリーを知っているの?そう。彼女は,この領地の出身なのよ。よく推理小説を読んで,彼女と推理の予想合戦をしたものだわ。彼女は,ほんとうに魔法の才能があって,早くに王都の魔法学校に推薦入学で行ってしまったの。その時はとても寂しかったわ」
千雪「あの,さきほどの続きの予想をしていただけますか?月本国から時空移転魔法陣で,この家に転送できる人は2人だって,言ってましたけど」
ルベット夫人「そうね。あなたも知っているかもしれないけど,尊師とナタリーしかいないわ。彼ら以外考えられない。よっぽどの魔法陣に対する自信がないと,こんなことできないわ。予想を続けていいかしら」
千雪「はい,どうぞ」
ルベット夫人「あなた,魔族語が結構,堪能ね。半年前に,指輪をもらった後,この魔界に転移された。それは,その指輪のパワーでしょうね。事前に,その指輪にも,特定に時間が来たら発動するように時空転移魔法陣を組み込んでいたんでしょう。そして,あなたは,尊師のもとに飛ばされた。尊師は,10年前に月本国に行ったはずだわ。そして,偶然かどうかわからないけど,あなたを見つけた。そして,あなたに,魔法の素質のあることを見出した。住所も特定した。そして,この手紙を書いたってわけね」
千雪は,ルベット夫人の明快な推理に納得した。
ルベット夫人「尊師は,月本国に10年前に行った。そして,あなたは,わずか半年でS級になった。半年でS級は,絶対にどんな人でも無理。考えられることは一つ。尊師が,月本国であなたに代わって,10年間,その訓練をしたってこと。その10年の成果を,あなたにすべて渡した。それなら,まあ,あなたは,半年でS級になることは可能でしょうね。あなたは,尊師の弟子,きっと,暗殺者としての訓練も受けてきたんでしょう。
あ,そうそう,わたしの予想は,絶対に誰にも言わないから安心してね。あなたが尊師の弟子だとすれば,以前なら,公開してもよかったけど,今は,尊師は大臣を殺害したって,もっぱらのうわさが立っているから,その弟子,あなたも殺害対象になるわね」
ルベット夫人は,一息いれて続けた。
ルベット夫人「あなたを実際に見て,だんだんとわたしの推理力が冴えてきたわ。あなたの能力は,S級だけではないはず。すべてを把握している尊師が,半端な弟子を卒業させることは絶対にないわ。すでに,あなたは,暗殺者として合格レベルに達したってこと。そして,そのレベルは,もしかしたら,尊師を超えるかもしれない。魔法陣の知識で尊師を超えることは,半年では無理だと思うけど,それ以外,つまり,体術の方面で得意な才能を発揮したと考えるのが正解のかしら?それも,魔力によらない方法で?
いや,もしかしたら,半年で卒業せざるを得なかったとか?その推理をするには,判断材料が足りないわね。
千雪さん。この推理のことは,誰にも言わないから安心してね。わたしも,あなたがなかりあぶない場所にいるってこと,充分に理解しているから。それに,そこにいるレボンに話が聞かれているけど,彼女は,私に対して宣誓魔法陣の契約しているから大丈夫よ。安心してね」
千雪「ありがとうございます」
千雪は,ルベット夫人の千雪に対する配慮を十分にしてくれていることに感謝した。
ルベット夫人「さて,本題にはいるわね。昨日の夜に転送されたんだわね。そして,リスベルと宣誓魔法陣による契約をしたのでしょう?その内容を教えてくれる?」
千雪は,リスベルから,正直に話すようにと言われたので,その通り,その内容を詳しく仔細漏らさず教えた。
ルベット夫人は,その内容を聞いてびっくりした。
ルベット夫人「何それ?奴隷契約じゃないの?!!」
千雪は,黙ったままだった。
ルベット夫人「もしかして,もうあなたたちは,,,」
千雪「はい。昨晩と今朝の2回ほど,,,今朝は,エルゼさんが怒って,ヒステリーぎみになりましたので,未遂でしたが,,,」
そして,千雪は,転送されてからこれまでの経緯を説明した。リスベルとのエッチ行為の時間が1分で終了したことも説明した。
付き人のレボンは,そのような性的な話に免疫がなく,別の意味で顔を真っ赤にした。ただ,リスベルを眠らせたことと,自分が亜空間に潜んでいた事実だけは述べなかった。
ルベット夫人は,千雪から詳しく状況を聞いて,顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
ルベット夫人「あなた。もしかしたら妊娠しているかもしれないのよ。リスベルと結婚する気はあるの?」
千雪は,きっぱりと言明した。
千雪「その気はありません」
ルベット夫人「そうなのね。もし,妊娠していたら,その子供は,リスベルが引き取る話になっているのね。その場合,実質,私が面倒みないといけなくなるわ。そんな大事なこと,リスベルさんが勝手にきめて,もう!」
ルベット夫人は,だんだんと怒りが増してきた。
ルベット夫人「千雪さん,あなた,なんで奴隷契約を拒否しなかったの?自分の人生,なんだと思っているの?」
ルベット夫人は,関係者全員を呼ぶことにした。つまり,この屋敷にいる全員だ。そして,ヒステリーぎみに付き人のレボンに命じた。
ルベット夫人「レボンさん!お父様と,リスベルさん,エルザさん,フレールさんをすぐに呼んできてちょうだい!」
千雪は,私のために真剣に怒ってくれる人がいたんだと身に染みて感じて,とてもうれしかった。
千雪の両親は,千雪に対して放任主義だったし,両親が海外生活のため,1年ほど1人であの1軒家で生活していたから,なんでも1人で判断する癖がついていた。
レボンに呼ばれて,ベルダン領主,リスベル,エルザ,フレールがルベット夫人の部屋に来た。彼らは,ルベット夫人が,顔を真っ赤にして,怒りを露わにしているのが分かった。その理由を十分に理解しているのは,,エルザ,フレールそしてリスベルだ。
リスベルは,ルベット夫人の怒りの顔を見て,すべてを理解した。そして,さきほど,軽率にも,千雪を何の『釘さし』もせずに,ルベット夫人と二人きりにさせてしまったこと,かつ,『正直に話すように』と命じたことも後悔した。宣誓契約している以上,リスベルの命令は絶対だ。正直に話すようにと命じた以上,千雪は,詳細に説明したに違いなかった。
ルベット夫人は,全員への認識統一のため,いや,ベルダン領主のためと言ったほうが正確だが,千雪から聞いた内容の重要なポイントを的確に説明した。
そして,一番責めるべきリスベルを後回しにして,まず,千雪から非難を始めた。
ルベット夫人「まず,悪いのは,こんな契約に同意した千雪さん,あなたよ。もう,何を考えているの!!でも,もう,あなたを叱咤するのは止めにするわ。まだ,15歳だから,あなたには,さっき怒ったからもうここまでにしておくわ。でも,その契約を,初めから最後まで見ていて,それを阻止しなかった,エルザとフレール!!あなたがたの罪は重大よ!!なんで止めなかったの?止めないまでも,領主か,わたしを呼べば済むことでしょう!!もう,いったい,何を考えているのよ!!!!」
ルベット夫人の顔は,さらに,さらに真っ赤になって,怒り心頭に達した。
ルベット夫人「特に,フレール!!あなた,リスベルに言われて,宣誓魔法陣を設置するなんて,そんな非人間的な契約の手伝いをして!!なんで,いやです,とか,私たちを呼ばなかったの?!!あなた達の護衛の仕事って,ただ,リスベルの言うことを,はいはいと返事することだったの!!!!」
エルザとフレールは,下をうつむいたまま,ただ,『すいません,すいません』と言うだけっだった。
ルベット夫人は,何度か,深呼吸をして,少し怒りの気持ちを緩和した。そして,最も非難すべきリスベルに向かって口を開いた。
ルベット夫人「リスベルさん」
ルベット夫人は,そう言って,少し間を置いて,言葉を続けた。
ルベット夫人「あなたには,正直,幻滅しました。あなたは,まがりなりにも,王族の血筋なのですよ。誇り高き,王族なのですよ。そのあなたが,なんですか!!こんな奴隷契約だなんて。このことがもし外部に漏れたら,私たち,生きていけないくらい恥ずかしいことなのよ!!わかってるの!!!リスベルさん!!」
ルベット夫人は,まず一番言いたいことを言ってから,さらに非難を続けた。
ルベット夫人「それに,もう性行為をしたんですって?しかも避妊もしないで!!おまけに,子供が生まれたら,リスベルさんが育てる?何?あなた,勝手に約束しているの!!もし,リスベルさんがこの屋敷から追い出されたらどうするの?もう,わたし,もう腹が立って,腹がたって,しょうがないわ!!」
ルベット夫人は,2番めに言いたいことを言った。このことを言ったことで,激高した気分をかなり和らぐことができた。少し,落ち着いた口調で,話を続けた。
ルベット夫人「まだ,このことは,お父様と話し合って決めたわけじゃないから,まだ決定事項でないけど,私の考えを言うわ」
ルベット夫人は,ベルダン領主に顔を向けて言った。
ルベット夫人「あなた!私の考えに異論あれば,その都度言ってください!」
ベルダン領主「う,うん。わかった」
ベルダン領主は,ただ,頷くだけだった。この状況では,すべての決定権は,ベルダン領主ではなくルベット夫人にある。
ルベット夫人「リスベルさん。今後,千雪の体には,いっさい触れてはいけません。千雪さんへの正当な業務命令でさえも,当面は許しません。千雪さんが妊娠していないと判明した時点から,正当な業務命令は許します。もちろん,性的な命令,千雪さんを少しでも辱める命令はいっさい許しません。お父様,同意しますか」
ベルダン領主「う,うん。わかった」
ルベット夫人「リスベルさん。わたしの言ったことに同意するなら,もし千雪さんが子供を産んだら,私も,その育児に全面的に協力しましょう。
リスベルさん。あなたにも言い分があるでしょう。すでに千雪さん合意の契約があるのですから。少しだけ時間をあげます。私の言い分に同意するなら,そのままこれまで通り,生活することを許します。
同意しないなら,勘当となります。あなたは,もう私たちの子ではありません。
千雪さんを連れて,どこへでもいきなさい。もう二度とこの敷地を跨ぐことは許しません。もし子供が生まれたら,リスベルさん。あなた一人でしっかりと育て上げなさい。
お父様!異論ありますか!」
ベルダン領主に反論する余地があろうはずもない。
ベルダン領主「う,うん。わかった」
リスベルは,終始,下を向いていた。千雪に釘を刺さなかったことを後悔した。だが,もう遅い。ルベット夫人に知られた以上,このような状況になることは,いつもなら,頭脳明晰なリスベルであれば,瞬時に予想がついた。だが,なぜか,あの時は,そんなことを考えなかったのか? エルザとフレールに口止めをしたことで,安心してしまったのかもしれない。
リスベルが下を向いて,沈黙していた時間,リスベルは,すでに禁断の禁呪を使うことを決意していた。そして,ゆっくりと顔をあげて,ルベット夫人に言った。
リスベル「お母様。お母様の言い分はよくわかりました。自分の性欲に負けて,浅はかな行動をとってしまいました。お母様,そしてお父様に不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」
リスベルは,まず,謝罪から始めた。このような状況では,もっとも有効な方法だ。
リスベル「お母様の提案に対する返答については,1時間ほど時間をいただきたいと思います。少し頭を冷やしてから返答します。自分の部屋で一人で考えたいので,千雪,エルザ,フレールはついてこなくていいです」
そのように言って,リスベルは,1人,自分の部屋に籠った。
ーーー
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