第2章 オリジナルの世界

第7話 奴隷契約


 この国は,北西領地,北中領地,北東領地,南西領地,南東領地の5つの地域に分かれており,それぞれの領主がその地域を収めている。その中から順番に,3名の国王候補が選抜されて,その中から次期国王が選ばれる。国王になると,国の中央に位置する王都を管理することになる。民主的に運営されているので,表面的には政治は安定しているように見えた。


 ここ,南東領地は,最も貧しい土地柄で,野山は豊富だが,平地が少なく,農業にはあまり適していない土地柄だ。それでも,ほんどの住民は農業を営んでいるものの,その農作物の収穫率はかなり悪かった。


 また,治安も決してよいとは言えず,至るところで山賊が勢力を伸ばしており,海や河川では海賊が暴れていた。隣の北東領地や南西領地への交通路では,よく荷馬車が襲われたり,運搬用の船舶が襲われたりしている。


 この南東領地を収めている領主の屋敷も,いつ山賊に襲われて占拠されるかわからないという状況だ。それでも,これまで無事にやってこられたのは,この領主には,『SS級レベルの魔法士がいる』という威嚇効果があったからだ。


 100年前までは,連合国家であったが,初代国王によって統一したとき,5人いた国王を5人の領主に格下げした。ただし,公平な統治をするため,国王の任期を10年とし,次期国王は現国王と同じ領地からは選ばないというルールを設けている。


 また,当時6個あった精霊の宿した指輪は,初代国王と5人の領主に適当に分配された。だが,11年前に,先代の国王が『霊珠の指輪』を砕いてしまったので,今では,5人の領主がそれぞれひとつずつ精霊を宿した指輪を伝承している。


 この指輪を小さい頃からつけることで,魔力の修得が早くなり,かつ達成できる等級も,2ランクもアップしてしまうのだ。だが,この事実を知るものは誰もいない。


 それでも,唯一,この恩恵を受けた人物がいた。南東領地の領主,ベルダンだ。彼は,たまたま,子供の頃,精霊の指輪を指につけて遊ぶ習慣があった。そのため,知らず知らずのうちに,魔法士としてのレベルが上がり,本来,上級レベルの魔法士止まりだったのだが,ぎりぎりSS級の魔法士となり,魔界で10本の指に入る魔法士になった。ただし,SS級魔法士の中では,最下位のレベルなのだが。



 ベルダン領主には,2人の息子がいる。リスダンとリスベルだ。長男リスダンは19歳で,次期国王候補となったため,王立アカデミーのある王都郊外で下宿生活している。そこで,この領地の管理を任されているのが,次男のリスベル16歳だ。


 本来,ベルダン領主がすべき仕事なのだが,生来,怠け者の性格のため,領地の管理を1年前から,まともに魔法が扱えない次男のリスベルに任せっきりだ。そのかわり,有能な男性の剣士と魔法士の2人を採用して,寝食を共にさせることで,リスベルの安全を守らせてきた。


 しかし,リスベルが,男性の護衛2人と同じベッドで寝るのはいやだと,父に泣きつき,やっと最近になって,有能な女性剣士エルゼ23歳と,魔法士フレール25歳を採用できた。


 もちろん,同じベッドで寝るのが条件だが,決していやらしいことはしないと,宣誓魔法陣で契約している。これを破ることは死を意味する。それも,肉体ではなく霊体,つまり霊魂の死だ。


 彼女たちは,リスベルの,頭はすこぶるいいのだが,肉体的にも,性格的にも,魔法力的にも,ひ弱な性格を把握してからは,彼をばかにしたかのように,彼の目の前で,あからさまにオナニーをするなど,徴発行為をするようになった。リスベルは顔を赤らめて,鼻血を出しながら我慢するだけだった。


 彼女達が,リスベルの護衛に採用されて,つまり,幅4mもある大きなベットでリスベルと一緒に寝るようになって1ヵ月が経過した。


 ある夜の11時半頃だった。彼女たちは,今日もリスベルをからかおうと,下着姿で怪しい声をあげていた。


 「あーー,気持ちい!!」

 「うーー,いいわーー!!」


 リスベルは,彼女らのこの行動に対して,最初の頃は,うれしさ,つらさ,屈辱の気持ちが入り混じった感情をどう処理したらいいかわからなかったが,今では,もう慣れてきて無視できるほになった。


 リスベルは,窓の外を眺めていた。すると,遠くの西の方角で,火柱が天空に走っていくのがはっきりと見えた。彼は,両隣の彼女らの肩を叩いて,「窓をみてごらん,あれは何?」と尋ねた。


 彼女らも,はるか遠くに見える,天空にまで届く火柱を見て,ただぽつんと言った。「わかんない」そういって,また,外の景色などかまっていられず,おかしな行動を再開した。


 火柱が消えたかと思うと,今度は,リスベルのベッド上に魔法陣が浮かんだ。


 それを見たエルザは,あわててベッドから飛び降りて,いつも近くにおいている剣をつかみ魔法陣のほうに剣を向けた。彼女は,S級剣士だ。


フ レールもベッドから降りて,魔法石を頂いた杖を両手にもって,火炎魔法をいつでも発射できる状態にした。彼女は,S級の火炎系魔法士だ。


 リスベルには心当たりがあった。地球界の住人で,指輪を手渡した月本人の女性だ。あれから半年経っている。あのブレスレットが反応して,強制転移を発動させる条件は,上級レベルの魔力を有することだ。


 通常,上級までは,才能があっても少なくとも5,6年はかかる。それに,当時,送り主不明で届いた『指示書』の内容では,この指輪を使った場合,上級レベルまで10年程度を必要とすると書いてあったはずだ。


 それが何で半年後に達成できたのか? あの月本人は,どうせ,上級レベルには達しないで,途中でギブアップしてしまうのが落ちだと考えて,冗談半分でボロボロの指輪を手渡したのだ。


 まさか,あの月本人なのか??


ーーー

 転送されてきたのは,上下に青色のジャージをはいて,スニーカー姿の千雪だった。


リスベルは,彼女があの美しい月本人の女性であるとわかり,エルゼとフレールに,すぐさま声をかえた。


 リスベル「彼女は,敵ではない!攻撃するな!」


 エルザとフレールは,少し緊張を解いたが,だが,まだ完全に安心はできなかった。


 リスベルは,半年前に会った時,千雪を美しいと思ったが,今,再会してみると,さらに一段と美しくなっていた。リスベルの人生の中で,彼女を超える美しい女性はもう現れないのではないかと思えた。


 リスベルは,得意の月本語で千雪に話しかけた。

 リスベル「半年ぶりだな。この半年で,さらに美しくなったようだ」


 リスベルは,半年前の千雪の姿と,どこが違うのかを思い出した。


 リスベル「そうか。半年前は,ソバカスだらけだったな。ソバカスが治ったのだな?」


 千雪は,コクっと頷ずき,魔族語で言った。


 千雪「私は魔界で修行しましたので,魔族語がだいたい理解できます。どうぞ,魔族語でしゃべってください」

 リスベルは魔族語に切り替えて言った。


 リスベル「それは,ありがたい。彼女たちに情報共有する手間が省ける。まずは,ベッドから降りてくれ。話はそれからだ。エルザ,フレール,武器を持ったままでいいから,私の傍に来なさい」


 彼女たちは,リスベルの両側に控えて,下着姿のまま,いつでも攻撃できる状況を維持した。


 ベッドのシーツには,スニーカーの足跡がくっきりと残っていた。それは,明らかに,土埃の中に,血のりが混じったものだった。


 リスベルは,まず千雪に,彼女たちの位置づけを説明した。


 リスベル「彼女たちは,常に私と行動を共にする。見ての通り,寝る時も一緒だ。それは私の護衛のためだ。私は,彼女たちに性的なことは行わない。それは宣誓魔法陣で契約している。また,彼女らには,護衛期間中に,知りえた情報を一切外部に漏らさないこと,また私に関するすべての情報を使って,私および私の所有物に対して,不利益な行動はとらないということを,宣誓魔法陣で契約している。

 そして,あなたは私の所有物だ。あなたにとっても,不利益が生じることはない。だから,安心してなんでも話していい」


 千雪は,リスベルの言った『あなたは私の所有物だ』というところが引っかかったが,今は無視した。


 千雪「はい,理解しました」


 リスベル「さて,指輪を渡してから半年だな。ブレスレットが反応したということは,上級魔法を扱うレベルに達したというになるのかな?」


 リスベルは少し間をおいて,自分が感じてる疑問を自問自答するかのように言った。


 リスベル「だが,たった半年間で上級魔法を使えるなんて聞いたこともない」


 リスベルはこの疑問の解消よりも,千雪に自己紹介をさせるのが先決だと感じた。


 リスベル「月本人の女性よ。名前はなんという。年齢は?修得した魔法の種類を説明しなさい」

 千雪「はい,名前は,サ,サ,いや,千雪といいます。半年前にも言ったと思います。どうぞ覚えてください。今,15歳です。修得した魔法の種類ですが,,,,,」


 千雪は,『上級』というべきか,『S級』と言うべきか,一瞬迷ったが,どうせいずれバレるのだから,『S級』と言うことにした。


 千雪「修得した魔法の種類ですが,S級の火炎系魔法と回復系魔法です」

 

 エルザとフレールがその言葉に反応して,お互い顔を見合わせた。リスベルも,びっくりして,大声を出して立ち上がった。


リスベル「たった半年の修業で,S級レベルだと!?ばかな??」



 エルザとフレールはいまだにびっくりした状態から回復せず,口をポカンと開けていた。


 特にフレールにとっては,かなりショックだった。彼女は小さいころから魔法の天才と言われてきて,14歳で中級,16歳で上級,18歳でS級と,この王国の中でもS級に到達するスピードの速さでは,ずば抜けて早かったからだ。だが,その後はS級どまりで,SS級には到達しなかった。


 リスベルの,何か,行政官っぽいしゃべり口調や,リスベルが流暢に月本語を操ること,また,彼のやせていて,まったく鍛練した形跡のない下着姿をみて,リスベルは魔法とか,剣技などの「武」方面ではなく,「知」方面で優れているのではないかと推定した。


 リスベル「千雪という名前か。確か,そうゆう名前だったな。千雪の魔法のレベルについては,あとで,実演とかで,実際にみせてもらうことにする。だから,魔法の話はここまでとする」


 ここで,リスベルは,もっとも,自分が確認したい話題を持ち出した。それは,半年間,千雪がリスベルの下僕,つまり奴隷になるという確認だ。


ーーー

 リスベルは,ニヤッと笑顔になって,もっとも言いたいことを言った。


 リスベル「千雪,さて,当時,契約した内容を覚えていますか?」


 千雪は,充分に予想された質問を受けたので,すぐに返事を返した。


 千雪「覚えています。魔法の習得が終了したら,リスベル様のもとで,半年間,下僕として働くという条件です」


 リスベル「下僕として働くとは,どいう意味かわかるか?どんな命令でも絶対服従するということだ」


 千雪「はい,その覚悟は当時からできております」


 リスベル「そうか,では,聞く。今日から,わしとベッドを共にすることに承知するか?」


 千雪は,当時,指輪をもらって,とても喜んだことを思い出した。確か,当時は,身も心も捧げますと誓ったはず。それを破ることはできない。それに,自分の行いが後にどのような結果を招くかをいちいち考えるのは苦手だ。


 それに,リスベルはそこそこハンサムだから,『まあいいか』という軽い気持ちで返事した。


 千雪「はい,承知しています」

 リスベル「そうか,わかった。当時の契約にうそ偽りはないな。もし,千雪が,妊娠しても,その状況に耐えられるか?」


 千雪は,そこまで考えていなかった。


 リスベル「その質問は酷だな。千雪が妊娠したら,その子を産みなさい。その子は私のほうで育てる。それだったら,受け入れられるか?」


 千雪は,その条件なら『まあいいか』と深く考えなかった。


 千雪「はい,受け入れられます」

 リスベル「よし。いい返事だ。つぎに,問う。他の男性に抱かれなさい,と命じたら,受け入れらるか?」


 この問に,千雪は即答した。


 リスベル「わたしは,魔法を取得するために厳しい修業をしてきました。リスベル様に抱かれることは承知しています。でも,ほかの男性に抱かれるために厳しい修業してきたわけではありません。到底承知できません。私を一人の女性としてではなく,一人の魔法戦士として活用してくだし」


 リスベル「まあよい。当時は,特に魔法陣による宣誓契約をしたわけではない。そこで,今から,千雪と私とで魔法陣による宣誓契約を行うがよいか?それに違反することは,霊体の死を意味する。転生さえもできなくなる」


 千雪は,契約というものがよくわからなかった。ただ,自分が納得すれば,契約すればいいという程度の理解だ。


 千雪「契約内容に同意できれば,もちろん契約いたします。確認の意味で,契約内容を紙に書いてください」


 リスベルは,すぐにでも彼女を抱きたい気持ちを抑えて,契約の草案を紙に書いて,千雪に提案した。


 特に複雑な契約内容ではない。半年間,千雪がリスベルの下僕になること。リスベルへの加害行為を禁止すること。もし妊娠したらその子供を産むこと。また,良心的なのは,リスベルの無謀な命令には,千雪はそれを拒否する権利が与えられている。


 千雪は,無謀な命令って何をさすの?と疑問に思った。しかし『半年間,死んだ気になって奉仕すればいいだけで,難しいことは後で考えればいい』と,自らを納得させて,この契約内容に同意することにした。というのも,千雪は難しいことを考えるのが苦手だ。


 千雪「この契約内容で結構です。同意します」


 この言葉に驚いたのは,リスベルではない。彼の両側に控えていたエルザとフレールだった。


 「この千雪という女性,ちょっと痴呆症じゃないの?こんな隷契約に宣誓契約するなんて,どこのバカなの??」と内心びっくりしたが,リスベルに雇われている手前,口に出さなかった。


 リスベル「フレールよ,宣誓契約の魔法陣を設置してくれ」

 

 フレールは,言われた通り,その魔法陣を設置した。そして,千雪とリスベルは,それぞれ右手を魔法陣にあてて,宣誓内容を二人で読みあげた。その後,魔法陣の中央から2つの光が千雪とリスベルの頭の中に吸い込まれていった。それは,霊体に紐づけされる爆弾のようなものだ。契約不履行の場合に,その爆弾が起動して,霊体が死亡する。


 そばで見ていた,エルザ,フレールは,千雪とリスベルが,性奴隷契約ともいえる宣誓契約を,本当に実施したことに呆然とした。


 この千雪って子,いったいどういう性格しているの?はたから見ても,千雪がリスベルに対して恋心を抱いている,とはとても思えない。かえって毛嫌いしている印象にさえ感じた。


 ただ,この宣誓契約を行うことによって,千雪がリスベルに対して被害を与える可能性はなくなった。


 エルザとフレールは,リスベルの護衛の仕事から解放されたものと判断し,手に持っていた武器をしまい,足跡で汚れたベッドを掃除した。


 そして,リスベルに一言,「先に寝るね」と言って,ベッドに横たわり,掛布団を被って寝たふりをした。もうこれ以上,彼女らの出る幕はない。


 ベッドの右側サイドを剣士エルゼが,左サイドを魔法士フレールが寝る位置だ。ベッドの中央がリスベルの寝る場所だが,今日から,千雪もこのベッドで寝ることになる,,,??


ーーー

 リスベル「千雪,宣誓契約は終了した。これで,千雪が私を害することはできないし,私も千雪を害することはない。では,さっそく命令する。服を脱いで裸になりなさい」


 寝たふりしたエルザ,フレールも,顔を千雪のほうに向けた。

 千雪は,ちょっと微笑んで全裸になった。男性の前で全裸になるのは,今日で2回目だ。『こんな日もあるなんて自分でもびっくり』と心でつぶやいた。なぜか,笑みが浮かんでしまった。


 これから,好きでもない男性に犯されることに特に抵抗感はなかった。このことは千雪にとっても不思議な感覚だった。今の,自分の精神を分析する時間はないのだが,少なくとも『男性に好き勝手にもてあそばれて,この世に絶望を感じて自殺する』という感じではない。


 男性に好き勝手にもてあそばれて,というところは同じかもしれないが,どんなにそのようにされても,千雪には,絶対的な強者としての自信,つまり,SS級の剣士や魔法士にさえ楽勝で勝つことができるという自信が,『好き勝手にもてあそばれる』ということに対しての,精神的な許容力,忍耐力をもたらしたのかもしれない。


 リスベルは,生唾を飲んだ。鍛え抜かれた,美しい裸体がそこにあった。女性のエルザ,フレールが見てもほれぼれする美しさだった。


 リスベル「ちょっと,足りない面もあるが,ほんとうにきれいな体だ。では,私のところに来て横にきなさい」


 ちょっと足りない面とは胸の部分だ。リスベルは巨乳が好きな男の子だった。


 千雪は,男性に触られるのが好きではない。ここに転移される前,師匠に,『千雪に触るものには,死を与える』と誓ったばかりだ。だが,リスベルと宣誓契約をした以上,リスベルを殺すわけにもいかない。でも,『宣誓契約が切れる時,つまり,半年後にリスベルを殺せばいいのだ』と考えることで,千雪は半年間,下僕として生きることを,再度,自分自身に納得させることにした。

 

 千雪は,ゆっくりとした動作で,リスベルの右隣に横たわった。


 リスベル「今から,千雪にキスをする」


 リスベルは,宣言するかのように,この言葉を吐いて,千雪の体に覆いかぶさった。


 リスベルは,女性を抱くのは始めてだ。自分が王族であることを充分に認識しているし,安易に女性とそのような関係になってはならないことは百も承知だ。しかし,リスベルは奴隷を手に入れたのだ。なんら,相手の気持ちを推し量る必要はない。やりたいようにやればいい。しかも,その相手は,絶世の美人だ。リスベルは,自分が世界一幸せな男だと思った。


 リスベルは,千雪にキス以上の行為をした。だが,その行為は1分にも及ばなかった。千雪の股間部からは血が微かに滲み出た。でも,痛みはさほど感じなかった。


 千雪は,何度もリスベルに抱かれるのは避けたい。宣誓契約では,リスベルを害する行為はできないが,リスベルの健康のためにぐっすりと眠ってもらうのは,宣誓契約に違反しないと考えた。


 千雪はリスベルの体内へ微量の霊力を流して,睡眠を促進させることを試みた。千雪にとって,この試みは初めてのことで,うまくいく自信はなかった。だが,その効果はてきめんだった。


 これから,一晩中,何度も千雪を抱こうというリスベルの性欲むき出しのヤル気は,強烈な睡魔によって阻止されて,その場に倒れるようにして眠りについた。


 エルザとフレールは,自分たちのいる横で,リスベルが女性を抱く行為が始まるとは思わなかった。だが,その行為の時間はわずか1分だった。


 エルザは,リスベルのその短すぎる行為に対して,軽蔑した言葉を吐こうとしたが,すでに,リスベルは,完全に寝入ってしまっていた。


 エルザは,自分の欠点をそっちのけで,他人の欠点をあげつらうのが得意だ。文句を言うべきリスベルは寝てしまったので,フレールに文句を言った。


 エルザ「リスベルのエッチな行為を見るのが,私たちの警備の仕事の?!」


 もし,この言葉をリスベルに投げかけたら,逆に,リスベルから反撃にあったはずだ。『護衛の仕事は,雇い主の目の前で,自慰をすることなのか』と!!


ーーー

 千雪は,リスベルを右隣にずらして,自由な身動きを確保した。今日は精神が高ぶって寝れないと感じた千雪は,ベッドから降りて,服を着て,護衛の2人の視界から見えない位置に移動した。そこで指輪に触って亜空間領域を開いてその中にもぐりこみ,寝室から姿を消した。


 エルザとフレールは,ともに寝たふりをしていて,千雪がベッドから降りて服を着だしたのを横目で見ていた。


 その後,千雪が彼女らの視界から外れた後,急に千雪の気配が消えたように感じた。気絶して倒れたのではないかと心配になり,エルゼとフレールは,ほぼ同時にベッドから降りて,千雪を探した。しかし,千雪はどこにもいなかった。


 エルザとフレールは,お互い顔を見合わせた。転移魔法などの魔法で消えたのではない。もし,そうなら,魔力の波動をわずかでも感じるはずだ。


 もしかして,千雪は幽霊だったの?これまでのことは夢だったの?いや,それはない。なにか特殊な能力によって,姿を消した可能性もあると,無理に解釈した。ベッドに戻り,疑問を感じながらも,彼女らはいつしか眠りについた。


 収納能力を持つ指輪は普通に売っているものであり,生きた動物も収納するより高レベルな指輪もある。しかし,自らを指輪の空間に収納できる指輪など知られていない。だから,エルザやフレールがまさか千雪が指輪の構築した亜空間に入ったなどと考えもしなかった。


 千雪は,亜区間領域にある自分の部屋にいると,とても落ち着いた気分になった。リスベルのこと,奴隷契約のこと,処女を失ったことなど,今は何も考えたくなかった。


 読みかけ中の古代魔法書を解読して,一晩過ごすことにした。


 5時間ほど過ごした後,亜空間領域から出て,元の寝室に戻った。幸い誰にも気づかれなかった。この寝屋の片隅で,座禅姿勢で霊力の体内運用修練をした。


 しばらくすると,リスベルが目覚めた。深い眠りについたためか,体力も性欲も万全だ。なぜ,自分は,こんなにもぐっすりと寝入ったのか,わからなかった。せっかく奴隷を手に入れたのに,これではまったく意味がない。


 リスベルは,自分の隣に奴隷の千雪がいないことに気づいた。部屋を見渡すと,片隅で座禅姿勢をしている千雪を見つけた。リスベルは,すぐに千雪に声をかけた。


 リスベル「千雪,そこで何してる?すぐ,ここに来なさい」


 霊力の訓練は,リスベルの声で中断された。千雪は,ゆっくりと起き上がり,ベッドのそばに移動した。


 千雪「何でしょうか?」

 

 リスベル「何で服を着ているのだ?すぐに脱いで私の横に来なさい!」


 千雪は,命令が気に入らなかったら,夜でなくても,リスベルの健康のために,彼を眠らせればいいのだと考えた。


 千雪は,リスベルの傍らに来て,服を脱ぎ始めた。


 エルザとフレールは,リスベルの声で起こされた。そして,消えたと思われた千雪がまた現れたのだ。


 エルザは,自分はまだ自慰しかできないのに,年下の『糞ガキ』が奴隷を遠慮無く抱くことに,無性に腹がたった。もう,発狂に近いくらい,羨ましさを感じた。


 エルザは,癇癪を起こしてフレールに怒鳴った。


 エルザ「フレール!!性欲を抑える魔法か,薬ないの?リスベルさんは,もう性欲の塊になってしまったわ!」

 フレール「残念だけど,そんな魔法は知らないわ。薬はあるかもしれないけど,私は持っていない」

 エルザ「じゃあ,こんなこと,毎日見せつけられるの??? 冗談じゃないわ!!もう護衛の仕事なんて,やってられない。領主様に,この仕事やめる!と言ってくる!!!」


 エルザは,自分たちがこれまでさんざんリスベルの目の前で自慰行為をしてきたことを,すっかり忘れていた。


 その言葉を聞いたリスベルは,慌ててエルザの引き留めにかかった。


 リスベル「エルザ!待て!わかった!」


 リスベルは,ちょっと考えてから,フレールに言った。


 リスベル「このベッドに防御結界を張れるか?しかも,外から見えないようにすることはできるか?」

 フレール「それくらいは,できますけど,,,」

 リスベル「じゃあ,今,それを張ってくれ。今後,君たちの護衛に影響しないような,もっといい方法考えるから,仕事をやめるって言わないでくれ。もう少し様子を見てくれ。それに,わかってくれ,千雪を見てわかるだろう?この絶世の美女,美しすぎる裸体,そして,きれいな小さな胸,,,」


 エルザ「だめです。もう我慢できません。結界張ったところで,私たちの性欲が誘発されてしまいます。それでは,仕事ができません。辞めさせていただきます!!」


 リスベル;「待て,早まるな!わかった。わかった」


 リスベルは,なごり惜しそうにして,千雪に言った。


 リスベル「千雪,もういいから,服を着なさい」


 エルザは,このままでは済まさない覚悟だ。

 

 エルザ「リスベルさん。もう何をしようとダメです。千雪がリスベル様と一緒にいるということが,常にリスベルさんを性的興奮状態にさせているということです。そんな状況では,私たちの仕事に差し支えます。今の給金の2倍,いや,3倍いただければ,考え直します。そうでなければ,私はやめさせていただきます!!」


 フレールは,別にリスベルと千雪がどうしようと,あまり気にしなかったが,エルゼがここまで頑として言い張る以上,エルゼと歩調を合わせることにした。


 フレール「私もエルゼと同意見です」


 リスベルは,エルザとフレールの反対にあい,意気消沈した。


 リスベル「今の経済状況からみれば,2倍でも到底無理だ」

 

 リスベルは,さらに,しばらく考えてからいった。

 リスベル「わかった。この問題が解決するまでは,エルザとフレールの前では,もう千雪を抱かない。決して,お前たちの言う,性欲を誘発する,という行為はしない。もう2,3日まってくれ。まだ父や母には一切言うな。いい方法を考える」


 そう言ったものの,心の中では,さんざんこれまで私にお前たちの見たくもない自慰行為を見せつけていたくせにと愚痴った。


 リスベル「エルザ,フレール,機嫌直してくれ。この通りだ」


 リスベルは,彼女らに深々と頭を下げた。


 エルゼは,リスベルが頭を下げたのを見て,少し軟化した。正直言って,エルザにとっても,この楽な仕事を止めたくなかった。


 エルザ「わかりました。2,3日待ちましょう。それと,再度いいます。私たちがリスベルさんを護衛している時は,千雪がリスベルさんと一緒にいる状況は避けてください。千雪にまじめな仕事をさせるのであれば,もちろん,かまいません。しかし,それ以外は,私たちがいないときにお願いします。私たちに,少しでも性欲を誘発させる言葉,行為は避けてください」


 リスベル「わかった。約束する。もうこの話は,ここで終わりとしてくれ」


 千雪は,ニコッとほほ笑んだ。意外な援軍がいたものだ。彼女らは,リスベルの護衛なので,常にリスベルと一緒にいるのが仕事だ。リスベルが一人になるという状況は,ちょっと想像できなかった。つまり,当面は,リスベルの相手をしなくていいということだ。


ーーー

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