第67話 (1/5) 最高の日

「ショウ! だめだった!」

 天空でサラが叫ぶ。


「サラ、大丈夫だ。見習いさん、マスター達の出番です!」

 ショウも叫ぶ


「私は見習いじゃありません。でも……了解!」

 見習いが古びた巻き線のついた電話を取り出して叫ぶ。


「昭和だ……」

 レトロな受話器を見てショウが呆気にとられる。


「マスター達、出番です!」

 電話に向かって見習いが叫んだ。


 日本各地のマスターがその能力を百パーセント発揮して自然に力を加えた。物理的な力はそれほどない筈の守護霊達が力を合わせて全国の山々、海底火山にありったけのエネルギーを注いだのだ。


 結果、日本中の火山、海底火山が小規模の噴火を起こした。


 まるで地底の圧力を抜くように……


「坂本博士、たいへんな事が起きています。日本中の火山が小規模の噴火を起こしています。まるで誰かが、上手にマグマの圧力を抜いてくれているようです。共振も収まりつつあります」


「奇蹟だ。奇蹟が起きている。爆発のせいでも、自然の力でもこんなことは起きない。これは多分、神か人知を超えた何かの意思が働いているとしか考えらない」


「先生、それよりチャンスです。オプションBを発動しましょう。今なら行けます」

「もちろんだ、爆破タイマーを動かしてくれ、三分だ」

「はい! 先生」


 三分後、二度目の、しかし決定的な爆破が太平洋の海底で起こった。


 地殻のごく一部に穴が開き、ついに世界初の制御された人工噴火が始まった。


 超巨大な花火が真っ青な空に飛び散った。


 それは凄く、ある意味美しい光景だった。


 世界中の人々が中継で、その世紀のショーを堪能した。


 凄まじいマグマが安全に放出された。


 それにより九州地下のエネルギーは緩和された。


 これで破局的噴火が起こることは数千年は無い……



 ◇ ◇ ◇



「アンドリュー君、後は任せたよ。僕は妻の病院に行く」


「オーケー、ショーマ。いってらっしゃい!」


 助手のアンドリューの大きな声を背中で聞きながら、翔真は病院へ車を走らせた。


「「おぎゃあ、おぎゃあ」」


 双子の生まれたての赤ちゃんの泣き声が響く。


 二倍の出産に疲れ果てた、さくらの、しかし幸せな顔がそこにあった。


 その笑顔は夫の翔真の方を向いている。


 さくらの手を握り笑顔を返していた翔真は、二つのベビーベッドに置かれた我が子の大きな泣き声に顔を向けた。二人とも女の子だ。


「随分、元気だな」翔真が言う。


「翔真の子だからね」さくらが言う。


「さくらの子だからだろ。二人とも女の子だし」


 二人は笑った。


 そこへ看護師さんが出産祝い用の特別な花束を持ってやってきた。


「坂本さくらさん、赤ちゃんの誕生おめでとうございます。これ先程、男性の方がやってきて渡して欲しいと言われました」


「え、誰でしょう? 名前はお伺いしましたか?」

 さくらが看護師に聞いた


「いえ、聞いたんですがおっしゃいませんでした」


 さくらが花束を受け取り、タグを見た。かわいい埴輪の様な絵とサインが書いてあった。『マ〇〇-より』


「知ってる?」さくらが翔真に聞いた。

「さあ」翔真も知らなかった。


 天空でサラとショウが話した。


「あれ伏字になってるけどまさかマスターかな?」

「どっちのマスターよ!」

「わからん、見習いさんですか?」

「私じゃないですよ」と見習い。古いマスターだろうか?


 翔真とさくらは、滅菌処理をした美しい薔薇の花束に、

「誰か分からないけどありがとう」と感謝の意を示した。



 ◇ ◇ ◇



「結局名前は何にするの?」


 翔真がさくらに聞く。

 二人は随分前から色々名前を考えていた。

 最後はさくらの判断で決めることにしていた。


「えーとねえ、お姉ちゃんの方は『くるみ』にするわ!」

「やっぱり――」


 姉のかえでの子、もう小学生だが姪っ子と同じ名前『くるみ』。

 さくらはどうしてもこの名前を付けたかった。


 かえでに聞いたら、「わあ、いいんじゃない? 同じ名前」と言った。


 姪っ子の元祖くるみに聞いたら『私と同じ名前? それ絶対にいい。それにしてね』だった。


 反対する人はいなかった。


「もう一人は?」翔真が聞く。


「妹は沙羅(さら)がいいかな」

「ああ、僕の考えたやつだね」


「うん、響きがいいかなって」

「さくらに沙羅、似てるしね」


 泣き止んだくるみと沙羅がタオルにくるまれて抱かれ、さくら達のところに連れてこられた。


「初めまして、くるみ、沙羅」


 天使のような可愛い二人に、さくらと翔真の顔もくしゃくしゃになった。




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次回、最終回になります😊

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