第66話 (1/4) 奇蹟を信じて
九月九日、さくらは病院にいた。
朝から産気づいて午前中の内に病院に入った。出産は夕方になる見込みだ。
そして、今日のお昼丁度に翔真の……いや日本の運命の作戦が実行される。世界中がこの初の試みを注視している。
「坂本さん、子供の状態はとても良さそうです。あいにくこんな日になりましたけれど安心してくださいね。双子ですけど頑張りましょう」
「はい、先生」
医師に元気づけられ、さくらは初めての出産にもリラックスして望めた。天界のサラとショウも固唾を吞んで下界の様子を見守っている。
翔真はJAXAの制御ルームで遠隔監視している太平洋上のカメラ画像や衛星画像、データの表示を多くの関係者と注視している。
既に爆破は時間で自動的に行われるように設定されており、カウントダウンが始まっている。
「坂本博士、いよいよですね」
「ああ、何とか一発で海底噴火が誘発されることを祈るしかない」
しかし翔真は冷静に計算していた。本命の一発で誘発される可能性は三割程度だ。爆薬の量が少なすぎる。
しかし関係者との契約条項に違反しないように巧妙に第二の爆薬をセットしてある。一発目で誘発に成功しなかった場合に、オプションBを公表して、実行する。
誰にも文句を言わせない。
心配は一発目の副作用だけだった。
爆発まで一分を切った。
制御室内に緊張が走る。
カウントダウンの声が制御室内にこだまのように響く。
皆が固唾を吞んでモニターを注視する。
太平洋上は平和で静かな凪が続いていた。
その映像は世界中に同時配信されている。
「5、4、3、2、1……爆破」
太平洋の海底、プレートの薄い部分に掘られた細くて深い穴に仕込まれた高性能爆薬が爆発した。
TNT換算で十メガトンに及ぶ強烈な爆発が海底プレートへの直接的な影響を避けて、地底方向に穴を開けるような指向性を持って炸裂した。
近くに設置された地震計が振り切れる。
海面までもが赤くなり蒸発し、大爆発のきのこ雲が立ち昇った。
「爆破のエネルギーは想定通りです! ホットプルーム上のマグマの流動に変化ありますが、しかし……パワーが足りません!」
やはり予想通り爆発力が足りなかった……
地震波が日本中に広がる。副作用の共振現象が起き始めた。
「地震……」
さくらの病院でも揺れを感じ始めた。日本の土台のプレートが中途半端なエネルギーに拒絶反応を起こしている様だ。
「震度3くらいだけど、長いな……」
病院の先生が呟く。
翔真が緊急で記者会見を行う。
「爆破のエネルギーが足りませんでした。まだ海底噴火は誘発されていません。しかし、この場合に備えて我々は計画の開発契約の第十二条にある特別爆破オプションを仕込んであります」
記者たちがざわつく。
「オプションBです。ただし、作動させるタイミングが難しいです。日本列島のプレートの共振が収まらない内に行うと、共振が震度5程度まで大きくなるリスクがあります。猶予は五時間ほどですが、ぎりぎりまで様子を見ます」
翔真の衝撃の報告に、世界中が息を飲んだ。
作戦はこのまま失敗するのか、それともオプションBで一発逆転、成功するのか。
「翔真……信じてる」
さくらは、そう呟いておなかをさすった。
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