第64話 (1/2) 誘導噴火と9月9日
翔真は地質学・火山学の専門家として活躍していた。最近は九州で起きる可能性が取りざたされている大きな噴火を防ぐ方法を検討しており、世界的にも有名になっている。
しかし、自宅では相変わらずの翔真であった。
さくらが自宅に帰ってきた。
「ただいまあ」
「おかえり~、さくら良かったよ!」
翔真が出迎えた。
「ありがとう! さて、私はこれで収入がしばらくなくなるから、翔真君にしっかり働いてもらわないとね~ この子のためにもねえ」
さくらがお腹をさする。
「さくら、ここだけの話だけど、火山を海洋で人為的に誘導噴火させる技術がついに完成したんだ! 世界史上初だぞ!」
「わあ、すごい…… どうやるの?」
さくらにはその凄さがピンと来ない。
「フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界に新たに発見されたホットプルームがあってその薄い部分に…………という訳だ」
翔真が詳しく説明をしたが、さくらにはちんぷんかんぷんだった。しかしそこはアナウンサー業で培った対応能力。
「要するに、地下に日本より大きな風船みたいなマグマが溜まっているところがあって、そこにプスッと針みたいので穴を開けるのね」
「……まあ、非常~に簡単に言うとそのとおりだ。さすが女子アナ」
「理屈はさっぱりわからないけど、イメージは浮かんだの」
「それでだ。九カ月後、来年九月九日に遠洋で、その『プスー』を行う事に決まったんだ!」
「それって本当に大丈夫なの? 逆に国内で噴火を誘発したりしない?」
「大丈夫! 念のためB183という威力を調整できる最新型の爆薬を使うんだけど、失敗しても、噴火が国内で誘発されることは無いんだ。逆に一部の研究者が必要以上に爆発力を抑える様に主張しているんだけど中途半端な方が本当は良くない」
「……」(爆弾の話をされてもねえ)
とは思ったが、女子アナのくせで会話を続ける。
「何か起きるの?」
「震度3くらいの共振地震が至る所で起きちゃう。被害は出ないと思うけど、肝心のガス抜き計画がかなり遅れてしまう」
翔真は火山をわざと海洋で噴火させる計画をガス抜きと称した。しかしさくらはそんなこと、気にしてさえいない。気になるのは……
「九月九日って、ちょうど出産予定日なんだけど……」
「ごめん、それは調整できないんだ」
「いいよ、絶対成功させてよね。子供が生まれたとたん、噴火や地震騒ぎはごめんだからね」
「任せておけ! 日本は俺が守る、さくらも子供も俺が守る!」
天界でこのやりとりを見ていたショウがぼやく。
「あーあ、珍しく熱くなってるよ。噴火制御技術の完成がよっぽどうれしかったのかな?」
「いいえ、子供ができたからよ」
サラが目じりを下げて言った。
「さて、お二人さん、九カ月後ですよ、こちらも準備しましょうね。さらにその後には、お二人に重大な話がありますからね」
見習いが言う。
「え、何? ちょっと気になる」
「お知らせするのは九カ月後です」
「はい」
天界も少し忙しくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます