第56話 (12/17) 運命の日
三日目、金曜日
翔真は飛び起きた。またひどい夢を見た。呼吸を整えて時計を見る。
しまった。寝過ごした。アラームが聞こえなかったのか。
翔真はすぐ様、松山さんの家に電話した。今日の予定は変わるのか?
しかし、いつも出るはずの松山さんが電話に出ない。奥さんともう家を出たのか?
次にさくらにSNSでメッセージを送る。
「さくら、今どこ?」
「もう電車に乗っているよ」
「すぐ降りろ、その電車はだめだ」
「本当? 事故が起きそうなの? 次の駅で降りる。だけど駅まであと二十分くらいかかる」
「また連絡する。なるべく後ろの車両に移って手すりをがっちり掴んでいて」
「わかった」
翔真は服を着ながら車まで走った。
車に飛び乗ると、ナビゲーションでスーパー高田を探し出した。
松山家からのルートを調べた。考えられる踏切のあるルートは二つあった。
しかし翔真は愕然とした。だめだ。どちらの踏切もさくらが降りる駅より前だ。
そう言う事だったか、もう踏み切りで電車を止めるしかない……
天界ではサラが叫んでいた。
「フェリン、さくらに電車の中の非常ボタンを押させて!」
フェリンも叫び返す。
「だめです。さくらは翔真が何とかしてくれると信じています」
翔真は車を飛ばしながら二つの踏切を考えていた。
(松山氏はどちらを通る?)
「止めて! 止めて!」
天界では三人が一時停止し、協議を始めた。
「止めました。でも今回は三分くらいしか止まりません。急いで考えましょう」
「見習いさん、どっちを通るの?」
「えーっと」
見習いがタブレットを高速で操作する。
「早く!」
「はい。出ました。電車が早く通過する方の踏切ですっ。地図の右側」
「翔真になんて伝える?」
「電車を停めることを考えさせるんだ。右側の踏切を意識させて。左側に行ったらアウトだから。フェリン伝えてきて、今すぐ!」
「はい。承知」
フェリンは猛スピードで飛んで行った。
「翔真が正しく右側の踏切を選んだとしても間に合わなかったらアウトだ。そこは翔真の運転テクニック次第」
「交差点の信号を操作します」
見習いが言った。
「そんなことできるのか?」
「今回は特別な制御コードをマスターから入手しています。交差点の信号なら不自然にならない範囲で操作できます」
三分が経過して、場面は自動的に再開された。翔真は考えた。早く通過する方の右側の踏切にしよう。最悪松山氏が通るルートでなくても、さくらの電車を止められればいい。まあ、警察にはつかまるけど。
翔真は正解だった。松山氏は翔真が選んだ方の踏切をルートとして選んでいる。
――でも間に合うか。ぎりぎりだ。
電車、松山氏の車、翔真の車が各々異なる三方向から一つの踏切に近づいていく。
翔真の通る信号が次々と青に変わる。一度も赤信号に引っかからない。
あと三百メートルほどの距離で踏切が見えた。
もう警報機が鳴り始めている。
(ああ、松山氏の車が踏切に入ってきた。通り抜けてくれ、お願いだ)
しかし無情にも松山氏の車は本当に線路上で停止してしまった。
さくらの乗った電車が視界の端に現れた。スピードが速い。
あと二百メートルで再び映像を一時停止。
「停止は三十秒です」
「見習いさん、間に合いそう? 電車がもう来たよ」
「厳しいです」
「誰か緊急停止ボタンを押してくれないか」
「機転の利く人が付近に見当たりません」
「シミュレーションは?」
「時間が無いし、もはや意味ありません」
「翔真に伝えて! あきらめるな!」
「翔真、お願い! 私を助けて!」
「再開されます」
見習いが無情に言った。
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