第48話 (11/28) 夢芝居 開演!

 翔真は移動するまでの数日間、胸騒ぎと悪寒に襲われ続けた。そして何故かさくらが怪我を負った姿が目に浮かぶ。


「なんだ、これは虫の知らせなのか? さくらの身に何かが起きるというのか?」


 翔真は出発の前日、さくらに連絡した。


「さくらあ」

「なあに暗い声で。明日出発でしょ? 迎えには行けないけど、こっちに着いたら一度顔を出してね。連絡頂戴」


「わかった。そちら何か変わったことはない? 元気?」

「何? こっちはみんな元気だよ。私も絶好調」


「あーみんな元気なら良かった。通院とかしっかり行っているの? 仕事が忙しいとか無い?」 

「通院はしっかり行っているし、仕事も特に忙しくないよ。何を心配してんの?」


「いや。大丈夫ならいい」

「用事はそれだけ?」


「それだけ」

「なあんだ。あの、夕食なんだけど木曜日にしたからね。近くの少しおしゃれなレストランを予約しておいた。七時だけどいいよね?」


「ああ、それでいいよ。ありがとう。」

「翔真、土曜日はどうする? もしかして、もうどこに行くか決めてる?」


「あーいやドライブとかショッピングモールとか、いくつか考えたけど、もしかしたら地質調査が金曜日に終わらないかもしれないんだ。それで土曜日まで作業することになったらなんだけど……その時は近くの実鳥高原に行くのはどう? その付近で少し地質調査をやってから一緒にトレッキングできればと思ったんだけど」


「仕事ついで? まあいいけど。ただし、もし仕事が無ければドライブかショッピングモールにしようね。ところで足はあるの?」


「幽霊じゃないんで足はあります」

「ああ足があって良かったわね……じゃないわよ! 車はどうするのかってこと!」


「分かってる。レンタカー借りるよ。大丈夫さ」

「もう! こっちに着いたら連絡頂戴よ」

「わかった。じゃあね」


 さくらも他の人も現時点では大丈夫そうだ。安心した。

 そしてその夜、いよいよ天界演出による夢が翔真の脳内で開演された。


 第一幕


 朝のまぶしい横からの太陽の光

 街をつらぬく線路を安全速度で走る電車

 いつもと全く変わらない乗客の表情


 踏切に近づいていく電車

 場面が切り替わり自宅を出る乗用車

 いつもの病院へのルート


 少しいつもより家を出るのが遅かったと時計を見る年老いたドライバー

 となりでせかす妻

「病院の受付が遅くなるから急いで」

 車が踏切の近くにやってきた


 車内が寒いのでエアコンのスイッチを入れる

 踏切で一時停止

 その時妻からの声


「エアコン、余計寒いわよ。止めてよ」

「ああわかった」


 そう言い手探りでエアコンのボタンを探す

 それと同時に左右を確認し発進するドライバー

 車はゆっくり進みだした


 次の瞬間踏切の警報機が鳴りだす

 老ドライバーは突然の警報音に焦る

 間違ってエンジンのボタンを押してしまう


 車は踏切の途中で止まる

「何やってんのよ!」

 妻に罵られ運転手はさらに焦る


 エンジンを切ったつもりは無い

 アクセルを踏んだりギアを入れ替えようとする

 ――なんだ、どうして動かないんだ


 動揺して同じ動作を繰り返す

 電車が近づいてくる


 電車から甲高い警報音が響き渡るが、電車の速度は急には落ちない

 妻が慌ててドアを開けて外に飛び出す

 続けてドライバーの夫も車を見放して逃げる


 次の瞬間、電車が車に突っ込む

 運転士のひきつった顔が見える

 ものすごい音がして、先頭車両が車を弾き飛ばし脱線する

 

 そこに二両目、三両目と横になりながら重なって潰れていく

 五両目まで重なると、ようやく電車が止まる

 煙と悲鳴、騒然する目撃者たちの群れ



 第二幕


 新聞の記事

 凄惨な列車事故の見出し

 大きな事故現場の写真

 

 被害の状況の記述

 多数の死傷者が出ている

 運転手の名前

 「松山正 八十五歳」

 

 居住地区が拡大される

 事故の内容が詳細に記載されている



 第三幕

 

 病院の様子

 ベッドに目を瞑り頭に包帯がまかれている

 横たわっているのはさくら


 鼻にはチューブが差し込まれている

 点滴が両腕につながっている


 ベッド脇には憔悴した様子の二人

 さくらの母と翔真が並んで項垂れている


 看護師が定期観察に来る

 無言で処置を行う

 軽く会釈をして去っていく



 ……夢はかなりの出来映えだった。

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