第47話 (11/26) 夢芝居『いやな予感』
天界サイドではショウが悩んでいた。
まず翔真を移動させる第一段階はオーケーだが、松山老人へのアクセスをどうするかがさっぱりわからない。
全くの赤の他人にどうやって翔真を近づけさせるのか? ショウは見習いとサラに再び相談した。
「どうすれば翔真を松山氏に近づけさせることができるかな? 二人は全く関係が無いし、今のままだと翔真は地元の大学と山にしか行かない」
サラも同調した。
「そうよねえ。どうしたらいいのかしら? どの踏切かは分かっているんだから、例えば翔真に毎朝、そこで見張らせたら?」
見習いが口を挟んだ。
「あの、こう言っては何ですが、踏切の場所は確定していません。シミュレーションとは変わる可能性が結構高いです」
「それは厄介ね」
「あと翔真にそれをやろうと思わせる理由が必要だよ」
「そうだよねえ」
見習いがしばらく考えてから言った。
「奥の手があります。うまく行かないこともあるのですが、夢を使いましょうか。翔真さんの夢に介入して、これから起こる事故を知らせるんです」
「夢? そんなこと出来るの?」
「相当強烈に介入しないといけませんが、今回は用意した夢をうまく見せることができると思います。ただし翔真さんに行動を起こさせるには、夢を見せることと同時に、その夢が現実に起こりそうだという認識を事前に持たせなければいけません。夢を見ただけではダメなんです」
「そんな事どうやって……」
サラが呟いた。
「何日か前から嫌な予感を翔真さんの潜在意識に植え付けましょう。しばらくの間、翔真さんの心の奥でさくらさんを心配させるんです。その胸騒ぎがしている状態で事故の夢を見させれば、防止行動に出てくれる可能性が高くなります」
胸騒ぎという言葉は良く使われるけど、その正体はこういうことだったのか。
「そして、事故を防ぐために翔真さんを松山老人にアクセスさせるという一番の具体的課題があります」
「その誘導をするのが難しいのよね」
「こういうのはいかがですか? 事故後のニュース映像か新聞記事を予め作成し、松山氏の名前と居住地区を翔真さんに夢でくっきりと見せましょう。私がマスターと話して用意することができます」
「それを見て翔真は、松山正という名前を覚えるわけだ。でも夢に出てきた個人を調べに行くかな? やっぱりさくらを電車に乗せないとかの方向に動くんじゃないかな?」
「さくらの方に行っちゃうよね」
見習いはその意見も妥当だと感じた。
「そうですね。そこも対処が必要ですね。ショウさんどうしましょう。考えてください」
「むむむ。翔真に事故を意識させること、松山老人を覚えさせることはできる。でもどうやって松山老人を止める方向に翔真を動かすか?」
長い時間考えてから翔真は言った。
「見習いさん、サラ、こういうのはどう? 夢に見せる事故は実際の事故よりも、はるかに悲惨なものにする。そしてさくらはどんなに事前工作してもその事故に巻き込まれる設定にする。これなら翔真は松山老人を止めるしかなくなる」
「翔真、考えたね。でも夢での事故の規模を大きくすることはできても、必ずさくらが巻き込まれる設定ってどうやるの?」
「事故が起こる電車がどれか特定できないようにすればいいんだ。さくらが電車を変えても事故に遭わないっていう保証がなくなる。要するに朝に車と電車が大事故を起こすシーンと、事故後にさくらが大怪我したようなシーンだけを映す。そして松山氏の記事も。これらだけなら翔真はさくらがどの電車で事故に遭うかわからないから、さくらを来週一回も電車に乗せないかぎりは防ぎようがない」
「なるほどね」
「さくらを電車から遠ざけられないのなら、事故そのものを防ぐ事も考えないといけなくなる。結果的に松山氏にアクセスすることを思いつくんじゃないかな」
「おー。翔真、やるじゃん。見習いさん、どうですか?」
見習いはタブレットを少し操作してから言った。
「いいですね。それならシミュレーション上はうまく行く可能性が高そうです。問題はいかにその夢の完成度をあげるかと、先ほども言った通り、嫌な予感の入力が大事です。サラさん、夢の事前制作では大女優張りの演技をしてもらいます」
「ええ? 私が出演するの? 演技は苦手なのにい」
「はい、合成で作ることも可能ですが、前撮りの実写が良いでしょう。大怪我のシーンはセリフも少なく難しくはないと思いますのでお願いします。それから嫌な予感の入力も手伝ってください。サブリミナル効果で行きます」
「サブリミナル? もしかしてちょっとずつ私の悲惨な姿を出す?」
「そのとおりです」
「あんまりだわ」
お化け屋敷の仮装よろしく、さくらは血みどろの恰好で翔真の潜在意識にちょこちょこ登場した。
ショウはフェリンを通じて、
「何かが起きる。嫌なことが起きる」
と、翔真の心の中でぼそぼそとお経のように再生してもらった。
果たして効果は?
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