第46話 (11/23) 計画は着々と(翔真)

 一方、天界でショウは調査を始めた。まずは老人の顔や車などをデータと照合して本人を特定した! さらに彼の日常生活を調査した。


 松山正、八十五歳。妻と住んでいる。


 天界では住所は概略しか判明できなかった。番地など具体的な住所は地上で翔真に探してもらう必要がある。買い物くらいでしか車は使っていなかったが、最近は妻ともども体が弱ってきて病院に通う頻度が増えたらしい。


 ――おそらく朝、病院に行くときに事故が起きるんだろう。


 そして松山の先祖の霊についても調査。


 直系の霊の存在は不明。親戚の霊は何体かアクセス可能だが、とても本人の行動を変えるような関係ではない。彼の当日の行動を変えるには、地上の翔真に頑張ってもらうしかない。


 またこの件をじっくり考えていてショウが思ったのは、さくらを事故から回避させるのはもちろん最重要だが、他の怪我をするであろう多数の乗客を事故から守る必要があるということだ。事故を起こさないようにするアクションは、さくらの巻き込まれ回避と同じくらいに重要だ。


 一方のさくらの行動をどう変えて対応するか。事故が起きる週の通勤時間をシフトできないかと、サラ、ショウ、見習いがあれやこれやの画策中。


「やっぱり、遅くする方は難しいですね。早く職場に行かせる方向で調整しましょうか?」


「電車から降りた後、職場に着く前にどこかの店でコーヒーを買わせようよ。その分早く自宅を出るようにする」


「それではたいした時間が稼げないと思います。電車に乗る時間をわざわざずらすほどではありません」


「なら、軽い朝食を取らせたら?」

「さくらさんは外で朝食は取らないでしょう。サラさん、どう思いますか?」


「私は取らないわね。歯磨きとかしないといけないし、外で食べるくらいなら朝食は抜くわ」


「では会社で朝に仕事か何かやるようなことはできませんか?」

「そちらの方が可能性ある、考えましょう」

「ではやってみましょう。フェリンもお願いしますね」


 それから数日間のフェリンの働きかけが功を奏して、さくらは少し早い時間に家を出るようになった。


 一方の翔真。


 事故が起きる前の週、翔真はぶつぶつ言いながら、移動の準備を整えた。


 ――所持金が少ないのに、なんで俺は無理して地元に行くんだろう。どうせ大学院に入ったら行く場所なのに。そんなにさくら達に会いたいのかな俺。平日から。


 翔真はさくらやかえでに連絡を入れていた。


「さくら元気? 久しぶり。あのさ、次の火曜日から土曜日までそっちに行くことにしたんだ」

「え、何で? 連休でも何でもないのに。何か用事?」


「あーしばらく帰ってなかったし、少し研究関係でそっちの山で調べたい事が出て来てさ」

「そう。わざわざこちらに来なきゃいけないんだ、突然ね。久しぶりに会う? 週末くらいしか空いていないけど、もしくは平日の夜か」


「できれば。平日に夕食を一回しようよ。何曜日がいいか考えておいて、場所も任せる。あと土曜日開けておいて。どっか行こう」

「わかった。他の友達とも会う? 連絡した?」


「いや、今回はあまり時間の余裕がないから他の連中はいいや。かえでにはさくらから伝えておいて。八神家にもちょっとだけ顔出すよ」

「わかった。かえでに言っておく」

「じゃあ、また直前にでも連絡するね」


 電話を切ると、翔真は飛行機などの時間を再確認し水曜日から金曜日に具体的に何をするかと土曜日にどこに行くかを考え始めた。担当教授に調査と言った手前、地元の大学に寄って山域のデータを調べさせてもらったり、実際にフィールドワークをしたりすることは必要だろう。


 どこの地点の地質を見るかある程度決めておかないと逆に三日では足りない恐れもある。翔真は自分がなぜ今そんなことをやっているのか分からないまま計画を詰めていった。

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