第45話 (11/21) 翔真・緊急帰省
「ショウ、どうやって車が止まるのを阻止する?」
サラが聞く。
「その老人の先祖の霊を探し出して、行動を変更してもらおうよ」
ショウが答える。他力本願。
「それはかなり難しいです。霊界では組織的な管理をしている訳ではないので横のつながりが弱くて、その霊を探す事さえ難しいです。よしんば見つかったとしても、そもそもご年配の方の行動を変えることは難しいです」
見習いがそう簡単には行かないことをショウに説明した。
「マスターなら全部できるんじゃない?」
ショウ……
「いえ、マスターと言えども良く知らない人の霊は簡単にわかるわけではないんです。下の世界と一緒で地道に調べていくしかないです」
見習いは優しい。ショウに丁寧に説明する。
「赤の他人にアクセスするのはたいへんなのね。地上のその老人のことはわかるの? 住所とか?」
サラが別の案を示す。
「いえシミュレーションで出てきた姿しかまだわかりません。データで調べてどこまでわかるか……」
見習いが答えた。
ショウとサラが議論を始めた。
「可能性があることはやろうよ。僕が探すよ」
「他のアプローチは? 本人以外で車の踏切への侵入を阻止できない?」
「誰かに動いてもらう必要があるな。かえでとか?」
「さすがに用もなくそんな場所にピンポイントのタイミングで行かせることはできないでしょう」
「直接説明できないからな。自分の本体でもないし」
「それなら翔真を連れてこれない? あ、そうすれば翔真と会うことを理由に、そもそもさくらに会社に休みをとらせるとかもできるんじゃない?」
二人はこの事故を防ぐには……翔真を動かさなければいけないことに気がついた。しかし、見習いがすまなそうに言った。
「一つお伝えしなければならない問題が」
「何?」
「その事故なんですが、起きる日がはっきりしていないんです。だいたい三日間くらいには絞れるのですが、この日に起こるという特定の日にちまではわからないんです。これはあなたたちの時には無かったイベントなので絞り切れませんでした。
「それは困ったな。でもいずれにしてもベストを尽くすならやっぱりコントロール可能な翔真が近くにいた方がいいかも」
「そうね。そうしましょう。何か理由を付けてこちらに来るようにして」
「わかった。見習いさん、だいたいの予測日を教えて。翔真に大学を休んでこちらに来させるように仕向けるから」
ショウが言った。
「はい。わかりました。予測を再確認してお伝えします」
「ショウ、それから老人の調査もよろしくね。細かい計画は後で練りましょう」
◇ ◇ ◇
―― 地元……さくらのいる南の地から遠く離れた北の大学
緊急の作戦が始まった。ショウは翔真に急遽地元に戻る計画を立てさせた。
大学で翔真は担当の教授にもちかけた。
「先生、再来週なんですが、少し休みをいただいて地元の方に行きたいのですがよろしいでしょうか?」
「坂本君、突然だね。何かあったの?」
突然の翔真の申し出に教授が聞き返した。
「いえ、特別な用事ができたわけでは無いのですが、もう数か月で卒業になりますので、いろいろ実家で野暮用がありまして。あと、地質的に地元の山域にも興味がありますので卒業前に一度行って調べて先生にも調査結果を見ていただこうかななんて」
「坂本君、調査なんか、大学院へ行ってからでいいじゃないの?」
「いえ先生。私が先生の研究室にいる内に、地元の山域の地質について先生と話しておきたいんです」
「いいこと言うねえ。何か下心があるんじゃないの?」
「いえ、先生。ただ地元の地質に興味が向いてきただけです」
「そうかわかった。行ってもいいけど今進めている研究や卒業論文の方は遅れないようにね」
翔真はほっとして旅の計画を立て始めた。しかし、なんでそんなことをしたいと急に思いついたのだろう。自分で自分の行動が良く分からない。さくらに今どうしても会いたいって訳でもないし、こんな時期帰省する理由もないし……
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