第六章 最後の試練

第44話 (11/19) ある事故の予測 

  第六章 最後の試練


 時が過ぎ、大学を卒業したさくらは、就職して順調な人生を歩んでいた。


 白血病から生き残った体は完全に元通りとはいかないが、日常生活に問題がないレベルまで無事回復した。少しスリムになった体で毎朝明るく通勤している。


 就職先は念願のテレビ局で、二年目の新米アナウンサーとしてキャリアを積んでいた。


 一方の翔真はもうすぐ大学を卒業するというところまで来ていて、大学院に進むことを考えていた。


 しかも地元に近い国立大学の大学院に入ることを考えていた。専門の地質関係で有名な教授がいるため、その研究室に行きたいと考えたのである。


 さくらから見ると地元に戻ってくる形になる。翔真とまた気軽に会うことができるようになる!


 天界のサラとショウは、日々、地上のさくらと翔真に細かいサポートを施して、リスクを排除したり、ポイントとなる場面については、事がうまく運ぶように誘導したりしていた。


 地上の本人たちは、そんなこととは露知らず、自分たちは少し運やめぐり合わせがよいなと感じるだけであった。


 そんな平穏な日々をすごしていたある時、天界で事件が起こった。いや正しくは地上である事故が起こることが天界で分かったのである。


 見習いが慌ててやってきた。


「サラさん、ショウさん、急な話があります」

「何?」


「先ほど、これから数週間に下界のお二人に起きることを推測してみたら、さくらさんの方にたいへんなことが起きる可能性が高いことが分かりました」


「え、また? あの子、というか私か、本当に貧乏くじを引くよね。で、今度は何が起きるの?」


「今度は事故です」

「何の事故? 交通事故?」


「列車事故です」

「列車事故?」

「はい。それは……」


 見習いの説明を要約すると次のようなことだった。


 ある日の通勤時、さくらが列車に乗っていると、途中の踏切でその列車が通過する直前に車が止まってしまって、列車がそこに突っ込む。


 列車は脱線、大破し多くの怪我人が出てしまう。そしてさくらも大怪我をして病院に運ばれるとの事だった。


「どうすればいいんだろう」

「さくらがその電車に乗らないようにすればいいんじゃないの?」


「どうやって? いつも通勤に使う電車なんだろ」

「うーん。例えば、その日は早く行かせるとか、別の交通手段を使わせるとか?」


「合理的な理由を作るのが難しいね。逆に遅く行くように何か仕込めない?」

「さくらは時間を守るタイプだから、何かがあってもがんばってその電車に乗っちゃうかもしれないよ」


「早く行かせる方がいいか。でも百パーセント安全ではないな。失敗して結局その電車に乗ることになるかも」


「もう少し、追加の対応が必要ね。えっと、いっそ事故そのものを防ぐことはできない?」


 見習いが答える。

「それは結構難しいですね。電車や運転手に働きかけるとかですか?」


 ショウが言った。

「車の方がいいよ。車が踏切で止まらないようにする方がやりやすい」

「その手もあるね。運転しているのはどんな人だろう」


「えー。男性のご老人ですね。かなりのご年配です」

「何で踏切で止まっちゃうんだろう?」


「そのご老人は踏み切りを通過中に誤ってエンジンを切ってしまったようです」

「あーなんてことを。再始動しないの?」


「パニックになっちゃって、アクセルを踏んだり、ギアをがちゃがちゃ動かしたりで、エンジンの再スタートには気が付かないみたいです」


「踏切の非常停止ボタンは?」


「本人はそこに頭が回らないし、通行人は数人いましたが、気を利かせる人はいません。車がすぐ動くと思っているのでしょう」

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