第41話 (11/12) ライフレビュー(翔真-2) 

 二十三歳の翔真が見えてきた。

 飲み会でさくらに告白しようとした時から半年ほど前である。


 定職につけず、プライベートでも消極的な交友関係しか持たず、無為な日々を過ごしている。


「一見自堕落に見えますが、心を見てください。未熟な大人として固まらないようにもがいています。ここで切り替えられるといいのですが、自力で自分の殻を破るのは容易ではありません」


「自分を大切にすれば少しずつ変われるのにね。残念」

「もう少し心を強く持てよ。希望を捨てるな」


 ショウは映像を見ながら昔の自分にかつを入れる。


「サラさんがおっしゃるように、少しずつ積み重ねが必要ですが、翔真さんなら出来た筈です」


 ここでマスターがやってきた。


「みな元気だったかな。お、ちょうどショウ君のレビューが進んでいるね。どうかね?」


 ショウが答える。

「マスター、お久しぶりです。翔真は子供の頃からの心の傷がどうも大人になっても癒えていないようです。ただもう少し努力できたかと思います」


「そうかね。実は君は晩成型なんだぞ。心も人より遅れて成長しているが、やがて人よりも遥かに高いレベルに到達できる。結構珍しいんだぞ」


「でも私は死んでしまいましたからね」

「まあまあ、リライフの方は順調じゃないか。期待できるぞ」


「僕も今の翔真には期待しています」

「さあ、そこでだ。今回私が来た理由はオリジナル由来の君ショウ君の方だ。オリジナルの君は実はすごい力を秘めていたんだが、残念ながら亡くなってしまった」


「はい」

「しかしながら、ショウ君。君は亡くなった今でもその可能性を持っている」


「霊体の僕がですか?」

「そうだ。そこで他のマスターとも話したんだが、今回君をマスター見習いにすることにした」


「え、僕がですか?」


 見習いが説明する。


「ショウさん、見習いにはなかなか選ばれません。せいぜい千人に一人くらいです」

「それもショウ君はゆくゆくはサポートメインではなく、攻撃メインの仕事を受け持ってもらう」


「攻撃? 何を攻撃するのですか?」

「ロトンという物質だ。いいか少し詳しく説明するぞ。例えばだが生前の翔真、それからさくらさんの夫だった卓也、共通するところがある」


「何です?」

「心がネガティブなものに支配されて硬く閉ざされていくんだ。動きが悪くなり、人の意見は次第に受け付けなくなる。そして何よりも他人の気持ちを慮(おもんばか)ることができなくなる」


「それは本人の性格では?」


「いや違う。小さな子供を見てみい。生まれながらにしてそんなやつがおるか? 体験だったり誤った考えを植え付けてられてしまうからそうなるんだ。天界から特殊なフィルターを通して見ないとわからないが、その元凶となっているのは特殊な物質ロトンだ」


「物質なんですか? 人々の心をネガティブにしているのは?」


「そうだ。ロトンは霊的な物質だ。これは非常にやっかいで、地上、天界ともいたるところに存在する。ある意味共存しているとも言える。残念ながら実はどうもこの霊的な物質にはそれなりの存在意義があるようだ」


「そんなものに存在意義があるんですか?」


「言い換えれば必要悪かな。わかりやすく例えるならアレルギーの抗原。無いに越したことはないが、全く周りに無いと免疫すらつかなくなる。その状態で不意に抗原に遭遇すると簡単にショックを起こしてしまう」


「それはそうですね」

「他の例としては痛み。ペインだな。痛みは誰でも嫌だが、もし人が痛みを感じないと、怪我や病気も認識できず体がボロボロになってしまうだろう」


「ロトンによってもたらされる人間の悪癖や、他人を傷つける行動はもちろん絶滅させるべきなのだが、おそらく免疫的な意味合いで人類に取り付いて存在し続けているのだと思う。仮に、世の中の悪を一旦すべて絶滅させた場合、何世代か経つと免疫がなくなり、後世で悪が復活した場合、対処ができずに人類が全滅するのかもしれない。そのようなリスクを軽減するためにロトンは存在し続けるのかもしれない」


「パンデミックウイルスみたいですね」

「その通りだ」


「話を戻すが、ロトンに侵されると心の動きが悪くなり、人の意見を受け付けなくなることもあるんだが、これを私自身の体で例えるとこうだ」


 マスターは自分の左肩を見せた。


「これを見てごらん。中が透けて見えると思うが、拘縮と言って筋肉が硬く動かなくなってしまっている。これと同じで地道に心をほぐしておかないと精神もロトンに侵されてこのようになってしまうんだ。肩は地道なリハビリや運動療法で改善するが、固まった心はもっとやっかいで自力で回復させるのは難しい。天界としてはロトンを排除すべく戦う必要がある。我々のアクションが必要になるんだ」


「抽象的すぎて最後の方はよくわかりませんが」

「まあいい。今度例を見せてやろう。卓也くんあたりがいいかな?」


「はあ」


「とにかく……まずは君にマスター見習いになってもらうということでいいな?」

「はい、それは承知しました」


「おめでとうございます、ショウさん。私の仲間……いや後輩になりましたね。今後は先輩として、びしびし厳しく行きますよ」


 見習いが言うとフェリンが割って入ってきた。


「みなさん、そろそろさくらさんのレビューに入りませんか?」

「そうですね。そうしましょう」

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