第五章 ライフレビュー
第40話 (11/9) ライフレビュー(翔真)
第5章 ライフレビュー
バーチャルオーストラリア旅行から一年以上が過ぎた。さくらは大学四年生、翔真は大学二年生となった。
二人とも順調な大学生活を送っていた時期に、天界ではあるイベントが始まろうとしていた。見習いがフェリンに言う。
「地上のお二方は最近は安定してきましたね。フェリンどうですか?」
「問題ありませんね。二人とも最近とても元気です」
「翔真は余裕が出てきたね」
ショウが言う。
「さくらも就職先が無事テレビ局に内定し一段落だわ」
サラも自身のリライフに安堵の息をつく。
「そこでサラさん、ショウさん、これは天界では恒例なんですが今回、あなた達の言わば生前についてのレビューをさせていただきます」
見習いが突然言った。
「何ですか? それ」
ショウが聞く。
「少し複雑なのですが、聞いてください。今サポートしていただいている地上の人生が本命の人生なのですが、実はお二人が一度歩んできた人生も天界から見ると決して無くなった訳ではないのです」
「上書きされて無かったことになる訳ではないの?」
「残ります。どの人生もその時々のみなさんが懸命に生きた証でして、オリジナルの人生も永遠に残ります。これから行うレビューをする時には良く観察し思い出すことができます」
「良くわからないなあ、何の為にそんなレビューをするんですか?」
「守護霊であるあなた達が、ご自身のバックグラウンドを忘れないようにするためです。天界から見るとみなさんの一度目の人生も二度目の人生も同等に重要なものです。たとえ不幸な人生だったとしても、そこを懸命に生きた自分を忘れてはいけません。優秀な守護霊になるためにはそれをしっかり胸に刻んでおく必要があるのです」
「わかりました」
ショウは素直に従う。
「説明だけではわかりにくいと思いますので実際に始めましょう。それから今回は特別に、途中でマスターが来るそうです。連絡がきます」
「マスターと会うのは久しぶりだね」
「相変わらず多忙のようだけど肩は良くなったのかな?」
「人助けばかりで、自分の事は後回しなのかもね」
「はい、その辺で。では始めますよ。まずはショウさんの小さい頃から」
いつもの地上が見えるところにセピア色をしたオリジナルの翔真達の昔の情景が現れた。ズームされて一人で遊ぶ少年の時の翔真の様子が見えてくる。
翔真は、幼い時に父親がいなくなり母親に育てられた。近所の八神家に良く面倒をみてもらってはいたが、引っ込み思案な子だった。彼はやがて中、高と進むにつれて引きこもりがちになり勉強もあまりしなくなる。
「はい、まずは小学生の時の翔真少年の心を覗いてください」
サラ達が翔真を見ると、翔真の心の状態が痛いほど伝わってきた。まるで小さな子犬が首輪で犬小屋につながれて、ひとりぼっちで放置されているかのように映る。
「結構孤独だったんだね。もっと遊んであげればよかった」
「お母さん、忙しかったからなあ」
「このようなお子さんは非常に多いんですよ。昔から」
フェリンも思う所があるようだった。見習いが映像を二度切り替えた。
「こちらは翔真のお母さんです。毎日一生懸命働いていますね。こちらもどうぞ」
翔真の夕食とお風呂を済ませ、一人食卓で疲れてため息をしている翔真の母。
母は疲労困憊ながらも、何とか翔真を育てようとそれだけに心を振り絞っている様子がよくわかる。それを見てサラは涙が滲み、ショウは呟いた。
「大変だったんだな」
次に翔真が中学生の時の家庭の様子が映し出された。翔真はゲームをしたり部屋で寝たりしている。母親があきらめ口調で翔真に言う。
「翔真。明日も学校は行けないの? 少しは勉強しないと。あなたはやればできるんだから」
「うん。まだちょっと学校には行きたくない」
「そう。明日、八神さん家のお母さんが来るかもしれないから、来たら出てね」
八神家は翔真の事を心配してくれて、時々お昼ごはんを持ってきてくれたりしていた。さくらも共通の友達から宿題やノートを借りて、翔真に渡していた。
「翔真さんの心を見てください。母親や八神家の親切は頭では理解していますが、どうしても学校には居場所が無く行く気になりません。孤独感で固まって閉ざされていく心が見えますでしょうか?」
「当時はどうしていいかわからなかったんだよ。学校以外の世界は知らなかったし」
「学校は狭い世界なんだけど子供はそれに気が付かない。趣味とか生きがいを他に持ってくれればいいんだけどね」
「次に飛びまして社会人になってからです」
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