第39話 (11/7) 二匹の蝶は結ばれるだろうか
三日目、キュランダ高原鉄道で熱帯雨林へ。
到着した山奥の町にはいろいろなお店が沢山並んでいて、大勢の観光客がのんびりと両側の道を行き交っている。
「さくら、色んな店があるよ。どこか入る?」
「うん! そこの手前のお店のところ映して。店頭に飾ってあるやつが見たい」
その日で中継はもう7,8回目となり、ベッドの周りに人が集まることも無くなった。まるで二人だけで一緒に旅行しているかのよう。手を繋いで異国の街の散歩を楽しんでいる。
帰路はスカイレールで熱帯雨林の合間を縫って空の旅。森林の上を海沿いの町まで空中散歩を楽しむ。
翔真はさくらと雑談をしながら、うっそうとした樹林を上から撮影していた。ふと見ると夕暮れの美しい樹林の中で、小さな青いひらひらしたものが見える。カメラをズームしてみる。
「蝶だ! モルフォだ! さくら見える?」
拡大された映像の中で、青くきれいに光るモルフォ蝶が2匹ひらひらと飛んでいるのがよく見えた」
「見えた―。すごくきれいな色。翔真、私達ラッキーだね」
「本当にラッキーだ。普通は見れないと思う」
ロープウエーは速度が速いので間もなく蝶は見えなくなった。夕焼けが空を染めていた。
「さくら、今度はリアルで一緒に来よう」
「うん、そうだね。いつか絶対行く」
少し間をおいて翔真は言った。
「さくら?」
「何?」
「治療頑張ってよ!」
「うん、頑張るよ。絶対、旅行に行けるようになる!」
スカイレールは樹林を抜けて高度を下げ街が徐々に大きく見えてきた。
少し間をおいてから翔真は言った
「あのさ、四月から大学行くと、さくらとあまり会えなくなると思うんだ」
「そうだね。翔真の大学遠いもんね」
「大学生活何年か送った後、お互い就職してからの事なんだけど」
「え、ずいぶん先の話ね」
「お互い、どこに住んでいるかわからないけど、もしお互いにつきあっている人がいなかったらさ」
「……」
「結婚前提につきあってくれない?」
「結婚前提? 翔真と?」
「お願いします」
さくらはしばらく考えてから言った。
「うーん。そういうのはまだ早いと思うけど……いいよ、翔真なら。ただし、その頃お互いがそういう状況だったらの話ね!」
ベッドの上でさくらは翔真の言葉を噛みしめた。
―― 翔真か。年下だし弟みたいなものだからなあ。でも今回の旅行は見直したよ。恰好良かった。一緒にいても楽しいし気を全く使わなくて済むよね。はは、すでに結婚しているみたいなものかも。
スカイレールは駅に到着し撮影は終わった。
◇ ◇ ◇
その後、さくらは治療のつらさに四苦八苦した。
むろんオーディションの件も辞退となってしまった。
しかし治療は順調に進み、無事に骨髄移植が終わると、後は回復に努めるだけだった。何か月も掛かったがやがて体調はある程度回復し、さくらは大学に復学した。
1回目の人生とは異なり、さくらの幸せな未来が見え始めている。
一方の翔真は遠地の大学に旅立ち、四月から新たな学生生活を開始した。大学生になっても勉強と体力づくりは欠かさずに続けた。
元々好きであった地質関係に関しては、特に集中して知識を付け、四年生になるとレベルが比較的高い地質関係の研究室に在籍し、優秀な教授の元、色々な経験を積んでいった。
翔真の人生もまた、一回目には無かった景色に彩られていった。
※第4章終わり。第5章に続きます。
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