第37話 (11/2+) さくらの為に……

 さくらは入院前に翔真に病気のことを伝えていた。しかし、今回その病気がすぐに治るものではないことが分かって再び電話で伝えることにした。


「翔真、話があるんだけど――」

「ああ。たいへんなことになったね」


「……うん。 その事なんだけど、治療が始まったんだ」

「治療……どう?」


「薬の副作用とかで、すごく気持ちが悪いんだけど、なんとか」

「かえでは来てくれてるの?」

「もちろん。お母さんもほぼ毎日来てくれてるし……」


 さくらの言葉は途切れがちである。無理もない。


「翔真、もうわかると思うけど旅行は無理になった。キャンセルするね」

「それはいいけど、治るんだよね?」


「先生が言うには、少し時間がかかるけど、骨髄移植をすればおそらく良くなるだろうって」

「そう…… それは良かった。あの、俺に何かできることがあるかな?」


「ううん、いいよ。翔真もいろいろ忙しいでしょう。ラインとか電話だけお願い」

「わかった。でも何かできないか考えてみるよ」  


「……ごめんなさい」

「なんでさくらが謝るんだよ」


「だって……せっかく」

「治るんだろ、大丈夫だって! 元気出しなよ」


「うん、そうだね。ありがとう。また連絡するね」


 翔真は考えた。何かできないか。

 さくらはオーストラリアの旅行に行きたかった。その代わりになるもの。


 天界でも話をしていた。


「私達の時はトレッキングに行ったんだよね。でも今回は治療が進みそうだし、そもそも一時退院できる状態じゃないよね。」


 サラが言う。


「まあ、しばらく病院からは出られそうもないね」


 ショウも続く。見習いが言った。


「そうです。旅行自体は当然できません。でもサラさん、同等の経験はさせることができるかもしれません」

「同等のってどういう意味?」


「そこはショウさんに考えてほしいのですが、ITを使うことを考えてください」

「IT? パソコンとか?」


 ショウはそれから一日中考えた。天界で再構成された世界にもパソコンがあり、ショウはモニターと睨めっこをして、ああでもないこうでもないと検索を繰り返した。


 やがて旅行に関するユーチューブを見ていて閃いた。


「あ、そうか。例えばバーチャル旅行とか?」


 そしてサラと見習いに相談してみた。すると、


「あ、それいい。何か見たことある。自宅にいながら旅行の雰囲気が味わえるやつ」


「これなら病室でもできるし、VRゴーグルをつければ、なお旅行気分が味わえるよ」


「でも既存の録画では今一つじゃないかな。他人の観光動画を見ているだけだと気分はあがらないよね、リアルタイムじゃないし。もう一工夫かな、ショウ」


「そうだよなあ、ということは」


 ショウは少し考えて言った。


「翔真が実際に行って動画をリアルタイムで送ることはできるかな」

「それができるならいいかも。翔真一人だけど大丈夫?」とサラ。

「リアルタイムならそうするしかない。ちょうどオーストラリアなら時差もあまり無いし」


 ショウは確信した。これはいける。見習いも太鼓判を押した。


「ショウさん、サラさん、いいアイデアだと思います。うまく出来そうですよ」

「よし、フェリン、翔真に伝えてくれる?」


 ――翔真は自分が考えたような感覚がないまま、誰かにインプットされたかのようにバーチャル旅行プランを練り上げた。


 翔真はそのプランをさくら達に伝えたのだった。

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