第33話 (10/26) タレントオーディション

 それからの一年間、翔真は受験勉強と朝晩のランニング、筋トレ、それとストレッチを日課として根気よく続けた。

 さくらやかえで達ともたまに会って無事平穏な一年を過ごした。


 一方のさくらは二十歳になると、応募したオーディションの数は両手で数えるほどに増えてきたが、一向に受かる様子は無かった。


 天界では、日々さくらに対するサポートが続けられていた。サラは自分の事なのにも関わらず、なぜかショウにぼやく。


「ショウ、さくらのオーディションはどれもだめじゃん。相変わらずあがり症だし、踊りとか下手だし」


「サラ、自分の事をそんな風に言うなよ。見た目だけはいいじゃないか」

「見た目だけ? 人に言われるとむかつく」


「褒めているんだよ、ルックスを」

「中身だっていいでしょ!」


 見習いが制止した。


「はい。その辺にしてください。そんなことよりも、具体的にこれからのオーディション対策はどうするんですか?」


「見習いさん、サラ。任せてください。調べてきました」


 ショウは待っていましたとばかりに、提案を説明しだした。


「えーいろいろ調べましたところ、一月にこういうオーディションがあります」


 ショウが取り出した紙には、ある番組のために女子大生を募集するオーディションの内容が書かれていた。サラと見習いが覗き見る。


「これはさくらにぴったりです。なぜなら歌も演技も踊りも必要ありませんから!」


 サラがショウを睨みつけるが、ショウは構わず続ける。


「現地でレポートをするという番組内容なので、そこそこの物覚えや機転の良さ、レポーターとしてのスキルがあれば十分です。その辺はさくらは問題無いでしょう」


 いちいち気に障るショウの言い方にサラはまだ少しムッとしているが、提案自体は悪くなさそうだ。サラはオーディションの内容を詳しく見ている。


「もしかして海外に行けるの?」

「そう。海外レポートの番組です」

「いいじゃないですか。たぶん楽しい良い経験になりますよ。このオーディションは、いい線いくと思います」


 見習いも賛成した。


「どうかなあ。でもトライして損は無いわね」

「はい。どうでしょうか?」


 ショウはどや顔で言った。


「まあ、いいわ。やりましょうか。でも合格するようにこれから猛練習よ」

「練習?」

「いえ、ごめんなさい。練習じゃなくて徹底的に準備よ」

「イエッサー」


 まずフェリン経由でさくらにそのオーディションに応募させると、サラとショウは合格するために必要なスキルを徹底的に分析し、さくらにインプットしていった。


 しばらくして、地上ではかえでがさくらに訊いていた。


「さくら、あんたさ、いろいろなオーディションを受けているけど、結局何をやりたいの?」

「何って、モデルとか役者とかミュージカルとか……」


「定まってないねえ。まあ見た目と歌はまあまあだと思うんだけど演技がね…… そう言えば大学の演劇部の調子はどうなの? 演技自体はうまくやれているの?」


「うーん、普通。可もなく、不可もなく。台詞ははきはきしていていいって言われるんだけど、演技は少しぎこちない……」


「歌は?」

「歌はだめ。舞台だと恥ずかしくなって下手になる。みんなで合唱は大丈夫」


「歌もだめなんだ。今二年生でしょ。大学出たらどうするつもり?」


「まだ考えていないけど、タレントじゃなくていいから、テレビ局とか芸能界関係の仕事につけるといいな」


「やっぱり定まっていないねえ。そろそろもう少し現実的な就職を考えておいたら?」


「テレビ局は結構現実的だと思うけど……そうねえ」


 少し考えてから言った。


「やっぱり、できることならアナウンサーとかやりたい」

「はいはい。で、今後もオーディションとか受ける予定あるの?」


「ある。いいのを見つけたの。今度ネット放送の番組で大学生のメンバーで海外に突撃旅行するようなのがあって、一月にオーディションが行われるの。総合力が試されるんだって。おもしろそうじゃない」


「……」


 かえでは特にコメントをしなかった。さくらは続けて、


「アナウンサーでも現地レポートとかあるでしょ。その予行練習みたいなものだし、これなら合格できるかも。歌とか演技とか無いからね。ははは」


「さくらは軽いわねえ。そんなに簡単じゃないわよ」


 かえではまるで母親のように言った。

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