第22話 (10/1) マスター(おじ)と見習い(美人)
サラ(さくら)とショウ(翔真)に向かって、見習い?の美人女性がペコリと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
マスターがサラ達に説明を続ける。
「これまでたいへんでしたね。お疲れ様でした。お二人にはこれからの事を、この子から色々ご説明させていただきます」
「はい。私達もいろいろ知りたかったところです」
サラは答えた。
マスターはいくつかの短い話を加えてから左腕をぐるぐる回した。
「さて、早いですが私はそろそろ引き揚げます。今日は他に二十名ほど対応しないといけませんので、あとは彼女にまかせます。もしわからないことがあれば、彼女に何でも聞いてください」
マスターは最後にそう言った後、あー肩が痛いな、と呟きながら、どこかに消えて行った。
マスターを見送った後、女性はサラ達の方に向き直して言い始めた。
「さて、まずあなた達の事を説明させてください。すでにお察しだと思いますが、あなた達はお亡くなりになりました」
女性の言葉にショウとサラが顔を見合わせる。
「あなた達はお亡くなりになりました、だってさ」
「すごい言われ方ね」
「お前はもう死んでいる、みたいな感じだな」
ショウが茶化すと女性がツンとすました表情で遮る。
「コホン。口を挟まないでいただけますか? お二人は今天界に霊魂としていらっしゃいます。地上で生きておられた時と同じ精神を有していますが、霊魂として存在するもう一人の自分なのです。地上のさくらさんが天界にいらっしゃってサラさんになります。翔真さんはショウさんです」
「地上が「さくら」で天界の私が「サラ」なのね」
「わかりにくいね」
「慣れてくださいショウさん。では話を始める前に、天界側の環境を再構成します」
「え、何?」
女性は、持っていたタブレットのようなものを操作した。すると殺風景だった天界の平原が、地上そっくりの風景に一変した。
「最近の天界では、お亡くなりになられた方々に、慣れ親しんだ環境をオンデマンドでご提供するようにしています。気分がリラックスして過ごしやすいでしょう?」
「どうかな? 南の国とかの方がいいかも」
ショウのコメントは無視される。
「私は昔あなたたちと同じような存在でした。天に召された人の霊魂ですね。ただ、ちょっとした成り行きで守護霊の見習いとしてスカウトされました」
「スカウト? どういうこと?」
女性は詳しく説明しだした。
「人間は亡くなりますと霊魂として天界に来ます。天界並びに霊魂の大きな役割の一つに、生きている人間を守る役割があります。これは親が子供を守るのと同じことで、子孫を守ることで種の存続をサポートするという非常に重要な役目なのです」
守護霊というやつか?…… ショウはそう解釈した。
女性は、特に自分の家族や子孫は重点的に守ってやらねばなりません、と説明し、さらに続けた。
「人間には得意、不得意があるように、霊魂にも生きている人間を守る適性がある霊魂と、そうでない霊魂があるんです。適性が高い霊魂は選ばれて、特別な守護霊となるべく育成されます」
なるほど、自分達には適性があると判断されたのね?…… サラも理解した。
「その特別な守護霊のことをマスターと呼びます」
優秀な人が選抜されて修行を経てマスターに認定される。マスターになるまでに複数の霊魂が合体することもある。
「マスターになった者は、今度は新入りを育成する責務があります。そうやって守護霊を増やしていくのです」
世の中には多数のマスターがいるが、亡くなる人はさらに桁違いに多いのでマスターは見習いをスカウトしては自分の代わりに直接の指導をしてもらう。
「私はマスター候補としてスカウトされました。でもまだ修行中の見習いです」
「そうですか。見習いですか」
ショウが無表情になり彼女の全身を見て言った。見習いか…… 少し外れを引いた気分。
「はい。申し訳ありませんが、ただの見習いです」
女性はショウの表情を見て、わずかに語気を強めた。
「私は複数の日本人の霊魂から成っています。統一した名前を考え中なので今は見習いと呼んでいただいて結構ですよ。本当はマスター以外にはそう呼ばれたくありませんが」
サラが口を開いた。
「それで、見習いさん。これから私たちはどうやって地上の人達を守ればいいんでしょうか? 誰を守るのですか? 家族ですか?」
見習いの女性は言った。
「ショウさん、サラさん、選ばれた霊魂は誰もが最初に守らなければならない対象が決まっています。それぞれ一番大切な人を最初に守ってもらうんです」
サラとショウは顔を見合わせた。
「一番大切な人?」
「違います。目の前の方ではありません。ご家族を除けば二番目に大切
なのかもしれませんが」
見習いはくすりと笑って二人を諭した。
「生前のご自身を守っていただきます」
その言葉にショウは驚いた。
「生前の、自分ですか? 守る対象がさくらとか、まだいないけど僕の子孫とかなら何となくわかりますが、生前というのがわからないし、自分を守るというのもよくわかりません」
サラも同調する。
「そうよ。自分達の人生は終わったんですよ。まさか時間を遡るの?」
見習いは慣れている質問という感じで説明を始めた。
「はいそうですよ。時間を遡ります」
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