第三章 私は私の守護霊?
第21話 (9/28) 幻想の天界、出会い
ふと気が付くと、さくらはもやの中にいた。
いた、というよりは意識だけが空中に
自分の体は見えないし周りも何も見えない。
(ここは、どこだろう?)
しばらくすると自分の手や体、足らしきものがぼんやりと輪郭を表してきた。
もやは霧降のように上から下に流れているようだ。
ふと思い出した。
(ああそうだ。私は死んだんだ。火砕流に巻き込まれた……)
そして、時間が経つにつれて周りがぼんやり見えてきた。
よく見回すと離れたところに人らしき姿が数体見える。
その周辺のもやも下の方に動いている。人はわずかに体を揺らしているくらいで動きが緩慢である。
その中に見覚えのある顔を見つけた。翔真だ!
彼もうたた寝をしているような感じで、目を瞑って漂っていた。
さくらは気がついた。もやが下に流れているのではない。自分達が空中を上昇しているんだ。私の体も翔真の体も天に向かって昇っている!
翔真に声をかけてみた。
自分の声がいつもと違う事に気がついた。反響する感じで違和感がある。
翔真はゆっくり目を開けてこちらに焦点を合わせてきた。周りを見回して少しずつ状況を理解し始めた。
「さくら? ここは? どうなっているんだ?」
「翔真、覚えている? 私たち、たぶん死んだんだよ」
そう言われて翔真は思い出した。二人とも死んだはずだ。死ぬ瞬間はさくらと一緒だった。
二人は空中を泳ぐように近づき、互いの腕を掴んだ。
「そうだ。最初に山を下るように指示した判断が間違っていた。それに最後は斜面を登りきれなかったんだ…… 俺の
「私の方こそ。翔真が知っていたかどうか分からないけど、私、どうせ半年もすればがんで死んでいたんだから。それより翔真の方が、私を助けるために早死にになってしまってごめんね」
「俺がもう少し体を鍛えていれば、二人とも助かったのになあ」
そんな話を少し続けてから、二人は話題を変えた。
「ねえ、これからどうなるんだろう? 死んだら本当に天に昇って行くんだね」
やがて雲の上なのか、どこなのかわからないが、天空の広い平地に着いた。
そこは歩くことができた。
二人は未知の天空の世界をいろいろ探索し始めた。
移動はできる。会話もできる。
でもどこに何があるかはわからない。
人(おそらく皆亡くなった人)は大勢見えるが、何をしているのかはわからない。
何人かを捕まえて聞いてみたが、二人とあまり変わらず、この世界を理解しているものはいなかった。
体はあるが感覚があまりない。歩けるのに体重を感じない。
時間の概念があるのかないのか、昼とか夜とかもわからない。
そのような次元が無い世界なのかもしれない。
二人はここを仮に天界と呼ぶことにした。(それは正しかった)
二人は時間をかけて色々観察し、天界を把握することに努めた。
そうこうしている内に、ついに見知らぬ二人が話しかけてきた。
「こんにちは。サラさん、ショウさん」
他の人達と違って、二人は空中に浮かんでいた。自分らも浮かんでいるようなものだが、その二人だけは明確に天界の地から浮いているようだった。
一人は中年の男性で、白い服を着て杖を持っている。ここにいる人達は皆、服は着ているようなのだが輪郭や模様が曖昧なのに対して、この中年の男性は明らかに白っぽい衣と認められるものをまとっていた。
もう一人は少し小柄な女性のようだ。服装はやはり同じような白い衣で、片手にタブレット端末のようなものを抱えている。
翔真はまだ視覚が完全ではないが、よく見ると相当の美人だ。さくらもかなりの美人だが、それを超えているかもしれない。しかし状況が状況であり感動も期待も特に無い。
さくらが言った。
「サラって私の事? あなたは随分おきれいですが天使ですか?」
女性が答えた。
「天使? 違いますが、そう呼ばれることもあります」
次に杖を持った男性の方が口を開いた。
「初めまして、私のことはマスターと呼んでください。さくらさん、あなたはこちらではサラと名乗ってくださいね。地上とは区別する必要がありますので」
「マスター?」
さくらが訊くと男性はにこりと笑って頷いた。
「それから翔真さん、あなたはショウでお願いします」
「ショウ、ですか」
翔真は少し不満だ。
さくら、いやサラはマスターと名乗るこの杖のおじさんがどこかで見たような人だと思った。そのマスターが女性を紹介する。
「こちらは私の助手のようなものです。あなた達の担当になりますのでよろしくお願いしますね」
美人の女性がサラとショウにペコリと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
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