第18話 (9/21) 噴火

「かえで、あれ見て。もしかしてあれが噴火じゃない?」


 くるみが指指した方角を見ると、はるか遠くに狼煙(のろし)のような白く細い噴煙が3つほど見えてきた。かえでは顔が青ざめて携帯に叫んだ。


「翔真、翔真! もう噴火してるんじゃない? 遠くに煙が見えるよ」

「え、ばかな。噴火音も何もしていないよ。ちょっと待って――」


 翔真はバイクの傍から離れ十メートルほど走って遠くが見えるところに移動した。


 すると、距離にして五キロメートル位離れた山域から小規模の噴煙が上がっているのが見えた。翔真はまだ近くで車に乗る準備をしていた職員に叫んだ。


「みんな、噴火が始まっている! それも東側に三か所だ」


 周りの連中もほぼ同時にその噴煙に気が付いて騒ぎ始めた。


「もう噴火が始まっている。あんな場所、想定外だ!」

「誰か連絡を! 思ったより時間が無いぞ、急いで逃げよう。西方向に逃げた方がいいかも」


 翔真はそんな掛け声を聞きながら、かえでに伝えた。


「本当だ。こっちからも見える。そんなに大きい噴火じゃないけど、急いで避難しよう。とにかくまずは駐車場まで下りて。慌てないでね。その近くで噴火することは無いと思うから安心して。僕が到着する前にもう一度電話する」


「わかった。翔真も気を付けて来てね」


 電話を切るとかえで達はそそくさと荷物を詰め込んで下山を始めた。


 翔真はヘルメットをかぶり、グローブをつけてバイクのエンジンをかけた。


 十分後、翔真が全速力でバイクを走らせていた途中、ありえないことが起こった。


 ダーン、バリバリバリ


 今まで聞いたことがない、ものすごい大音響がした。そして同時に翔真のバイクは五十センチメートルほど跳ね上がった。


 翔真は慌てて転ばないで着地するようにハンドルを強く握りしめた。バイクは無事着地し走行を続けようとしたが、そこにさらに後ろから空気の衝撃波が背中を押し付けた。


 翔真は転ばないようにバイクをコントロールするのがやっとだった。


「なんだなんだ! この爆音と衝撃。道路が跳ね上がったぞ」


 翔真はゆっくりブレーキをかけて路肩にバイクを止めた。そして恐る恐る後ろを振り向くと、巨大なきのこ雲のような噴煙が山岳地帯で一番高い主峰から上昇しているところだった。


 ―噴火だ。だけど今の音は尋常じゃないぞ。鼓膜が破けるかと思った。これはまじでやばいやつだ。ここから早く逃げなきゃ。稲妻のような音が断続的に聞こえる。


 ヘルメットをかぶりなおそうと山から目をそらそうとしたとき、ふと山にある赤い線が目に留まった。


「なんだありゃ」


 よく目を凝らしたあと、翔真は飛び上がった。


 噴火したあたりの下の方の裾野に南北に細長い赤いものが幾筋も見える。悪魔の爪に引っかかれて血があふれ出すようだ。地割れから出たマグマだろうがあんなの見たことが無い。そうしている間にも噴煙は巨大化していった。


 翔真は声が出なくなった。頭だけがフル回転している。


 最悪だ。あんなに地表の広範囲にマグマが顔を出すことがあるのか? それからあの大噴火。山体崩壊か? 火砕流? まさか破局噴火? 


 翔真は何とか気を取り直してヘルメットを着け再びバイクを走らせた。


 一方さくら達は一キロメートルほど下ったところでさくらが息を切らせていたので小休止しをしていた。そこにドーンという爆発音が聞こえた。


「キャー」


 三人が叫んで耳をふさぐ。

 かえでが言う。


「びっくりしたあ。何、今の音?」


 さくらはぜいぜい言いながら耳をふさいでしゃがんでいる。


「わかんない。怖いー」


 くるみはかえでの背中で泣き出した。

 かえでは考えた。たぶん噴火の音だ。翔真は本格的な噴火はお昼頃って言っていたが早すぎる。


「ちょっと、さくら。急ごうよ。噴火かもしれないよ」

「えー、もう噴火したの? 信じられない! なんで今日の今日なの?」


 かえでは両親に電話すると、両親は既にロープウエーで麓の駐車場まで降りてきており、かえで達を待っていた。かえでは道が渋滞するだろうから先に車を出して北に向かう様に伝えた。


 二人はまた歩き始めた。さくらは体が弱っているので、下を向いて小さな歩幅で歩いている。


 少ししてまた山岳地帯の方を見ると、桁外れに大きい噴煙が遠くに見えた。

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