第15話 (9/14) 群発地震
かえでの連絡から二日たった十月二十七日、翔真は仕事仲間とともに現地入りした。
いつもは車に同乗して行くのだが、今回は細い山道を使う可能性もあるので、翔真は他のメンバーと別にオフロードバイクで行くことにした。
十月三十日、群発地震の回数は相変わらず増加傾向にあり、地磁気の影響なのか朝夕の雲の色も赤紫の変な色に染まってきた。
さすがに県も震源近くの山への立ち入りを制限し始め、山裾の住人の中には自主避難をする人も出てきた。
同日の夜、調査チーム及び気象庁は、ついに中規模の噴火の可能性を示唆した。しかし、それが明日なのか、それとも一か月後なのかは誰にも予想できなかった。
十一月一日、一転、地震回数は減ってきて、その規模も小さくなってきた。しかし体に感じないような揺れが続く時間はむしろ長くなってきた。
しかも、あちこちの山体は膨らんだまま収まる様子がない。翔真はすごく嫌な予感がしてきた。
観測隊の中心メンバーは、観測ベースを今の山裾から十キロメートルほど山から離れた道の駅のあたりまで移動することを話し合っていた。噴火の可能性を心配して念のため拠点を震源から離そうとしているのだ。
一般登山者の立ち入り禁止エリアはさらに広がり、やがて麓住民には避難命令が出された。
なかなか噴火の直接の兆しが見えない山に対して、一部の報道や観光業界からは、大騒ぎしすぎではないのか、という意見も出始めた。混乱が増幅している。
さくら達は離れているとは言っても、連日のニュースを見て不安になり、どうすべきか勘案していた。今回あきらめれば、たぶん次に訪れる機会は来年の春以降になるため悩ましい。
さくらはかえでと話した。
「さくら、なんか噴火しそうだとかニュースで言っているけど、トレッキングどうする? 噴火しても、さすがにこの辺まで被害は及ばないだろうけど、念のため別の機会にする?」
「うーん、本来なら来年の春まで延期した方がいいんだろうけど、 それは私にとって遅すぎるかな。体がもっと弱って外出すらできなくなったら、絶対後悔するわ」
「高原でなく、近くの映画館やショッピングモールに変更する手もあるだろうけど、噴火の影響っていうかリスクは同じだもんね」
「うん、それなら一番行きたいところに行きたいかな」
結局、予定通り高原へのトレッキングを行うことにした。
十一月三日、地震は相変わらず続いていたが、他に変化は特に見られず、マスコミも住民も長引く変化の無い状況に慣れ始めていた。
しかし調査方法に工夫を重ね、より綿密な調査を続行していた翔真を含む調査団は訳のわからない変化に戸惑い、より不安を増幅させていた。
最も混乱したのは一度かなり膨らんだ複数の山体が、ある時点から今度は急激に縮み始めて、ついには定常時よりも低くなってしまったことだった。地底のマグマは一体どのような状態になっているのか?
微動地震はいよいよ継続的に長く続くようになってきた。
専門家たちはいろいろな仮説をたてては周辺の調査、観測を繰り返し、今後この一帯はどうなるのか探ろうと必死だった。
調査状況や生データを真近で見ていた翔真は、直観ではあるがどう考えてもこのまま収まるような気がせず、まさかとは思うが遥かな過去で起きたような大噴火が起きてもおかしくないと考えるようになってきた。
そうなると今の避難地域よりもかなり広い範囲に火砕流や土石流、噴石や火山灰の影響が出る可能性がある。特に一番怖い火砕流が大規模に起きたら、今いる調査基地はひとたまりもない。
沢沿いに高速の火砕流が流れたら、標高の高い場所よりも標高の低い市街地の方が危ないかもしれない。
翔真はかえでに連絡を取り、当日のルートや予定時間を聞き取り、万が一の時の待ち合わせ場所や注意事項を伝えて、一方でさくらにはそれらを気にせず楽しむように伝えてくれと話した。
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