第7話 (9/1) 出産
姉のかえではまだ結婚はしていないが、すでに結婚を決めている男性がいた。高校の時から付き合っている彼氏である。アウトドアと音楽が好きで姉と趣味が合う。
さくら達と違って二人はすでに長く付き合っているのでお互いの性格から悪癖まで全てを知っている。それでも結婚は慎重にと、さらに一年以上先に籍を入れる計画を立てていた。
さくらが夫婦の状況を詳細に伝えると、かえでは言った。
「卓也さんは、やっぱりあまり良くない人だね。仕事熱心なのはいいけれど、少し極端に言えば、あなたのことを都合のいい家政婦みたいにしか考えていないんじゃない? 旅行とか買いものとか一緒に行っていないの?」
さくらは答える。
「うーん。結婚したてのころは一緒に買い物に行ったこともあったけど、最近は週末は会社の人との付き合いとかでゴルフに出かけるとか、疲れたといって家でごろごろしているかばかりだね」
「さくら、それでいいの? なんか言ってやった?」
「いろいろ話はしたけど、彼、家のこととか私との外出は面倒みたい。結婚前はすごいマメだったのにね。こんな人だとは思わなかった」
「まあ、女の人でもありがちだけど結婚前は気合を入れて付き合ってくれるのに、結婚したとたん相手を構わなくなる人っているよね。でも卓也さんは極端すぎるかな。結婚前の行為はある意味、得意な営業活動だったのかもね。結婚という契約を取るための……」
さくらは正にそのとおりだと思った。彼にとっての結婚は自分の身の回りの世話をしてくれる人が欲しかっただけなのかもしれない。
「その通りだわ。失敗したかもしれない」
さくらはうなだれた。
そんなさくらを見て、かえでは少し興奮してきた。
「もう許せないね。私なら最初から男たるものパートナーとどうつきあうべきか、みっちり教育してやったんだけどね」
さくらは卓也との関係をどうするか真剣に考えなければいけない時期に来たと思い始めていた。まだ結婚から半年足らずしか経っていないというのに。
それから数週間が過ぎ、やはり何度かの夫婦間の言い争いを経てさくらは決心を固めていった。とてもやっていけそうにない。彼とは別れよう。さくらは言い出すタイミングを推し量った。
しかし程なくして事件が起こった。事件というのは適切でないかもしれない。
さくらが思わぬ妊娠をしてしまったのだ。
卓也とは、いざこざが増えてからは夜一緒に過ごすことは、ほとんどなかっただけにショックだった。たまに卓也が飲み会などで酔って帰ってきた夜に嫌々そのようなことをされることはあったが避妊はしていたはず。まさかこのタイミングで、できてしまうとは。
これで離婚を切り出すのは難しくなってしまった。
それにしても卓也はさくらが妊娠したのにも関わらず相変わらずの態度が続き、さくらは体調を整えるのが難しくなった。本来なら幸せな時間を過ごすところが、夫のせいで心身ともにつらい数か月を過ごした。
さくらは早めに産休に入り、卓也を置いて半ば強引に実家に帰った。
しばらくして、さくらは無事に出産を迎えた。
産まれた女の子には「くるみ」と名付けた。
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