第6話 (8/31) さくらの過去 (3) 

 ベッドの上のさくら。結婚までのいきさつを思い出したところで、外を見ながらつぶやいた。


「結婚までは、ばたばただったな。もう少しよく考えれば良かった……」


 通勤時間が過ぎると通りを行き交う人も減ってきた。ふとベビーカーに赤ちゃんを乗せて散歩する母親が目に留まった。母親は時々わが子を覗いては微笑みを浮かべ、さわやかな朝を親子で満喫しているように見えた。


 私もよくああして散歩したなあ。結婚後は娘の育児だけが生きがいだった……


 結婚後しばらくすると卓也は仕事が忙しいせいか、さくらに対する態度を徐々に変化させていった。結婚前はとてもマメで、あちこちデートや外出に連れて行ってくれた卓也が、結婚後は一転して一緒に出掛けることが減り、やがて無くなった。


 さらに気が付けば、いつの間にか家事は全部さくらが行っていた。さくらは扱う分量が二人分になっただけで元々独身の時にやっていたことと変わりはないんだと自分に言い聞かせて、開き直ってやっていた。新妻という立場がモチベーションとなって我慢していた節もある。


 そのうち卓也は、当然というかの様に上から目線でさくらにこぼし始めた。「ごはんはまだ?」とか「ワイシャツは?」などと軽く言うようになってきたのだ。さくらもさすがにこれはおかしい、という気が強くなっていった。卓也は家事は全て妻がやるものだと決めてかかっている。


 ある日のこと――


「最近掃除の頻度が減っていない? 埃が目立つんだけど」


 こう言われた時には、さすがにさくらは切れて訴えた。


「あなただって少しくらい掃除とかやってくれてもいいんじゃないの? 食事の支度から洗濯、掃除と最近は全部私がやっているじゃない」


 すると卓也は平気で言ってきた。


「俺の仕事はさくらのよりハードなんだよ。疲れて帰ってきているのに家事なんかやる余裕ないよ。毎日何時に帰ってきているか知っているだろう。家のことはさくらがやってよ」


 「私も遠距離通勤しているのよ、同じ状況でしょう。普通家事は夫婦で分担するものだと思うんですけど」


「そんなの初めから納得してくれた上で結婚したんだろう。俺の方が生活費を多く稼いでいるのだから文句言わないでくれよ。嫌なら仕事を辞めればいいって言ったじゃないか」


「なにそれ。専業主婦になれって言うの?」


「専業でもなんでもいいよ。とにかく家事はお前にやって欲しいんだ。お願い」


 さくらは全然納得がいかなかった。二人はそれからも度々同じような夫婦喧嘩を繰り返し月日は無情に過ぎた。


 秋のある日、さくらは姉のかえでにこのことを相談しに行った。これまでも電話などで幾度となく話はしていたが、いよいよ状況が深刻になってきたのでじっくり話を聞いてもらうことにしたのである。

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