第4話 (8/29) さくらの過去 (1)
さくらは都会から少し離れた町で、八神家の次女として生まれた。姉のかえでとは四つ違いであり、姉妹二人で近所の子や学校の友達と仲良く遊んで少女時代を過ごした。
姉がぐいぐい引っ張って行くリーダータイプなのに対して、彼女はいつも姉にくっついて育ったせいか、やや控えめで従順なタイプだった。
しかし言われたことは真面目にこなすし、文句を言うことは滅多になかったので家族や友達の受けは良かった。また姉と同様、人と話す時は、はきはきとしていて基本的には明るい性格であった。
当時、近所には同世代の子供が多く、さくらは色々な出来事が有った事を覚えている。
――あれは小学校四年生くらいだったか、大勢の友達と近くの公園で遊んでいる時、なぜか私は男の子数人に虐められていた。
私はその場に立ち尽くし泣いていたが、他の友達は虐められる側になるのが怖くて、泣いている私を傍観しているだけだった。
すると近所に住む一歳年下の男の子が、いじめっ子達に気づかれないように、そっと靴を取りに行ってくれた。
今朝の夢に出てきた
「おいお前、何やっているんだよ。勝手に靴を持って来るな!」
そう言いながら近づいて来る陽人に対して、翔真は何も言わずに胸のところで靴を両手で抱きしめ、陽人を睨みつけて体を固めた。
陽人は翔真の前に仁王立ちして翔真を睨み返した後、右手で翔真を突き飛ばした。
「生意気なんだよ、お前」
そして、転んでいる翔真の姿を見下ろした後、友達とその場を去って行った。
私はまだ泣き顔のまま、起き上がろうとする翔真のところに駆け寄っていった。
「
翔真は体に付いた土を片手で払いながら言った。
「大丈夫、はい靴! あいつら許せないよね」
もう一方の手で私の靴を渡してくれた。
「翔真、ありがとう」
私がお礼を言うと、彼は照れ臭そうな顔をして、そそくさと自宅の方に走って行った。その様子をしばらく見守っていると、翔真が走りながら嬉しそうに飛び跳ねていくのが見えた。
私はクスっと笑って見送った。
「いいやつだ」
涙はどこかへ行ってしまった。
◇ ◇ ◇
かえでとさくらの姉妹はすくすくと育ち、中学、高校と順調に過ごした。
やがてさくらは大学を卒業すると都会の会社に就職した。
地元の友達とは就職してからも、たまに集まっては飲んだり遊んだりしていた。姉御肌のかえでは、時々その昔からの友達を集めては、飲み会やら何やらを開いてくれては場を仕切って盛り上げてくれた。
かえで自身も長い付き合いの少し恰好いい彼氏をちょくちょく連れてきては仲がいいところを見せていた。
集まるメンバーの中には翔真もいたが、子供の頃とは少し変わって、やや不愛想な感じになっていた。
しかし、その割にはかえでが開く飲み会には大体参加してくるし、何かあると幼馴染姉妹にだけは話しかけてくるのであった。さくらにとって弟のように感じている翔真だから、彼が自分の近くにいるのは普通の事だと感じていた。
さくらの恋愛傾向は姉に少し似ており、面食いで、どちらかというと活発で積極的な男子を選ぶケースが多かった。
ただし姉と違ってあまり長続きはせず、男の選球眼があまり良くないことは自覚していた。
さくらは男の方から言い寄られて、断れずによく考えずに付き合ってしまうケースが多かった。しばらく付き合ってから性格が合わないことに気が付いては別れるパターンを繰り返した。
さくらは、もう少し相手をよく見てから付き合わなくちゃ、とよく嘆いたものだった。そんなことが数年繰り返された後、さくらの人生は突然動いた。
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