第14話 ユーリの年齢
「ルカさんはいつからユーリのお友達なんですか?」
「そうだなぁ……ユーリがうんと小さいときかな?」
ルカが現れた翌日の朝。
書庫まで送ると申し出てくれたルカが、何とそのまま手伝いを買って出てくれた。
まだ二度、三度食事の席を共にしただけなので、ほとんど初対面といって良いと思うが、不思議と緊張はしない。ルカの持つ穏やかな雰囲気がそうさせるのかもしれなかった。
窓辺の椅子で作業するディアーナと、優雅な姿勢で書棚の前に立ち、本を捲るルカ。緑を含んだ柔らかな風が窓から入り込んで、ルカの銀糸の髪を弄ぶ。
「へぇ。でも、ユーリってまだ子供ですよね」
次の本に手を伸ばしながら、何の気なしにディアーナが言うと、ルカがはたと手を止め、目を瞬いてから、ディアーナを見た。
「子供?」
「はい。私、まだまだ子供ねって修道女さんたちに言われてるんですけど、ユーリも同じ感じだなって。ああ、変な意味じゃなくて。記憶がなくてちゃんとした歳はわからないんですけど、たぶん私、十五、六歳くらいだと思うんです。ユーリもほぼ私と同じくらいだと思うんですよね。あの、ユーリって——」
「ここだと、成人は十七?」
「ええと、確か女性は十七で、男性が十八です」
「ああ、だから十五、十六は子供ってことか」
「あの、ここだとってことは他の地域だと違うんですか?」
記憶のないディアーナはあまりに多くのことを知らない。
だから、神父様は懇切丁寧にありとあらゆることを教えてくれた。
その時、頭に入れた知識から、てっきり王国全土の成人年齢は同じだと思っていたのだが。
小首を傾げるディアーナに対して、ルカは顎に手を当て、眉をわずかに寄せると、宙の一点を見つめて考え込む。
「うーん……これは言ってもいいものか」
「え?」
「あ、いやあね。ここっていうのは人間世界でって意味だった」
「に、人間世界?」
思わぬ言葉に、声が裏返る。
「僕……いや、僕の知るかぎり、人間でない世界もあるわけで、そこでの成人だと……そんな変な顔しないで。僕がこの間まで滞在していたところが、たまたま人間の世界じゃあなくてね、そこでは成人は百くらいだからさ」
「百⁉」
百歳が成人ということは、その何倍、否、何十倍も生きるのでは⁉
途方もない数字に目を白黒させていると、ルカは困ったように笑う。
「君も、人間以外の種族がいることは知っているよね?」
「そ、それは……もちろんです」
あまり交流はないが、この世界には人間以外にも多種多様な種族が暮らしている。
だが、住む世界が違うからか、日常生活ではほとんど交わることはない。
仮に、世界全土を巻き込んだ世界大戦なるものが勃発すれば、あるいは彼らも姿を見せるかもしれないが。だが、それはずいぶんと危険な思考だ。
「まあ、そんな種族からすれば、君たちなんてまだまだ子供かもしれないね」
ルカはうんうんと満足げに頷き、軽く笑った。
成人が百歳だという長寿の種族であれば、人間なんて皆子供に見えるのではないだろうか。ディアーナやユーリと限らず、三十路にも満たないだろうルカだって例外ではない。
「はぁ……」
「さあさあ、日が暮れる前に一冊でも多く本を開こう」
まるで話を切り上げるように、ルカは手を打ち、そそくさと作業に戻ってしまった。何だかはぐらかされてしまった気がする。単純に、ユーリの年齢を知りたかったのだが。
疑問が解消しなかったので、何だか釈然としないが、もう会話をする気がないのか、ルカは書棚の影に隠れてしまった。そんなルカにわざわざ話しかけるも気が引ける。ディアーナは小さく息を吐くと、仕方なしに本を捲り始めた。
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