最終話 ヤンデレは永遠

 もしも、運命の赤い糸というものが現実にあったとして。


 俺は、寧子さんとそれで結ばれていたんじゃないか、と。


 ふと思ってしまう。


 それくらい俺たちの出会いは偶然で、しかし必然的なところもあって。


 正式に恋人になれた今、この関係をさらに深いものにして、ずっと、何なら一生、たとえ死んでしまったとしても、寧子さんを大切にしていきたいと思っている。


 どうしようもなく好きだから。


 彼女のことが。





 ……それで、朝。


 気絶した寧子さんをベッドに寝かせ、その隣、つまり一緒に寝ていた俺は、下半身の謎のくすぐったさで目を覚ました。


「……ん……?」


 頭がうまく働かない。


 横には寧子さんがいるから、布団が膨らむのはわかる。が、それにしても妙だった。


 下半身近くがこんもりと異常に大きくなっていて、布団の中にすっぽり潜ってる存在がいることに気付いた。


 「……寧子さん……?」


 被っていた布団の中を確認すると、そこにはやはり寧子さんがいて、


「あっ……♡ お、おはようございます……あーくん……♡」


 健全な男子特有の寝起き症状により、ご立派になっていたブツを、スウェットズボンの上から撫でてくれていた。


 恍惚とした目をしながら。


「……え……?」


「起こしてしまいましたか……すみません……♡ 昨晩は私のせいで初夜らしいことをできず、だったので……♡ せめてあーくんのモノを観察しておこうと思って……勝手に眺めていました……♡♡♡」


「え……あ……え、え……?」


「観察とは言っても、少し触ったりもして……♡ か、勝手にごめんなさい……♡ 『待て』のできない私をあーくんのこの凶棒でお仕置きして欲しいでしゅ……♡♡♡」


「あ……あっ……!」


「あっ……で、でも、私、初めてなので……最初はゆっくりして欲しいのですが……♡ あーくんのペットなのに行き過ぎたお願いですよね……♡ が、頑張りましゅ……あーくんの欲望を全部受け止められるように……♡♡♡」


「あっ、あっ、ァァァァァァァ!?!?」


 飛び起きた。


 回っていなかった頭がようやく状況を理解し、俺を突き動かす。


「ねねねねね、寧子さんっ!?!? 何やってんですかあなたはぁぁぁぁぁ!!!」


 布団の中からヒョコ、と顔を出し、熱っぽい表情でもじもじしながら、彼女は正直に答えてくれた。


「……あ……あーくんのお●ん●んを観察してました……♡♡♡」


 速攻で俺は、立ちに立ちまくってるブツを手で隠す。


 なんてことだ。


 恋人になった途端これだなんて。


「お、おお、女の子が気軽におち……と、とか言っちゃダメでしょ!? 目覚めからびっくりなんですが!? ほんと何やってるんだあなたはぁぁぁ!!!」


「……おち●ち●観察……です……♡♡♡」


「だからもうそれ言わなくていいんですって!!!」


 もじもじしながら、次第にニコニコ楽しそうにし始める寧子さん。


 俺は頭を抱える。


 寧子さんが完全に変態になってしまった。いや、元々変態なのは知ってたけど、想像を超えてきたというのが正しいか。


「ほんと……あなたって人は……なんかさらに進化しましたね……。完全に変態痴女じゃないですか……」


「はい……♡ あーくん専用の変態メスでしゅ……♡♡♡」


 自称するとは……。


 この子、本当にそれでいいのか……。


「私の身も心も、昨日の告白で完全にあーくんのものになってしまったんです……♡ これから先、何があろうと、死んでしまっても、魂だけになっても、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、私はあーくんの傍にい続けますからね……♡♡♡」


「っ……」


 目が完全にイっちゃってた。


 言うまでもないが、俺が寧子さんから離れられることは今後一切ないだろう。


 ……でも、それは望むところだった。


「……他の人なんて何もいらない……♡ あーくんだけを……私は……ふ、ふふっ……フフフフフフッ……♡♡♡」


「……そんなの、俺もですよ?」


「ふぇ……?」


「俺も、女の人は寧子さん以外いらないです」


「……!!!」


 俺が言った刹那、寧子さんは体をビクビクさせた。


 表情がさらにとろけ、呼吸をさらに荒くさせる。


 セリフだけで……なのかもしれない。


「こっちとしても、覚悟しておいて欲しいです」


「か……かきゅご……?」


 疑問符を浮かべる彼女に対し、俺は頷く。


 自然と笑みが溢れてしまった。


 これから先のことを考えたのと、寧子さんがあまりにも可愛過ぎて。


「絶対に離さないのは当然として……指一本他の男に触らせません……」


「ハァ……ハァ……♡ は、はい……さ、触られないよう頑張りましゅ……♡♡♡」


 健気だった。


 俺の呼吸も何か知らないが荒くなってくる。


 寧子さんが可愛過ぎて、ベッドに戻り、頭を撫でてしまう。


 それで、彼女はまた体をビクビクさせる。


 本当に、本当に本当に本当に、可愛くてたまらない。


 本物の監禁をしてあげたいくらいだ。


「もっと言えば、こんなに可愛いあなたを誰にも見られたくない……。俺だけが毎日見つめていたい……俺だけが……ずっと……俺だけが……」


「私もです……♡♡♡」


「……?」


「私も……あーくんを他の人に見られたくないです……! 私だけが……私だけがあーくんを独占したい……!!!」


 ……そうか。


「……ふふふっ。だったら……」


 俺は、これまでに無いくらい黒い感情が心の中に芽生えたのを感じ、


「一緒に、監禁し合いっこしましょうか」


 最大級の病みスマイルを寧子さんに向ける。


 たぶん、普通の女の子相手なら、こんなのは受け入れてもらえない。


 ……だけど。


「はい……♡ よろしくお願いします……♡♡♡」


 俺の恋人は、俺と一緒で、こんなにも病んでる。


 病んでいて、最高に可愛い。


 そんな女の子なんだ。






●○●○●○●






 私、物田扇寧ものだおうねの両親は、他のお父さんお母さんたちと違って、少し変わってる。


「ネコ……今日も可愛い……」

「でゅへへへぇ……にゃん……にゃぁぁん……♡ あーくん好き……しゅきでしゅ……♡♡♡」


 こんな感じで娘の目も気にせず、朝からベタベタしまくってる。


 こういうのが毎日だ。


 友達に聞いても、ここまでラブラブな親っていうのも他に無いらしい。


 前、実際にイチャつき具合を動画に収めて見せたら、普通に引かれた。


 怖いんですけど、って。


「お父さん。時間いいの? 今日、原稿の締め切り日なんでしょ?」


「はっ!!! そ、そうだった!!! すまん、扇寧!!! 助かる!!!」


 でも、おかしなくらいラブな両親だけど、私は別に引いたりしないし、気持ち悪いとは思わなかった。


「扇寧も可愛いな……♡ うぅぅ……お父さんの宝物……♡」


「……もう。うざいって。お母さんめちゃこっち見て睨んでるよー……?」


「あーくんあーくんあーくんあーくんあーくん……!!! ででで、でも、扇寧が可愛いのも確かだし……うぅぅぅ!!!」


 こんな感じで、二人まとめて私のことを愛してくれてる。


 絶対言葉にはしないけど、この雰囲気が嫌いじゃなかった。


 憧れみたいなところもある。


 将来、私も誰かとこんな風にラブになれたらいいのかなー、なんて。


「くっ……! じゃ、じゃあ、二人とも! お父さん、仕事してくるからな! 扇寧は学校で変な男子について行っちゃダメだぞ!? お母さん似で死ぬほど可愛いんだから!」


「はいはい」


「ネコちゃんも! 買い物に行く時は絶対俺に言うこと! 忙しくても仕事中断して一緒に行くから! 変な男が寄り付かないようにしないと!」


「わかった……♡ あーくんの仕事してる姿……部屋に付けてる監視カメラから眺めてるね……♡」


「オーケー! なら行ってくるよ! また後でね、ネコちゃん!」


「あーくん……♡」


 たかだか自室で執筆するだけなのにハグしてるし。


 ほんと、うちの両親って変だ。


 呆れながら、私も玄関を出る。


 そして、イヤホンを耳につけた。


「……成田君……♡」


 盗聴器から流れてくる音声を聴きながら、私は頬を緩ませるのだった。

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