第28話 ポトフと甘いヤンデレさん
自分で言うのもなんだが、割と熱心に寧子さんを看病したおかげか、彼女の熱は一日ほどでちゃんと下がった。
お風呂にも入れるようになったし、ご飯も普段通り食べられる。
俺は心の底から安堵し、同時になぜ風邪を引いてしまったのか、寧子さんと一緒に話の流れで考えた。
考えた結果、ほぼ全裸といっても差し支えないランジェリー姿で俺の帰りを待っていたあの日が原因だったという結論に行き着く。
それもそうだ。
季節は秋の暮れで、冬もそろそろ。
外にいれば、厚手のパーカーくらい着ていないと寒いレベル。
家の中だったとはいえ、暖房も点けてなかったし、絶対に寒かったはずだ。
なんだったら暖房点けてもよかったんですよ、と言っても、寧子さんは首を横に振り、
『電気代が上がっちゃいます……』
なんて返してくる始末。
確かに服を着てください、っていうのが一番だけど、どうしても寒いんなら暖房くらい点けたって構わない。
改めて言っておいた。
寒かったら暖房使ってくださいって。
とまあ、そんなこんなありつつ、寧子さんの風邪も治ったということで、俺たちはまたいつも通りの日常に戻る。
元気になり、寧子さんは鼻歌を唄いながらキッチンで夕飯を作ってくれてる。
今日のメニューはポトフだ。
二人で話し合って決めた。寒くなってきたし、最適だろう、と。
なんて素晴らしい同棲生活だろう。
これだけ見れば、きっと人は微笑ましいカップルの生活風景としか思わないはずだ。
……これだけを見れば。
「おい、寧子。腹減ってんだ。早く飯作れ(棒読み)」
「は、はいぃぃ、ご主人しゃまぁ……♡ もう少々お待ちをぉぉ……♡」
「うるせぇ、首輪付けて飼ってやってんのに口答えするな。ぐだぐだ言ってると後でお前の口にウインナーぶち込むぞこの卑しいメス犬が(棒読み)」
「よろしくお願いしましゅ……じゃ、じゃなくて、は、はぃぃ……♡ ごめんなしゃぃぃ……♡」
恍惚の声を上げながら、ジャラジャラと首輪を付けられた寧子さんが悦んでる。
俺はそんな彼女の後ろに立ち、覚えさせられた台本を暗唱しながら、軽い力で、あくまでも寧子さんの調理に危険が及ばない範囲で首輪を引っ張っていた。
心の底から思う。
いったい俺は何をさせられているのか、と。
「はぁ……はぁ……あーくん……最高のプレイですこれ……♡ 私今……すごく興奮してます……♡」
「あ、はい。お願いですから包丁で手を切らないでくださいね?」
「それは大丈夫です……♡ 大丈夫なのですが……」
「……?」
「私的には裸エプロンがよかったです……。裸エプロンで……首輪付けられて……奴隷みたいに引っ張られながらお料理をする……♡ それがあーくんに対する最大のご奉仕だと思ったのですが……」
確かに、今の彼女はもこもこしたパーカーに身を包む暖かスタイルだ。
俺は深々とため息をつく。
彼女の手元を見て、包丁から手を離した隙を見計らい、首輪を軽く引っ張った。
その瞬間、変態……ではなく、寧子さんは「きゃぅぅん♡」と絶対に他人に聞かせられないような声でトリップする。
やっぱり撤回する必要もない。変態で間違いないですこの人。
「あー……くん……♡ あーくんあーくんあーくんっ……♡ 寧子……嬉しいです……今のは台本に無かった……つまり……あーくんが自らのドS心に従った行為ということで……はぁはぁはぁ……お、おかしくなりそうなほど興奮しちゃいまひたぁ……♡」
「変態さん?」
「は、はいぃぃっ♡ 変態でしゅ♡ 変態でしゅ♡」
すごい勢いの反応速度。
背を向けていたところから振り返り、俺と至近距離で見つめ合う形になる寧子さん。
蕩け切った顔のため、俺もドキッとするが、そこはしっかりしないといけない。
小さく咳払いし、続けた。
「興奮するのもいいですけど、あなた昨日まで風邪引いてたんですからね? 自覚してください? 裸エプロンなんて俺が許しません」
「は、はぃぃ……♡ はぁはぁ……♡ 厳しいのと……優しいのが交互にきて……♡ ぅぅぅ……♡♡♡」
「全然厳しくないですし、優しくもないです。普通のことなんですから。風邪引いてた人に裸エプロンなんてさせる奴、この世界のどこにもいませんって」
「で、でも、私は……そういうのも大歓げぇひゃぅうぁ!?」
裏返りまくった声を上げ、体を硬直させる寧子さん。
俺は、そんな彼女の体を正面からギュッと抱き締めた。
かなり勇気を振り絞って、お仕置きのつもりで。
「ぅ……ぁ……? あ、あああああ……あーくん……!?」
「……罰です」
「っんぎゅ……♡♡♡」
変な声を出して、体をビクつかせる寧子さん。
ただ、さっきに比べれば格段に静かになった。
俺は続ける。
「厳しいことをやってあなたが興奮するなら、罰としてハグします。自分の体は大切にしてください。いいですか?」
「…………は…………はい………♡♡♡」
「今からは寒くなりますし、ランジェリー姿とかになるのも禁止です。わかりました?」
「…………は……ひ…………♡♡♡」
「わかってくれたなら大丈夫です」
バクつく心臓を必死に抑えつつ、俺は彼女をハグから解放する。
が、その瞬間だ。
「え……!?」
寧子さんは、腰砕けのようにその場でゆるゆると座り込み、鼻血を出しながら気絶していたのだった。
俺は叫んだ。
寧子さんの意識が戻ってくるよう、それこそ必死に。
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