第25話 体調不良
サ●ゼでの夕食を終え、俺と寧子さんは次なる目的地へと向かう。
お待ちかね、と言えば少し嫌な感じだが、監禁具、拘束具、その他諸々を見にド●キへ。
案の定、寧子さんはソワソワし、楽しみなご様子。
自分の身が脅かされそうになってるのに、なぜ彼女はこうもテンションが高いのか。
呆れながら俺は頰を引き攣らせるしかない。
まあ、そうは言いつつ、俺も俺で女子を公然と監禁しようとしてる時点で終わってる。
終わってる者同士、仲良く歩を進めた。
「おぉぉ……こ、ここがド●キ……生ド●キですね……!」
そして、到着。
店内に入ると、物々しい数の商品が俺たちを出迎えてくれる。
おもちゃに家電、ゲームにカードに食べ物類に洗剤など、多種多様な品揃え。
まさに何でも屋に相応しい場所だ。
「あっ……! 見てください、あーくん……! これ、女装用の衣装セットですよ……!」
寧子さんが指差す先には、確かに地雷ファッション一式の女装衣が並べられていた。
ご丁寧にブロンドヘアのウィッグもある。
すごいな、ド●キ……。
「……なんですか? もしかして、俺に女装して欲しいんですか……?」
問うと、寧子さんは真剣な表情で顎元に綺麗な指をやり、
「正直……それもアリかな、と思っています。あーくんドSお姉様概念……悪くない……!」
「『悪くない……!』じゃないですよ。キメ顔でしょうもないこと言わないでください。やりません、そんなの」
「こう見えて、私女の子もイけます……! あーくんなら、付いてようが付いてなかろうが関係ないです……!」
「はいはい。初情報ありがとうございます。ほんと何言ってるのかまったくわからないですけどね……」
「……一度だけ……無くしちゃいますか……?」
「いや、何を!?」
恐ろしいことを言い出すストーカーさんだった。
にへら、とヤバい光を瞳に灯しながら提案してくる彼女に、恐怖を覚える。
人間そんな万能じゃないのだ。
無くした部分は戻ってこない。
特にタマなんてなおさら。
「まったく……こんなの見に来たんじゃないんですからね? わかってますか?」
「わかってますよ……! 私をぐちゃぐちゃにするおもちゃを沢山買うんですよね……!」
だから、周りには人がいる。
嬉しそうにとんでもないことを口走らないで頂きたいのだが……まあ、その通りだ。
ぐちゃぐちゃにはしようと思ってないけども。
「そこまではしませんけどね……? そうは言っても、商品数が多すぎてそういう類の物がどこにあるのか……」
「私、探してきましょうか?」
相変わらず俺に密着したまま、可愛らしく手を上げる寧子さん。
ただ、俺は首を傾げた。
寧子さん一人で見つけてくるのか、と。
「任せてください……! 『ほら、探してこいいやらしいメス犬』と言って頂ければ、すぐに行ってきます……!」
「あの……ちょっと思ってたんですが、最近寧子さんメス犬キャラハマってるんですか? そればっか言いますけど」
「ハマってるというよりも……これが私の本性なんです……♡ 実家に飼い犬がいるのですが……性別がメスで……いつもお父さんに躾けられては嬉しそうにしてたのを間近で見てたんです……♡」
「は、はぁ……」
「それが羨ましくてたまらなくて……♡ さすがにお父さんにそういうことをされても興奮なんて一ミリもしませんが、いつか心に決めた方にされたら……き、気持ちいいだろうな……って……♡」
「なるほど。寧子さんは自分の飼ってる犬に憧れてた、と。小さい頃から」
「ひゃっ、ひゃい……♡ そ、そうなんです……♡ マロンという名前なのですが……♡」
なるほど。
今さら何も言うつもりはないけど、改めて思う。筋金入りだな、と。
「マロンは……従順な子です……お父さんに名前を呼ばれるだけで……自分の恥ずかしい部分をさらけ出して服従のポーズをして……♡」
「へぇー、そうなんですかー(棒読み)」
聞いてる風を装いながら、彼女の手を引いて移動。
多分こっちな気がする。
「私もそうありたいと常々思ってるんですよね……♡ どこであろうと……あーくんに名前を呼ばれるだけで……服従のポーズができる女の子に……♡」
「ふんふん。そうですかそうですか(棒読み)」
あれ、違ったか。
こっちかな?
「ただ、今の私はまだ恥じらいがあるんです……♡ 人の目を気にして……ちゃんとポーズがとれません……♡ もっともっと恥じらいを捨てて……あーくんに相応しいメス犬にならないと、と常々思ってるんです……♡」
「へぇー。それは頑張って欲しいですねー(棒読み)」
あ。あれだ。
「頑張ります……♡ まずはおうちの中で首輪を付けて……と、トイレも全部ペットシートにするところから……♡」
「はい、寧子さん。到着です。妄想はいいですんで、前方に注目してください。色々な監禁おもちゃです」
メス犬……ではなく、下半身をもじもじさせていた寧子さんは、俺の言葉にハッとして前を見やる。
「こ、これは……」
「すごい数ですよね。さすがド●キです」
「く、首輪もありゅ……♡」
「簡易的な檻もありますよ。……あ、でもこれペット用かな?」
「い、いいじゃないですか……! いいですいいです……! 私ここに入ってます……! さ、最高でしゅ……♡」
たぶん、全国どこを探しても、進んで檻の中に入りたがる女子大学生なんていないと思う。
「本当に変態ですね……」
思ったことを口にすると、彼女は恍惚の表情で、
「あ、ありがとうございましゅ……♡」
と感謝の言葉を口にした。
もはや無敵である。
罵倒も何も効かない。
ため息ものだ。
「勘弁してください寧子さん、いくらあなたが望んでも、さすがにこれに入れられないです。俺の良心が痛むというか……」
「そ、そんなぁ……」
本気で残念がってるから恐ろしい。
なんというか、本当にこれが彼女の本性なのだろうか。
俺が近くにいるから進化したんじゃないかと思うほどだ。
「値段も高いですしね……? 簡単に手錠とか、そういうのにしときましょ?」
「うぅぅ……じゃあ……ペットシート……。せめてペットシートが欲しいです……あーくん……」
おぉふ……。
やめてくれ……そんな悲しそうな顔してペットシートを懇願するのは……。
「そ、それもダメ。あなたは人間なんですから。せめてそういう尊厳だけは保っとかないと」
「ぇぐ……そんなぁそんなぁ……」
「な、泣かないでくださいよ……! っ……あぁ……もう……」
周りを確認し、恥ずかしいけど、俺は寧子さんの頭を優しく撫でてあげる。
しかし、なんで俺はペットシートを買えずに泣いている女の子を慰めているのか。
色々おかしいけど、寧子さんが泣くから仕方ない。
途中でハァハァ言って悦び始めたので、手を離す。
そしたら彼女は物欲しそうに、欲求不満そうに小さく悶え声を上げて、甘えたような視線を俺に送ってきた。
もっと撫でて、とでも言いたげ。
ダメだ。こんなところで温まってどうする。
「ていうか、寧子さんやっぱりおでこ熱くないですか? さっきから何度も訊いてますけど、本当に大丈夫です?」
「それは……はいっ……! 大丈夫です……!」
そうやってさっきも言ってた。
不安だな。
「とりあえず、買うものも見つけましたし、これ買って帰りましょうか」
「も、もういいんですか……?」
「はい。早いところ家に帰りましょう」
寧子さんは少し残念そうにしつつも、素直に俺について来てくれた。
一緒にレジへ行き、会計をする。
「では、合計で4380円ですねー」
店員さんに言われ、お金を出そうとしていた刹那だ。
とす、と左肩に重みを感じた。
「……!」
見れば、寧子さんがぐったりとしながら俺に体を預けてきている。
「ね、寧子さん……!?」
彼女は、辛そうにしながら呼吸を荒くさせていたのだった。
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