第22話 ランジェリーな寧子さん。
待ちに待った放課後。
五限目の授業を終えた俺は、すぐに大学を出て、自分の住むアパートへと帰った。
ポ●モンしててください、とは言っておいたものの、この三時間ほどの長い時を寧子さんがどうやって過ごしているのか、とてつもなく気になる。
せっかく監禁してるんだ。
本格的に檻と手錠と拘束具、それから目隠しとか用意しておいた方がいいかもしれない。
そうしたら変な不安に駆られることも無くなるし、寧子さんに家の中を物色されたり匂い嗅がれたり、あんなことやこんなこともされなくなるはず。
いや、そうだ。
いいことを思いついた。
今から行く中心街。
そこで監禁具をいくつか買おう。
色々店を見て回ってぶらぶらするだけでもいいけど、やっぱり明確な目的があるとまた違ってくる。
それがいい。
そうしよう。
ド●キもあるし、さっそく寧子さんに相談だ。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさいませ、ご主人様っ……!」
玄関扉を開けて部屋に入るや否や、俺の目の前に現れたのは、メス犬――いや、首輪を付けた半裸の女の子。
寧子さんが一人でハァハァしながら、携帯ゲーム機を片手にこっちを見つめてきていた。
俺はもう何も言えない。
無表情でただ固まるだけ。
人間、唐突に衝撃的なシーンを見せられるとこうなってしまうらしい。
いい勉強になった。
本当に寧子さんといると、勉強になることだらけだ。
次はどんなことを学ばせてくれるんだろう。ワクワクが止まらない。
「あぅ……♡ お、お帰りなさいませ、ごしゅじんしゃまっ……!」
「あーうん別に聞こえてるんで二回言わなくても大丈夫ですよその恰好寒いでしょ寒いですよね俺の服着てくださいねなんでこんな恰好してるんですか本当痴女なんですか本当」
飼い主に気付いて欲しい子犬みたいだ。
必死になってもう一度挨拶してくる寧子さんだけど、俺はもはや感情のない壊れたロボット。
口の端からよだれを垂らし、目の焦点も合わせずに彼女へ自分の上着を着せてあげる。
スケスケのランジェリー姿に首輪を付けた状態でいられれば、俺の理性が飛びかねない。
ただでさえ出るとこ出てて、引き締まるところ引き締まってる恐ろしいスタイルしてるんだから、本当に色々と自覚して欲しかった。
「……はぁ……とりあえずはこれで一安心か……」
「はわぁ……♡ この上着……あーくんの香りが凝縮されてます……ぐへへぇ……しゅごいぃぃ……っくしゅん!」
「っ~……!」
寧子さんのくしゃみを聞き、俺は速攻で奥の部屋から自前のスウェット類を持って来て、彼女へ渡した。上着ももう一枚追加である。
「もう……! すぐに温かくしてください……! 秋も深まってるこの時期になんて恰好してるんですか……!」
「えへへぇ……ごめんなさい。授業頑張ったあーくんを少しでも癒したいな、と思って」
「はぁ……。そのお心遣いはありがとうございます、ですけど……」
「首輪もこっそり家から自分で持って来てたんです……! これを付けて四つん這いになって……私は深夜の街をあーくんと一緒に……んくしゅっ!」
「はいはい。妄想も程々にしてくださいね。勝手に上着着せていきますよ? ティッシュもあるんで、鼻ちーんしてください?」
言って、俺は上着を着せてあげながらティッシュを何枚か取り、寧子さんの鼻に押し当ててあげる。
ちーん、とし、彼女はだらしない笑みを浮かべた。
「あへへぇ……しあわしぇぇ……♡ 私……この恰好で三宮まで行きましゅ……」
「お願いですからやめてください。上着てても下スッカスカでしょ? また俺のズボン貸しますんで、それ履いて行きましょう」
「スカートは……」
「ダメです。なんか寒そうにしてますし……いったいいつから半裸だったんですか?」
「……あーくんが授業に行ってからずっと……」
ため息ものだ。
季節を考えて欲しい。
「体調、大丈夫です? 熱っぽいとかだったら三宮はまた今度にしますよ?」
「大丈夫……! 大丈夫ですので、さっそく今から行きましょう……! 私、行きたいお店があるんです……!」
「行きたいお店……? 食べ物屋さんですか?」
問うも、寧子さんは首を横に振って、
「ド●キです……! 本格的な監禁具見たいな、と思いまして……!」
相変わらず妖しい光を瞳に浮かべて言う彼女だけど、その目はどこかキラキラしていた。
俺もつい笑ってしまった。
気が合うな、と思ったから。
●〇●〇●〇●
そんなこんなありながら、俺たちはアパートを出て、大学前のバス停へ辿り着く。
俺は山口出身で、寧子さんは愛媛出身だ。
互いに田舎育ちなことから、このバスに乗ったら確実にここへ行く、みたいな土地勘も知識もない。
不安になりながら時刻表を見たり、スマホで調べたり、大忙し。
普段からこういった公共交通機関を利用してたら、とっくの昔に慣れてるんだろうけど、いかんせん出不精なわけだ。
友達もいないし、わざわざ中心街の方まで行くこともない。バス賃も片道で五百円。往復で千円だ。
「あ、あーくん……? ここで待ってたらバス……来ますよね?」
「は、はい。たぶん来ると思います……たぶん……」
「あっ……! あれですか……!? あれですかね……!?」
「えっ……!? あ、いや、でも予定時間じゃないし……! で、でもちょっと待って……! あれ……なのか……?」
「な、並んでた人が何人か乗って行きますけど……? こ、これなんじゃ……?」
「ち、違う……! 違います……! これは全然違う場所へ行くやつです……! 三宮行きじゃないです……!」
「そ、そうなんですか……!? だ、だったら危なかった……! ごめんなさい……私騙しちゃうところでした……!」
「い、いや、俺も気を付けてちゃんと見ないと……!」
たかだか三宮行きのバスに乗るだけで何を悪戦苦闘しているのか。
恐らく俺たちの会話を聞いてる、他の並んでる人たちはそんな風に思ってたはずだ。
知識不足、経験不足ゆえ、申し訳ない……。
心の中で謝っていると、またバスが来た。
時間を見るに、どうやらあれっぽい。
どこ行きかをちゃんと見て……。
「あ、あれだ。あれです、寧子さん。あれに乗りましょう」
「よ、よかった……私たち……ちゃんとバスに乗れそうなんですね……?」
「そうみたいです。よく記憶に留めときます。ここと……ここを見たら三宮行きだって」
スマホの時刻表の見方。
それを学び、俺はまた一つレベルアップ。
社会性無さ過ぎだろ……と思われるかもだが、本当に田舎民だったんです。どうかお許し願いたい。
「じゃ、寧子さん乗りましょっか?」
「はいっ……!」
俺は自然と彼女の手を取り、バスの中へと入って行った。
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