第4話 信用と信頼

 そうして作戦を決行する為、僕は拠点へまっすぐ向かう。

 敵は直ぐにこっちに気づいた。


「待ってくれ、僕は旅の商人なんだ。 道すがら魔獣に襲われたんだ、保護をお願いしたい」


 男共はそういうと、親し気な表情を浮かべ「大変だったな」と案内してくれる。

 案内された先の近くには龍が眠っていた。

 龍は何かがおかしかった。 

 本来、龍は魔力に敏感な種族で近くに来た場合、気づかないはずはないのだ。

 それに加え、魔法使いが数人監視するように座っている。

 恐らくあれ等またはあれらの中の個人が龍を操っているのだろう。

 

「龍じゃないですか、大丈夫なんですか!?」


 驚いたように演技をして問いかけると、「あぁ、大丈夫魔獣使いのメンツが操ってるからよ」と男は簡単に答えてくれる。

 

「へえ、魔獣使いですか。 でも魔獣使いって龍程の高位な魔獣って使役出来ましたっけ?」

「知らないけど、その魔獣使いが言うには古代の遺物がどうとか言ってたな」


 なるほど、絡繰りはそこか。

 古代の遺物は名の通り昔に作られた魔道具で、C~Sまでありそれぞれに制作者名が彫られている。

 中でもシロと書かれた古代遺物はほとんどがSランクの代物で、国家一つを滅ぼすことができる代物と言われている。

 

「古代遺物ですか!? 噂でしか聞いたことないですが、実際に存在してたんですね!!」


 「ぜひとも見てみたい!!」と商人が言いそうなセリフで詰めると、どうやら今から話す商人が持っているそうだ。

 なるほど、今回の黒幕はこの商人というわけか。

 中に入ると、まるッとした体格の男が目を細めこちらを見る。


「なんじゃ? そいつは」

「お初にお目にかかります。 私は個人で商いを営んでおりますカイス・フィールと申します」

「それで、俺に何の用だ?」

「馬車が魔物に襲われてしまったので、こちらで保護してもらえないかなと思いまして」

「ほう、保護か。 因みに貴様は今資産はどのくらいある?」

「必死に逃げてきたので現在の資産は200という所です」

「ほう、ではここ以外でならどのくらいだ?」

「それは……」

「何じゃ? 答えられんのか?」


 渋るように僕は吐き出す。


「ざっと2000万といった所でしょうか」

「ほう、ではその8割で保護してやろう」


 八割、正気か!?


「誓約書を持ってきてくれ」


 正気だったわ、マジで来るってんな。

 ここまで保護した時の金を貪る奴は今まで見た事はない。

 今までのこういった潜入なら多くて半分程度で済んでいるのに加え、そんな額普通は飲めない。

 理由は商人として生命線が終わりだからだ。

 金がなければ商売が始めれない。

 基本的に500いや、個人なら1000は必要だからだ。


「ちょっと待ってください、流石にそれは……」

「嫌なら保護せん、さっさと出ていくがよい」


 ふ~ん、完全に悪党だな。

 

「大体、命を助けてもらうのに金を残そうなんて考えが理解に苦しむ……よし決めたぞ、やはりお前を奴隷にする」


 近づいて来てくれてありがとな。

 おかげで殺しやすくなったわ。

 商人であると信じたのだろう、彼は僕の前で笑いながらそう言った。

 彼が笑っているのを見て僕の彼に笑顔を向けると剣を作り出す。

 男は驚いた顔をしていたが既に剣を走らせ、男の命脈を絶った。

 すると、彼お抱えの兵士たちが僕に刃を向ける。

 

「やめときなよ、こいつみたいになるよ?」


 兵士は怖気づいて距離を取る。

 それでいい、無駄に命を散らす必要はないからね。

 任務完了、これでローナ達を脅かす脅威は崩れ去った。

 

「痛いじゃないか」


 振り返ると、先程確かにとどめを刺したはずの外道が起き上がり、付けた傷は完全に治っていた。

 それだけじゃなく、どんどん男が若返り僕より少し上の年代くらいに若返っていく。


「対価は払ってもらうぞ」


 そういうと、彼は手を翳すと高濃度の炎が放たれる。

 魔力の感じからして本気のクロナ並か。

 避けると、炎の攻撃が壁を貫き少し先まで抉るように焼き尽くしていた。

 これは分かる、龍の力だ。

 一撃でも喰らえば死ぬ。

 

「今のをよけるか、中々いい兵士だ」

「そりゃどうも!!」


 苦無を投げるが、先程とは違い動きが速い。

 苦無を受け止め握りつぶす。

 うわ、これは勝てねえわ。

 僕は急いで撤退を考える。

 この感じはクロナがいないと勝てない。


「逃げるか臆病者め」


 龍の力を借りてるやつが言うなよ!! 

 僕は穴の開いた壁から外に出ると、龍と複数の魔法使いが苦しそうにしていた。

 魔力を奪われているのだろう、魔法使いはともかく龍は可哀想だった。

 加えてこの力はそう長くない、そう思える。


「やめた、勝負しよう」


 僕特製の苦無を取り出す。

 男は再び手を翳す。

 解析、完了、生成、完了。

 同じ苦無が生成され、魔力を込め投げ込む。

 相手は先程と同じく魔力を生成した物と僕の苦無がぶつかると爆発する。

 この苦無は魔力の網を破壊する能力を持っている。

 クロナの開発した術式破壊の術式を付与した苦無なので、当たれば魔法は制御することが出来ず瓦解する。

 

「!?」


 爆発し、煙が出来上がる。

 あの爆発力だ、下手をすれば全身が吹き飛んでいるだろう。

 僕は急いで距離を取ると、所かまわず爆発を起こす。

 龍の方を見る。

 魔法使いは泡を吹き、龍は魔力切れになりそうなのかどんどん苦しそうだ。

 もう少しだからな。

 魔力が切れても龍は生命力が溢れるのでしばらくは何とかなると聞いたことがある。

 煙が晴れこっちに視線を向けると、再び手を翳す。

 僕は苦無を再び作り出し投げ込む。

 本来なら苦無と魔力がぶつかり爆発するが、爆発せずに彼の手に突き刺さった。

 魔力切れだ!!

 そう思い駆けだすと、彼に蹴りを入れる。

 生命力があれど、今のは確実に入ったので奴は気絶する。


「僕の粘り勝ちだ」


 意識を失った彼にそういうと、僕は彼に触れる。

 こいつを解析し、魔力の流れの場所を辿る。

 ……あった!!


 魔力の流れの違和感を辿ると、首輪が古代遺物の様だ。

 近くの突起物をおすと外れた。

 その後に男は先程の老けた大太りの老人の姿になる。

 これでこいつはもう力を行使できないので縛り上げ外に出ると、龍の方を見ると苦しそうだったので見てみると、命に別状はなさそうだ。

 そうして僕は皆の元へ戻り合流する。

 

 状況を説明すると「流石兄、やるね」っと誇らしげに言うので照れくさくなる。

 そうしてクロナ達と共に龍の元へ向かう。

 龍の事はクロナに任せると、怒鳴りつけるような汚らしい咆哮を上げる方へ向かった。





 

 

 

  


 


  


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