第5話
「貴様!! この俺が誰だかわかってるのか!?」
「さぁ? 只の遭難者じゃないか?」
周りの取り巻きは既にいなくなっている。
忠誠心などなく散り散りに逃げ去っていった。
仲間を連れて戻ってくるかと思ったが、杞憂だったようだ。
所詮は金だけの関係、誰も彼が死のうが関係ないのだ。
「誰か!! 金は弾む!! こいつを殺せ!!」
彼が叫ぶが既に誰もいないので、静寂という名の返答が返ってくる。
「何が目的だ!? 金、女か!?」
この期に及んでまだそんなことを言うか、つくづく僕の嫌いな男だ。
「お前が何者で、ここに来た目的を聞いてもいいかい?」
そういうと全てを彼は話した。
彼の名はデミウルス・アール、アール商会の商会長らしくここに来た目的は獣人であるローナ達の噂を聞きつけてきたらしい。
「アール商会か、中々大きな商会じゃないか。 でもおかしいな、アール商会はここに来るはずがないだろ?」
アール商会はそもそも王都で装飾品の競売の仲介業や小売業を主な収入源として行なっている。
だからここに来る理由はなんとなくだが、想像がつく。
元々、アール商会には黒い噂があった。
詳しくは知らないが、とにかく悪い噂が他より目立つ商会だ。
「そ、それは……」
案の定、 デミウルスは口どもると「別に答えないならそれでもいいよ」と言って苦無を取り出し彼の太ももに突き刺す。
「一つずつ刺していくだけだから」
「この森に獣人化した獣人がいると聞いて奴隷として捕獲しようとした!!」
「なるほどなるほど? それで?」
「貴族に売れば金になるんだ!! 君だって裏の家業の人間ならわかるだろ?」
食うか食われるかの弱肉強食、そう言いたいのだろう。
確かにこの世界はそうだ。
だけどね、相手を間違えちゃいけない。
「確かに、君のいう事は一理あるよね」
「だったら、ゆるし……」
「だけどさ、人の人生をめちゃくちゃにするって事はさ、されても文句はないだろう?」
因果応報、自分のやったことは帰ってくることは必ずある。
いい意味でも悪い意味でもね。
もう片方の太ももに苦無を突き刺すと、男は断末魔を上げる。
「か、金なら払ういくら、いくらほしいんだ!?」
息を荒らしながら、懇願するように僕に問いかける。
ここにきて更に金か、どうしようもないな。
どうせ今まで攫ってきた子達で稼いだ汚い金の癖に自分の物という彼に吐き気がしてきた。
とはいえ、受け取るのも悪くないか。
どうせこいつ持ってても碌な事にならないし、貰っておこう。
「いくら出せる?」
「一億、いや二億出そう!!」
儲かってんなぁ~。
とはいえ提示金額だ、もっと彼は持っているだろう。
「七億」
「……は?」
「七億で手をうとうじゃないか」
七という数字は縁起がいいから適当にその数字を提示すると、彼は青ざめる。
おっと、限界の数字かな?
「そんな金、用意できるわけないだろ!!」
とはいえこいつは商人だ、嘘をついている可能性もあるだろう。
「じゃあ、死ぬ?」
舐められたものだ、本気で殺さないと思われているのだから。
僕が笑顔で見つめると、「わかった!!」と言って頷く。
最初からそうすればいいのにと思った。
「あぁ、一つ言っとくと十億に値上げしといたから、よろしくね~。 用意できなかったら、わかるね?」
そういうと彼は何かを言おうとしたが、言葉を嚙殺したようにこちらを睨みつけながら頷いた。
これ以上言えば額が増え払えなくなるからだろう。
まぁ、この後お邪魔する予定だけどね。
「回復魔法は後でかけてやる、変な動きはするなよ」
そうして僕はクロナの元へ向かい、龍の状況を聞いた。
クロナ曰く、魔力渇望なだけですぐに動けるらしい。
流石は龍だ、生命力が半端じゃない。
「少し魔力分けた、後は勝手に回復すると思う」
「そうか、よかった」
龍には罪がないので、命に別状がないのならよかった。
とはいえ、この子が目覚めた時にちゃんと説明しないといけない。
恐らく、意識は暗闇の彼方だ、目が覚めた時の状況次第ではここら一帯を滅ぼしかねないので、慎重にならなければいけない。
そうして僕はクロナ達を先に帰すと、僕はデミウルスを解放し王都の方へ走らせる。
ここから先はこいつの運だ。
盗賊に出くわそうが、モンスターに喰われようが仕方ないだろう。
ま、戻っても金がなくなる地獄はかわらないけどね。
取り立てはきっちりする。
王国を使おうもんならほとぼりが冷めた頃に始末すればいい。
王都からの情報は常に王都の仲間から流れてくるし、アール商会の内部に村の仲間がいるので、あいつは逃げられない。
「兄、よかったの?」
「うん、金も手に入るし、一石二鳥だろ」
「ん、まぁ確かにお金は大事」
そう、お金は大事だ。
お金があれば人生の大抵の事は解決する。
汚いお金だろうが何だろうが、何かを解決する際には役に立つのだ。
「兄、僕新しい杖欲しい」
クロナの杖を見ると、三か月前に仕立てたというのにボロボロで今にも壊れそうだ。
それだけクロナは魔法の鍛錬を積んでいるという事だろう。
「今度、作っとくよ」
「兄大好き、ありがと」
取り敢えず素材をどうするか。
仕立ては僕が錬成魔法いつも作っているのだが、素材が重要だ。
ついこの前は30万の素材を使ったので、今回はもう一ランクの杖を仕立ててもいいだろう。
ついでにミリネやユナとなると専用の武具となれば失敗や替えなども考えて3000万と考えていいかもしれないな。
ミリネは「レイル……」っと言って「わ、私も……」っといった感じで僕を見てくるので、「ミリネやユナの分も作るから安心して」っというと彼女は嬉しそうにした。
「私も? いいの?」
「ユナはむしろまだないんだから当たり前だろ」
ユナにあった武器も作ろうと思っていたのでそう答えると、「えへへ」っと可愛らしく笑う。
自然に笑った彼女を見ると、嬉しくなる。
普段は無理して作り笑いをしている子がふとした瞬間に純真な笑顔を向けられると嬉しいのだ。
「じゃあ、帰ろうか」
僕らはそうしてその場を後にするのだった。
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