第3話 包囲網、突破します

 そうして進み続けると「兄ちゃん、ヤバいのが来るよ」とフェリスが言う。

 人ではない彼女らの獣の勘で、魔力量が多い奴がわかるらしい。

 そうして構えると、A級の翼竜が三匹現れる。

 この状況なら何とかなる。

 

「ミリネ、一匹を一人で対処できるか?」


 ミリネは不安そうだったが、少しの間をおいて「やるよ」と言ったので彼女に任せる。


「フェリスはどうだ? ひとりで行けそうか?」

「今の私じゃ勝てないわ。 エリスと一緒でお願い」


 自分の現状を冷静に把握しているのだろう。

 確実に勝てるのなら何でも構わない。

 二人の実力がわからない以上、彼女達の判断を尊重することにして「わかった」と答える。


「クロナ、ミリネの様子を見ながら援護してやってくれ」


 多分大丈夫だとは思うが、万が一の為クロナをつけておくことにした。

 そうして僕は翼竜に突っ込む。

 翼竜はこっちに視線を向けると、翼が光を放つ。

 翼竜お得意の風翼ふうよくだ。

 こいつの厄介な所は高速で走る風の刃で翼を羽ばたかせ、魔力で圧縮した羽が刃となって降り注いでくるのだ。 

 煙幕を投げる。

 煙は翼竜のいる前で撒かれると、僕は目一杯踏み込み空に飛ぶ。

 視線は煙の奥を見ている。

 

 ある大剣を頭に思い浮かべて作り出してそのまま翼竜に振り下ろすと、翼竜は真っ二つになり片付く。

 他の二人の方を見ると、二人とも既に倒していた。

 速度のあるミリネは余裕だとして二人で余裕とはフェリスとエリスも中々の実力者だ。


「まだいけそうか?」


 ミリネは「誰に言ってんの!!」っと元気よく答え、エリスとフェリスは小さくうなずく。

 ミリネはともかく、エリスとフェリスは頼もしくなったものだ。

 

「よし、行くよ」


 僕らが奥に進もうとすると、再び三匹の翼竜が現れる。

 

「待ってましたぁ~」

 

 エリスが彼女の左肩に手を当てそう言うと、フェリスが構える。

 

「「風突雷かざとつのいづち!!」」


 二人がそう唱え、彼女の剣に雷と風を纏うとフェリスが複数の突きを放つ。

 それは一気に翼竜だけでなくその回り全てが切り裂かれ隠れていた魔物達も切り裂いていった。


「魔力は大丈夫か?」

「うん、この程度ならあと10発は打てるよ!!」


 10発か、乱射は抑えた方がいいな。

 翼竜が五体以上で使うべきだろう。

 それ以外なら魔法を使わずとも突破できるだろう。

 

「風突雷だっけ?」

「うん、そうだよ」

「その技、使うのは翼竜が5匹以上の時に制限してくれないか?」

「なんで? 使った方が効率いいじゃん、ねぇ?」


 エリスの言葉にフェリスは「うん、そっちの方が効率いい」と言ってくる。

 確かに効率面はいいが、魔力切れの危険性があるため万が一の時には危険で、魔力を使いすぎた所に蜘蛛などが出た場合に足手纏いになる可能性があることを伝えると、「そっか、わかった」とエリスは納得してくれた。

 昔から物わかりが良く、素直でいい子だったのでわかってくれてよかった。

 そうして進んでいくと、僕の予想した通り翼竜五匹と蜘蛛3匹が現れる。

 エリスは「使っていいの?」と視線訴えかけてくるが、ここはエリス達ではなくクロナにまかせ一気に殲滅する。

 不満そうにこっちを見ているが、蜘蛛もいたのでこっちの方が効率が良かったのでそうしたまでだ。

 決して意地悪で使わせなかったわけじゃないからそんな目で見ないでほしい。

そうして歩いていくとエリスが「見張り台がある!!」っと言って奥の方を指差す。

 どれだけ目がいいんだよ。


「エリス、敵はどのくらいいる?」

「う~ん、ありゃ結構いるな~。 んん?」


 目を凝らし、向こうを見ると顔が青ざめる。


「逃げようレイル兄、あんなのに勝てっこないよ」


 ガタガタと震え足が止まるエリスを見て察する。

 このA級魔物が複数いる時点でわかっていた事だ。


「龍がいるんだな」


 僕の言葉に彼女は涙目で訴えかけるように見つめてくる。


「あんなの勝てっこないよ!! 龍なんて災厄の象徴じゃん!!」


 龍、僕らの世界ではSS級の国家存亡程度の超災厄級危険魔物だ。

 エリス達が言う事もわかる。

 だけど少しおかしい。

 本来の龍は聡明で、こちらから手を出さなければ襲ってこない温厚な魔物だ。

 誇り高く、気高い種族でこんな手下の魔物を送ってくるようなことはしない。

 孤軍殲滅例えるならそんな感じだろう。


「落ち着けって」

「落ち着けるわけないでしょ!! だって龍よ龍!! 勝てる勝てないの問題じゃない!!」


 龍を見て混乱しているエリスにフェリスは「落ち着く」といって口を塞いで羽交い絞めにしていた。

 気持ちが落ち着くというより、命が落ちつくじゃないか?


「少し考えがある」

「駄目、危険」

「まだ何も言ってないじゃないか」

「兄、一人で潜入するつもりでしょ?」


 そのつもりだが、何が駄目なのだろうか?

 元々僕は潜入が主の暗殺者だ。

 この中で一番効率的だと思うのだけど、何が駄目なのだろう?


「龍がいるなら危険、そんな死地に兄を送り込めない」


 クロナが僕が無理をしていると思っているのか、珍しく怒っている。


「僕の事を信用できないか?」

「信用してるけど、今回は分が悪すぎる。 一度下がるべき」

「ここは村から結構近いから、今のうちに叩くのもありだと思う」

「だったら総力戦で挑めばいい、無理して戦う必要ない」

 

 クロナの意見も確かにあるが、逆にこの場にいる時点で一気に叩く好機でもあるので、彼女の意見は慎重面で間違ってはいない。

 とはいえ、決めるのなら早いに越したことはない。


「心配してくれてありがとう。 だけどやらせてくれ、頼む」


 なんとなくだが、この状況で引いたら嫌な予感がするのだ。

 僕の言葉にミリネは「どうして?」と聞いてくるが、何んとなくなんて言えないので口を噤む

 それはそうだ、誰だって「嫌な予感がする」を言われば誰だって呆れるし、「何言ってんの? こいつ」ってなる。


「考えある?」

「一応、対応策はある」


 あるにはあるので間違っていない。

 最悪、龍が暴れても四人が安全に戻れるくらいには対策は練ってあるので危険でないといえば危険ではない。

 

「なら行っていい、貸しね」

「ありがとう、クロナ」

  

 「何してもらおうかなぁ~」っとミリネが言うと、「私もいい!?」っとエリスが手をびっしりとあげた。

 

「僕に出来る事ならだけど、それで良かったらいいよ」


 エリスは「よし!!」っと拳を握り、「いぇ~い!!」っとフェリスと手を合わた。

 なんか早まった気がする。

 ミリネやクロナならお願いは可愛いものだが、二人に関してはどんなお願いをするかわからないから、なんとなく早まった気がするのだ。


「兄、作戦はどうするの?」

「あぁ、それなんだが……」


 僕はそう言って作戦を説明した。


 

 



 


 

 

 




 


  


 

  


 

 

 

 

 


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